177 ギルド『パンプキン・サーカス』会議(4)
「ハイド様って、あの有名なクリオラの森のハイド様なんですか?」
ハイドの隣に座っていた猫族の女性が、少し憧れを抱いた瞳でハイドを見つめていた。
「・・・有名って言われてもな。俺が俺であることは変えられない。俺は、ただの傭兵ギルド『抗う心臓』というしがない傭兵ギルドのハイドさ。」
「「「カッコいいー!」」」
ハイドについていた女性4人が声を揃えた。
「失礼致します。御注文を宜しいでしょうか?」
ハイドのテーブルに白ウサギ族の男性が注文を取りに来た。
「『ガジールの涙』をストレートで頼む。」
『ガジールの涙』とは、キワール帝国の有名なお酒で、ガジール山脈の雪解け水を使った高級酒として知られていた。
「私達も、頼んでいいですか?」
「・・・好きなお酒を頼んでいいよ。」
ハイド、最高の笑顔であった。
「ありがとうございます。」
女性達は、それぞれ果実酒を頼んだ。どの果実酒も大した金額の物ではなかった。
この女性の隠れた気遣いにハイドはさらに好感を覚えた。
それから、しばらくの間、ハイドの至福の時は続いた。
ハイドが完全に酔っ払った頃、注文を取りに来たのと同じ白ウサギ族の男性が近づいて来た。
「御話し中、失礼致します。当店のナンバー1が、ハイド様に御挨拶させていただきたいということなのですが、よろしいでしょうか?」
「・・・ああ、構わないぜ。」
ハイドの周りに座っていた女性4人が立ち上がり、去っていく。そして、すぐに、ナンバー1の女性が現れた。
その女性は、身長は150cm程度だが、綺麗な金髪をしており、顔も整っていた。
ただ、やや年齢が若く見え、美女というよりは、『美少女』と言う方がピッタリとくる感じだった。
「はじめまして、ハイド様。私、ミリアーナと申します。本日は、当店にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。当店のナンバー1として御挨拶に伺わせていただきました。」
ミリアーナは、優雅な動きで頭を下げた。
ハイドは、どちらかといえば、スタイルのいい方がタイプだったが、その動きの滑らかさに感心し、このナンバー1に興味が沸いた。
そして、ナンバー1に席を勧めた。
「・・・座りなよ。」
「ありがとうございます。」
ミリアーナは、ハイドのすぐ横に座った。ハイドにミリアーナからわずかに上品な香りが漂ってきた。その香りもハイドの好きな匂いだった。
「飲み物を頼んでもよろしいですか?」
ミリアーナの可憐な声に、ハイドは先ほどと同じように答えた。
「いいぜ。好きな物を頼みなよ。」
ハイドは語尾にウィンクをつけた。何度でも言おう、語尾にウィンクをつけたのだ。
「・・・きも。」
「えっ?」
ハイドは、一瞬、何か聞こえた気がして隣のミリアーナを見たが、ミリアーナは「何か、私の顔についていますか?」と笑みを浮かべていた。
「・・・いや、聞き間違いだったみたいだ。・・・君の顔には、男達の視線が張り付いているよ・・美女の特権だね。」
再び、ハイドは語尾にウィンクをつけた。
その瞬間、ミリアーナの全身がブルブルと震えたようにハイドには見えた。
「・・・どうかしたの?」
「いえ、ちょっと、寒気がして。」
ミリアーナは相変わらず笑みを浮かべていた。
「それでは、私は、『ロイヤルウエディング』をボトルで。」
「・・・えっ?」
この日、初めてハイドの表情が固まった。
それもそのはずだった。この『ロイヤルウエディング』とは、最高級酒の中でもさらに最高級であり、それこそ王族の結婚式で出てくるようなお酒であり、当然その値段もとんでもない金額なのだ。
「あら?何でもって言われたので、私の一番好きなお酒を頼んだのですが・・・駄目でしたか?」
ミリアーナが、悲しげに俯いた。
「い、いや、全然、平気さ。」
ハイドの笑顔は、どこかぎこちなかった。
「よかった。」
ミリアーナの顔に笑顔が広がる。
「喜んでくれて俺もうれしいよ。」
ハイドは普通の笑顔に戻った。
「で、それを3本と・・・」
「えっ?」
「駄目でした?」
「・・へ、平気さ。」
「あと、旬の果物大盛りで。」
「・・・・。」
もはや、ハイドは声さえ出なかった。
「やさしいんですね、ハイド様は。・・・好きになりそう。」
「・・・そ、そうかい。困ったな・・・俺に惚れると怪我をするぜ。」
どうやら、ハイドは立ち直ったらしい・・・開き直りかもしれないが。
そこから、ハイドは元気を取り戻し、自分のことを語っていく。
「そうなんですか。ハイド様は、このエストで今一番有名な『パンプキン・サーカス』の関係者でもあるんですね。」
「・・・一応な。まったく、アイツら俺がいないと何もできねぇーからな。手がかかってしょうがねぇー。」
「誰が一番手がかかりますか?」
「それは、当然、ミサキって奴さ。アイツ、俺の言う事しか聞かねぇーからな。この間も、あんまり無茶するもんだから、俺が叱り飛ばしたばかりさ。」
「・・・凄いんですね、ハイド様は。」
「まぁーな。」
ミリアーナの声が、幾分低くなったのだが、それに酔っているハイドは気がつかなかった。
今日5/13(土)はもう少し投稿します。