168 地底湖の吸血鬼城(3)
「「「おー。」」」
今、ヒロとガドンガルとジュリは、どうやってミュミュがヒカリゴケを採ったのかを見せてもらっていた。
地底湖のある洞窟の上部にあるため、普通では絶対に届かないのに、ミュミュが先ほどヒカリゴケを食べていたのを疑問に思ったからだ。
まさか、魔法かとも思っていたのだが、見せてもらうと何の事はない、力技だった。ただ、思いっきりジャンプしただけなのだ。
ミュミュは、屈んで力をを溜めると「よっ。」と言って、ジャンプした。
すると、ミュミュは凄い勢いで上空に上がり、そして、ヒカリゴケを採り、そのまま落ちてきて、見事に着地した。
まず、ヒロの中の常識では10m以上飛び上がるのも信じられないし、さらに、そこから落ちてきて怪我もなく着地できることも信じられなかった。
白ウサギ族自体がこういう種族なのかと思い、ジュリとガドンガルを見たが、2人共、信じられないモノを見たという表情をしていたので、違うらしいというのがわかった。
「この子、何なの?」
「・・・信じられん・・・。」
「んっ?ミュミュはミュミュですよ。ちょっとジャンプ力があって、ちょっと力のある普通の白ウサギ族ですよ?」
まったくちょっとではないのだが、本人は気付いてないらしかった。
ヒロは、あの食事の量とこの運動能力から考えて、たぶん、筋肉に秘密があると推測した。
確か、古代種とかなんとか言ったような気がしたが、ヒロも詳しく知っているわけでないので答えは出なかった。
「「「な、なんだべ、これはー!!!」」」
地底湖にドワーフ達の驚きの声が響いた。
ヒロとガドンガルは、今のドワーフ達の住処にヒロの『テレポート』で飛び、ドワーフ達を連れて、地底湖に『テレポート』に戻ってきたのだ。
すでにドワーフ達には、向こうで説明はしてあり、ドワーフ達も気持ちの整理はついていたはずだが、さすがに多数のアンデッドの存在を見ると驚きを抑えられなかったらしい。
「気にするな。ワシらには攻撃して来ないようにヒロが言っている。」
ガドンガルの説明に落ち着きを取り戻したドワーフ達は、すでに完成近い吸血鬼城を見て、再び驚きの声を上げた。
それも前もって説明しているはずだが、やはり実物を見ると驚くものらしい。
「それじゃあ、作業にかかるべ。」
てっきり今日は説明だけかと思ったヒロは驚いた。
もうすでに夕方5時を回っていて、ドワーフ達は普段なら酒を飲む時間だからだ。
「そうだべ、こんな楽しいこと早くやるべ。」
どうやら、ダンジョン造りというのがドワーフ達の琴線に触れたらしい。
どのドワーフも目を輝かせている。
「あっそういえば、そのスコップ。」
ヒロはドワーフ達が大事そうに抱えているスコップに覚えがあった。
以前、ヒロが貸してあげたスコップだった。
「これがあれば、すぐに出来るべな。」「そうだべ。」「そうだべ。」
ドワーフ達に口々に言われ、まあ、やってもらう側だからいいかと、今、スコップを回収するのをヒロは諦めた。
「ちょろいべ。」「ヒロ、ちょろいべ。」
ドワーフ達が小声で言っていることは、ヒロの耳には届かなかった。
ヒロは、ダンジョン造りには参加できないので、ドワーフ達のために夜食を作っていた。
ヒロの作り出したアンデッド達は、ドワーフ達に何かあってはいけないので1人につき3体護衛につけていて、今のこの場には当初呼び出したアンデッドの半分ほどしかいない。
「美味しいです。これは、なかなかです。ヒロさん、ミュミュの胃袋を鷲掴みです。」
ミュミュは何の役に立つこともなく、ただ食べ続けていた。
ドワーフ達も次第に戻り始めていた。
「腹減ったベー。」「酒飲むベー。」
ヒロは、そんなドワーフ達に酒と食事を配っていたが、そこにジュリが戻ってきた。
「ヒロ、大変よ。城の中に何かいるわ。」
「・・・ジュリ様、どこに行ってるのかと思ったら、俺もまだ入ってないのに、城の中を探索していたんですか?」
ヒロのジュリを見る目は冷たかった。
「いいから、来て!あれはかなりまずい存在よ。」
「まったくもう。」
ヒロはブツブツ言いながら、ジュリに連れられて城の中に入っていった。
「で、どこに行くんですか?」
「王座の間よ。・・・王座に座っている人がいるの。」
「そんなわけないじゃないですか。」
ヒロは、ジュリに疑いの目を向けながら、王座の間に向かった。