171 地底湖の吸血鬼城(6)
「ジュリ様、やりましたよ!」
ヒロは、ジュリの方を向いて、ジュリに手を上げた。さすがにジュリでも褒めてくれるだろうと思ったのだ。
しかし、ジュリから返って来た言葉は、ヒロを褒める言葉ではなかった。
「馬鹿、ヒロ!危ない!」
ほとんど反射的だった。
ヒロは、寒気を感じ、咄嗟に前方へ転げ、すぐに体勢を整えて振り返った。
そこには、先ほどまでヒロが居た場所に大剣を振り下ろした漆黒の騎士がいた。
もう少し、ヒロの反応が遅ければ、ヒロは頭からお尻まで真っ二つにされていたことだろう。
しかも、漆黒の騎士の目には、ヒロのナイフが突き刺さったままなのだ。
すぐさまヒロは、漆黒の騎士から距離を取った。
「ジュリ様!」
「何、ヒロ?」
「気持ちが悪いんで、早退していいですかね?」
「・・・うん。気持ちはわかるわ、ヒロ。でも、却下よ。」
兜の目の部分にナイフが刺さったままの姿は、少し気持ち悪かった。
「・・・だったら、あれ、どうやったら倒せるか教えてもらえますか?」
「OK!ちょっと待ってて。今、エストに戻って調べてくるから。」
ジュリはヒロに右手をシュタッと上げて、去って行った。
「・・・えっ?俺、ジュリ様が、エストに行って帰ってくるまで、あれの相手するの?」
ヒロは、めちゃくちゃ嫌そうな顔で漆黒の騎士を見た。
すると、漆黒の騎士の持っている大剣の刀身の根元についていた魔石が微妙に光を発し始めた。
そして、その光が漆黒の騎士の持っていた大剣の刀身を葉脈のように広がっていく。
そして、段々と光は強くなり、眩い光となった瞬間、漆黒の騎士は、「ギャアアアアアアー!」という雄叫びを上げながら、大剣を振り下ろした。
漆黒の騎士が振り下ろした大剣からもの凄い光の奔流がヒロに向かって放たれた。
「えっ?」
ヒロは今回は決して油断していたわけでも、余所見をしていたわけでもなかった。それでも、本当にギリギリだった。
右に全速力で避けたヒロの左腕は酷いやけどを負っていた。
わずかにかすっただけでこの威力だった。
しかし、放った漆黒の騎士も片膝をつき、鎧の隙間から先ほどとは違う、煙のようなモノが上がっていた。
ここに来て、ヒロはようやく決心した。
この漆黒の騎士を全力で倒すということを。
ヒロは、『とめどない強欲の指輪』から『純血の乙女』を取り出すとすぐさま一瓶飲み干した。
ヒロの姿は白い髪、深紅の瞳に変わる。
「・・・・ア・・・ア・・アハハハハハハハハハハハ!これは何と楽しいことでしょう!まさにエンターテイメント!私、非常に感動しております。漆黒の騎士さん、あなたはまさに素晴らしい。その素晴らしいあなたに免じて、私が本気で相手をして差し上げましょう。」
ヒロの体から、漆黒の騎士よりもさらに禍々しい暗黒のオーラが溢れ出した。
その深紅の瞳も強く不気味に輝いていた。
漆黒の騎士は、ヒロのその姿を見て立ち上げると、「ギャアアアアアアアアアー!」と雄叫びを上げた。
そして、漆黒の騎士の持っていた大剣が再び、輝き始めた。先ほどとは比べ物にならない光の輝きだった。
漆黒の騎士の持つ大剣からもの凄い光の柱が上がり、漆黒の騎士を包み込んだ。
「これはこれは、素晴らしい光景ですね。」
その光の柱に呼応するように、ヒロの体からも暗黒の柱が上がり、ヒロを包み込んだ。
「それでは、光と闇、どちらが強いのか決着をつけるとしましょうか。」
ヒロの顔が、暗黒の中で不気味にゆがんで見えた。
「いきますよ。この魔法を喰らって逝きなさい。闇系最大魔・・・・・・んっ?」
ヒロの目の前で、光が急速に萎んでいき、そして、光が消えた後には、漆黒の騎士が地面に倒れている姿があった。
「・・・・・・・これは・・・なんというか・・・欲求不満になりますね・・・。」
ヒロは、呆然とその場に立ち尽くしていた。