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174 ギルド『パンプキン・サーカス』会議(1)


地底湖の城から帰ってきた夜、ヒロは、自分の部屋で明日から久しぶりに狩りに行こうと準備していた。



「俺は、明日からしばらく狩りに行こうと思うけど、ミュミュはどうする?」



ヒロの部屋にはベッドが2つ置いてあり、そのひとつには、以前のエストの宿屋と同様にミュミュが寝ていた。



いい加減、新しいエストには家も余っているので、自分の家を借りればいいと思うのだが、「ミュミュは、ヒロさんと同じ部屋でいいです。」と勝手に同居しているのだ。



そう言うなら仕方ないかとヒロも特に追い出したりせずにいるのだが、女性にモテたことの無いヒロは、ミュミュにそう言われて悪い気はしていなかった。



むしろ、ちょっとドキドキしていた。



しかし、ミュミュはヒロさんと同じ部屋でいいです、という言葉の前に、逃げられたらいけないので、がつくとは恋愛経験の少ないヒロに想像しろというのは、酷な話だろう。



だが、安心してくれ、ヒロ。恋愛の90%はお互いの勘違いから始まるのだ。(2017年度国勢調査より抜粋【当然、嘘!】)



「当然、ミュミュも行きますよ。」



ベッドに寝転んだままでミュミュが答えた。



「じゃあ、明日、朝6時に出発するからね。」



「わかったです。」



こうして、ヒロとミュミュは、翌朝に備え、その日は早くに休んだ。



そして、翌朝、早朝4時に事件が起こった。



音もせず、ゆっくりと開くヒロの部屋のドア。



忍び込む人影。



その人影は、ヒロの寝ているベッドまで行くと、ゆっくりとヒロの顔へと近づいていった。



そして、「ヒロリン、おはよう!」と大きな声で熟睡していたヒロに声をかけた。



「ふぁ!・・・・・・・・・えっ、ミサキさん?」



何度も目を擦りながら、目の前の人物を確認するヒロ。そんなヒロの状態など気にした様子もなく、ヒロの掛け布団を捲って、ヒロを肩に担ぎ上げると、そのまま、ヒロを連れて部屋を出て行った。



「そうはさせないです!ミュミュのお財布を返してくださいです!」



ヒロが、連れ去られるのを飛び起きたミュミュが追いかけていった。








「というわけで、この世界における記念すべき第1回のギルド『パンプキン・サーカス』会議を開催したいと思います。」



パチパチパチとニーナだけがミサキの宣言に拍手をしていた。



今居る場所は、ミサキが、エストを造った時に特別製で建てたギルド『パンプキン・サーカス』の本部である。



地下2階、地上3階の建物である。そして、建物の壁には、ギルド『パンプキン・サーカス』のギルド旗の模様が大きく描かれていた。



その中の地下2階にある会議室、通称『ヒソヒソ話の間』にヒロは連れて来られていた。



ヒロの現在の状況は、椅子にロープでグルグル巻きにされていた。



ヒロの隣は、先ほどドルトが用意した食事を食べているミュミュ。その隣は、ヒロと同じように椅子にグルグル巻きにされたアオイ。



アオイの隣は、黒ウサギ族族長のシリル。シリルの隣が、椅子の上にエルダ、さらにエルダの上にラインベルトを乗せてグルグル巻きにされていた。



その隣はルーベル爺。ルーベル爺の隣が円卓にうつぶせたまま動かないギ・ガ・ゾルド、同じく円卓にうつぶせたまま動かないハイド、そして、ねずみ族族長トリスを抱えたニーナの順で円卓に座っていた。



アオイは、首をカクンッカクンッさせながら、まだ寝ていたが、同じロープでグルグル巻きにされていても、ヒロとエルダとラインベルトは起きていた。



「クルーアをどうぞ。」



ドルトが暖かいクルーアをヒロの前に置いた。



「・・・ドルトさん、このロープ取ってもらえませんか?でないと、クルーアも飲めませんし。」



「申し訳御座いません、ヒロ様。ミサキ様に禁じられておりますので。」



ドルトはヒロに丁寧に頭を下げてから、他の者にもクルーアを置いていった。



「ギルマス!いや、ミサキ!これは一体どういうつもりだ!このロープを解け!」



「そうですよ。とりあえず、このロープを解いてもらえませんか?最悪、ロープで縛ってもいいので、せめてエルダと別々にしてください。」



エルダは、ミサキに向かって怒っているが、ラインベルトの言葉を聞いて、一瞬、ミサキに向けて首を横に振った。



「ほどいてあげてもいいんだけど、ぶっちゃけ、そのロープがいくら特別製だからといっても、エルダの力なら、力技で千切れると思うんだけど?」



ミサキの言葉にラインベルトが、驚いたような顔でエルダを見た。



「・・・・そ、そんなはずはない。さっきから、一生懸命・・・あっそうだ!まだ寝起きだから力がでないのかもしれない。くっ、私としたことが。だが、そういうわけなら仕方が無い。しばらく、このまま我慢することにしよう。な、ラインベルト。」



「・・・エルダ、まさか。」



「何を疑っているんだ、ラインベルト。私がラインベルトに嘘をつくと思うのか?ただ、考えて見て欲しい。今のこの状況は2人の信頼関係を試されている場だと思えないだろうか?そう思ってしまえば、むしろ、私は、この困難を楽しむ余裕さえでてきたぞ。」



エルダはいつも通りだった。



「・・・もういいですから、早く話を進めてください。俺、今日から久しぶりに狩りに行こうと思ってるんですから。」



ヒロは諦めの極致でさっさとこの訳のわからない会を終了させてしまうことが、この状況を抜け出す最速だと判断した。



「それでは、ギルドメンバーの皆さんに報告があります。まず、こちらの黒ウサギ族の経営する黒ウサギ薬局がはれてギルド『パンプキン・サーカス』の下部組織に入ることになりました。はい、拍手。」



パチパチパチとニーナ、ドルトが拍手をした。



その拍手に応え、黒ウサギ族族長のシリルが立ち上がり、一礼した。



アオイは寝たままである。



「という関係上、アオイは元々、『パンプキン・サーカス』のメンバーだけど、この黒ウサギ族族長のシリルも黒ウサギ薬局の社長兼『パンプキン・サーカス』のメンバーになります。文句のある人は挙手をして、私にかかってきなさい。本気で殺しにかかりますから。」



ミサキが一同を見わたすが、誰も手を挙げなかった、というかヒロとミサキとエルダとラインベルトは物理的に挙げられなかったが。



「あの~、すいません。僕は、『パンプキン・サーカス』とはまったく関係ないと思うのですが?」



ラインベルトは気まずそうにミサキへと意見した。



「ふっ、安心してエルダの愛玩動物の少年。」



「あ、愛玩動物!?」



ラインベルトが、驚いてエルダを見た。



「異議を申し立てるぞ、ミサキ。ラインベルトは私の愛玩動物ではなく、むしろ、私がラインベルトの愛玩動物というか、ラインベルトは私の様々な意味での御主人様というか、まあ、いわゆるひとつの肉体関係だ。」



「・・・最後に直接的な表現きましたね。」



ヒロは相変わらずなエルダに呆れていた。



ラインベルトは、必死に「違いますよ!皆さん、違いますからね!」と必死の形相で否定していた。



何故かエルダは満足げな表情になっていた。その頬は赤くなり、まるで、今にも湯気を噴きそうだった。



「エ、エルダ、何か僕の背中が、もの凄く熱いんだけど、エルダ、熱でもあるんじゃないの?あっ、そうか!だから、変なこと言い出したのか!そうだよね、エルダ?」



「安心しろ、ラインベルト。私は、いつものように想像して興奮しているだけだ。」



当然の如く言い切るエルダ。その表情に曇りは一点もなかった。



「そんなラインベルトは、今回、見事にギルド『パンプキン・サーカス』の名誉顧問就任と決まりました。はい、拍手。」



パチパチパチッとニーナとドルトだけが拍手した。



「め、名誉顧問ですか?」



「そうーでーす。うれしいでしょ?あのギルド『パンプキン・サーカス』の名誉顧問だよ?うれしくないはずないよね?・・・ね?」



最後の「ねっ」と言った時のミサキの表情は、笑ってはいたが、どこか恐怖を含んだ笑顔であり、いくら領主であるとはいえ、12歳のラインベルトに拒否することはできなかった。



「は・・・はい。」



「はい。本人も涙を流しながら、喜んでくれています。はい、拍手。」



ニーナは飽きたのだろう、ドルトだけが拍手した。



確かにラインベルトの目には、微妙に涙らしきモノが浮かんでいたが、少なくともうれし涙でないことは確かだった。



「はいっ!」



その時、大きな声で手を挙げた者がいた。



「えっと、あなたは確か・・・ヒロリンのところのミュミュだっけ?」



ミサキは、ひと通りミュミュの全身に視線を送った後に、ミュミュの豊満な胸に視線を留めていた。



「・・・どこで判断してるんですか、どこで。」



ヒロは呆れていた。



「ミュミュも言いたい事があるです。我慢できないです。納得できないです。」



ミュミュは、鼻息でも出そうな勢いだ。



「何?獣人の意見は尊重するわよ、私は。」



「おかわりです。全然足りないです。さらに倍々で御願いするです。」



「・・・かしこまりました。」



ドルトがミュミュのお代わりを持って来るために部屋を出て行った。



「あの~、それより、ミサキさん、さっきからハイドさんとギ・ガ・ゾルドさんが、机にうつぶせたまま動かないんですけど、何かあったんですか?」



ヒロは、会議の最初から円卓にうつぶせたまま動かないハイドとギ・ガ・ゾルドのことが気になっていた。



ヒロが自分達の名前を言ったのに気付いたのだろう。ハイドとギ・ガ・ゾルドが、ゆっくりと右手だけ挙げて応えた。



「・・・そう、ヒロリン、知りたいのか・・・。」



真剣な口調になり、後ろを向くミサキ。その背中はどこか哀愁が漂って・・・はいなかった。



「それでは、教えてあげよう。あの悲劇を・・・。」



こうして、ミサキが、3日前からの出来事を語ってくれた。



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