172 地底湖の吸血鬼城(7)
「ま、まさか、こ、これは・・・な・・なんといううまい酒だ!」
酒を飲んでいるのは、先ほどまでヒロと死闘を繰り広げていた漆黒の騎士だった。
すでに兜だけはとっており、その顔が見えていた。
・・・といっても、骨しかないが。見事なまでの骸骨だが。
「おー!わかるんだべか、お主。」
漆黒の騎士の隣に座っていたドワーフの一人が漆黒の騎士の肩をドカドカと叩いている。
「当たり前だ!このアラザイル、酒に対しては、ちとうるさいぞ。」
「その前に、なんで骨のくせに味がわかるんだよ。」というヒロの呟きは無視されていた。
現在いるのは、城の外の地底湖の畔であり、漆黒の騎士アラザイルが壊した城の修復のため、外に出てきているのだ。
城の修復は、ヒロの魔法『城創造 修復』で勝手に直っていっている。
「それにしても、あなた、本当にあのアラザイル・イグザ・ドラゴンキラー・アダマンタイトなの?」
ジュリが漆黒の騎士アラザイルにしだれかかりながら、甘い声で聞いた。
「いかにも!我は、悲劇の騎士アラザイル・イグザ・ドラゴンキラー・アダマンタイトであるぞ、メス豚よ。」
「メ、メス豚って・・・。」
ジュリの動きが止まった。その顔は段々と赤くなっていっている。
「おー!あんなところに美女がおるではないか!」
アラザイルの指差す方向をヒロは見たが、そこには、人間は誰もいなかった。
「・・・アラザイルさん、どこを指しているんですか?」
「何を言っておる。ほら、そこだ、そこ。あんな美女に気付かないとは、お主、実は童貞であろう?」
「・・・違います。」
言い切るヒロ。そのヒロの頭を叩くジュリ。
「何、平気な顔で嘘を言い切っているのよ。」
「嘘ではありません。そういう経験は2次元相手に何度も想像済みです。」
ヒロ、悲しい男だった。
「おい、ヒロ、あそこの美女を呼んで来てくれないか?」
「だから、どこに美女がいるんですか?」
「だから、ほら、あそこの綺麗で輝くような骨をした美女だ。」
アラザイルの言葉に、一同目が点になった。
「もしかして・・・スケルトンのことですか?」
「ああ、そうだ。あの骨の輝き、まさに一目惚れだ。」
ヒロは、仕方なく、アラザイルがいったスケルトンにアラザイルのお酌をするように命令した。
命令されたスケルトンは、素直に従い、アラザイルへお酌を始めた。
すでに、アラザイルの側を離れたジュリが呆れた様子でその光景を見ていた。
元々、この地底湖は、地底湖ではなく、火竜の巣だったらしい。
そして、その火竜とアラザイルは友人同士であったそうだ。
国で英雄と言われていたアラザイルだが、その人生は順風満帆ですでに王女との結婚も決まっていたらしい。
だが、結婚前に王女の部屋に夜、忍び込もうとしたせいで、逆に犯罪者として国に追われる身となったそうだ。
この話を聞いた時、「・・・やりそうね。」というジュリの言葉にヒロも同意した。
しかし、アラザイルが言うには、王女を含めたアラザイルを嫌う貴族の謀略であったらしい。
「んっ?王女とは結婚が決まっていたんじゃないんですか?」
ヒロの疑問に、アラザイルは、結婚を決めたのは国王で、王女は乗り気でなかったそうだ。
「英雄との結婚なんて女性の憧れじゃないの?」
ジュリの言葉にアラザイルは非常に悲しい顔のような気がする・・・たぶんそういう雰囲気になっているとヒロは判断した。骸骨なのでわからないが。
「・・・我、不細工なり・・・。」
「あっ・・・なんかごめんなさい。」
ヒロは驚愕した。あのジュリがまさか謝るとは思わなかったのだ。
「・・・何か、悪い物でも食べました?」
「私でも謝ることもあるわよ。」
「謝らないために、魔王の偽装工作をしようとしているのに?」
「当たり前でしょ?謝らないための努力なら、私は惜しまないわよ。」
ジュリ、最低であった。
「でも、今は、骸骨だから、いいじゃないですか。イケメンも不細工も骨になればわかりませんよ。」
ヒロ、何気に酷いことをさらりと言い切った。
「そうなのだ。この姿になり、我は初めて幸せを感じた・・・。」
「・・・なんか、悲しくなる話ね。」
「ですね。」
ジュリとヒロは顔を見合わせた。
「んっ?今は幸せを感じているって話だぞ?」
「いや、気にしないで。これ以上は泣いちゃうから。」
ジュリの手には、すでにハンカチが握られていた。
その後、国の兵士達に追われながら、この火竜の巣にたどり着いたアラザイルは、しばらくここで身を隠していたらしい。
そして、ある者がここに現れ、火竜とともに戦ったが、その者に破れ、火竜とともにここで朽ち果てていたそうだ。
その時の戦いによって出来たくぼみに長い年月をかけて水が溜まり、地底湖になったようだ。
で、次にアラザイルの意識が戻ったのは、ヒロと戦っている最中の倒れた時だったそうだ。
「たぶん、ヒロの吸血鬼魔法の魔力が悪い影響を与えちゃったんじゃないかと思うんだけど。」
「どういうことですか?」
「今はあがってないけど、最初、アラザイルの体から漆黒の禍々しいオーラのようなモノがあがっていたでしょ。あれ、多分、ヒロの吸血鬼の時の魔力じゃない?」
「・・・なるほど、で?」
「あのヒロの魔力が何らかの作用を及ぼして、目覚めたんじゃないかと思うの。それで、ヒロから聞いた様子だと、『魔剣ルーチェ・エレクシオン』は光系の魔剣だから、その光の力によって自らヒロの魔力を浄化してこういう状態になってしまったんじゃないの?」
「それで、アラザイルさんは、スケルトンなんですか?」
「う~ん、はっきりとは言えないけど、違うと思うわ。さっき、アラザイルに体の中を見せてもらったのだけど、アラザイルの鎧の中って、骨しかないのよ。で、その肋骨の中の心臓があった位置に・・・たぶん、火竜の魔石がはまっているの。そして、その魔石の中に人の心臓らしき物が見えるのよ。どういう状況でそういうことになったのかはわからないけど、たぶん、火竜が死ぬ間際にアラザイルに何か魔法をかけたんじゃないかと思うんだけど・・・。」
「結果、アラザイルさんは何になるんですか?」
「・・・そこなんだけどね・・・アラザイルの兜は取れるんだけど、体の鎧は取れないの。アラザイル、ちょっと、さっきみたいにお腹の中みせて。」
「んっ、いいぞ。」
アラザイルは応えると、パカッと鎧のお腹と胸の部分が開いた。
「この鎧って・・・こういう風に前が開くんでしたっけ?」
「いや、昔は開かなかったが、今は、ある程度、鎧が我の思った通りに変形してくれるのだ。兜もかぶるとある程度変形できるぞ。」
「で、ここの部分を見て、ヒロ。」
ヒロが心臓部分にある魔石を見ると、細い赤い線が魔石より出ていて、鎧や骨と繋がっていた。
「なるほど・・・アラザイルさんは、骨や鎧が魔石と繋がっている魔物・・・つまり・・・何ですか?」
「知らないわよ。この心臓を含んだ赤い魔石が動力源だろうけど、なぜ、アラザイルの意識を持っているのかもわからないし、そんな事例聞いたことないもの。リビングアーマーみたいな、ドラゴンのように火を吐ける、光の魔力を扱っても問題ないスケルトンとしか言い様がないわね。」
「あっ!俺、今、気付いたんですけど・・・もしかして、アラザイルさん、竜の魔石で動いているんですから、竜の一種じゃないんですか?火も吐きますし。」
「・・・・・・・そうかもしれないわ。そもそも、スケルトンやリビングアーマーなら、ヒロの闇の魔力が浄化された時に動かなくなっているはずだから。まあ、推測だけで実際に何かはわからないわ。アラザイルはアラザイルでいいじゃない。」
「・・・そうですね。」
こうして、ヒロとジュリは無理やり納得していた。
本日より、しばらくは、仕事が忙しくなりますので、更新は1日1回か2日に1回になります。
余裕が出来た時は多めに投稿するかもしれません。