167 地底湖の吸血鬼城(2)
坑道を先頭で歩くガドンガルは光の出る魔石の入ったランタンのような物を持ち、その後ろを手ぶらでジュリ、その後ろをガドンガルと同じように光の出る魔石の入ったランタンのような物を持ったミュミュ、そして最後尾をヒロが歩いていた。
ジュリとヒロがランタンのような物を持っていないのは、暗闇でも問題なく見えるからだ。
ジュリは悪魔族としての特性らしいが、ヒロは、吸血鬼としての特性である。ヒロの場合は、人間状態の時でも、スキル『暗視』が使えるので問題はなかった。
坑道の中の高さは、3mくらいだが、横は5mくらいだった。これは、土に潜む魔物と出会った場合や、運悪く魔物の巣を突き破ってしまった場合に戦えるように広く掘っているらしい。
そのため。持っているランタンのような物も腰に掛ける事が出来るようになっているそうだ。
坑道は結構入り組んでおり、ヒロは間違いなく1人で歩けば、迷子になるなと思いながら、前の3人についていっていた。
そして1時間歩いたところで、かなり広い場所に出た。
そこは、真ん中に湖があり、天井はゆうに10mはありそうだった。
しかも、その空間全体が仄かな光に包まれており、人間の目でも十分に視界を確保できる明るさだった。
「これは?」
「これはな、天井にビッシリとついているヒカリゴケが仄かに光っているんだ。」
ガドンガルがヒロに説明してくれた。
ヒカリゴケというのは、光を発するコケのことで、ジュリが言うには、遺跡などにもよく生息しているらしい。
また、あっという間に広がるので、洞窟などの天井につけておけば、1週間もすれば勝手に増えて洞窟の中に明かりを持ち込まなくても、見えるようになるらしい。
「だったら、どうして、ドワーフの皆さんは、坑道にここのヒカリゴケをつけておかなかったんですか?」というヒロの問いに、ガドンガルは一言、「ドワーフでは上に届かん。」と言われて、ヒロは悪い質問をしてしまったと反省した。
「後で、ヒロに採ってもらえばいいわ。それより、早速、やりましょ。」
ヒロは、湖の側に行き、『とめどない強欲の指輪』の中から『純血の乙女』を取り出し、一瓶飲み干した。
ヒロは、白い髪に深紅の瞳になった。
「いきますよ。吸血鬼魔法『城創造 発動』。」
今回は、別に城にこだわる必要がないので、ヒロはエストの時とは違い、すぐに発動した。
地底湖が魔法陣に包まれた。
魔法陣を見ると、残り59分と記されていた。
「1時間後に出来上がりますよ。」
「そう。」
ジュリは納得したように頷いた。新しいエストを造った時にすでに時間がかかるのは経験しているので、最初からある程度時間がかかるのは覚悟をしていたのだ。
「それより、吸血鬼城はいいとして、そこを守る兵士というか魔物はどうするんだ?」
ガドンガルの疑問にヒロとジュリは顔を見合わせた。
2人共そこまで考えていなかったのだ。しかし、言われてみればその通りだった。冒険者達が来た時、ヒロが居なくて城を占領されてしまいましたでは、笑い話にもならなかった。
「ヒロ、あなた、3~4人どっかの町に行って吸血鬼化して来なさいよ。」
ジュリは、吸血鬼化して下僕を作れと言っているのだ。
「いやですよ。これでも一応まだ人としての心は残っている・・・はずですから。」
どうやら、ヒロは戦闘になり興奮しない限りは吸血鬼化状態でも理性を保てるらしい。今も吸血鬼状態なのだが、いつものヒロとさほど変化はなかった。
「だったら、何かいい魔法ないの?吸血鬼なんだから、何か出来るでしょ?」
ヒロは、死体があれば簡単なんだけどなと思いながら、ああそういえばと思いだした。
「ありました。吸血鬼魔法『アンデッド・アーミー』。」
かなり大きい魔法陣がヒロの前に広がり、そして、魔法陣の中にゾンビやスケルトン、さらには、ゴーストなども隊列を組んで現れた。
その総数は、軽く500は超えていた。
「・・・襲ってこないわよね。」
ジュリの心配に「大丈夫ですよ。ここの人は襲わないように命令しましたから。」とヒロは答えた。
この出てきた魔物にはヒロはテレパシーのようなもので命令を下すことが出来たので、出てきてすぐに命令しておいたのだ。
「それにしても、見事にアンデッドばかりね。さすがに死者の王と呼ばれる吸血鬼だけあるわ。」
ジュリは、関心しているのか、呆れているのかわからない表情でアンデッドの軍隊を見ていた。
「今、思ったんだが、こうなれば、ここをダンジョン化すればどうだ?」
ガドンガルの言葉にジュリがなるほどというような表情になった。
ヒロは、ガドンガルが何を言いたいのかわからなかったのでジュリに説明を求めた。
ジュリの言うには、遺跡と呼ばれるものの中にダンジョンと呼ばれる遺跡があるらしい。
その中では、様々な秘宝や古代金貨が手に入る代わりに、魔物が多く出現するらしい。
ジュリの説明を聞いて、ヒロは『グランベルグ大陸』の時のダンジョンの認識と同じということを理解した。
ダンジョンと呼ばれる遺跡の多くもこの坑道のように迷路化しているものがほとんどらしい。
ただ、遺跡のダンジョンは階層化しているものが多いらしいが。
「なに、階層化は無理でも、迷路化なら、我らドワーフに任せればお手のモノだ。」
「・・・そういうわけね、ガドンガル。この地下空洞をダンジョンに挑む町としてお金を稼ごうってわけね。」
ガドンガルは頷いた。
「我らドワーフも、採掘以外でお金を稼ぐ方法見つけておかねば、この先、何が起こるかわからんということを実感させてもらったからな。稼げる時に稼いでおかねば。」
「だったら、この坑道と地下空洞の入り口に扉を設けて、ダンジョンの入り口にすればいいわ。そうすれば、ダンジョンに挑む冒険者は必ず地下空洞に泊まることになるから。ただ、簡単に攻略されたら、それまでよ?」
「安心しろ。ワシらドワーフの意地にかけて、この坑道の迷路化をしてやるわ。」
ヒロは、ジュリとガドンガルが悪い顔で笑うのをただ見ているだけだった。
そこに、ミュミュがムシャムシャと口を動かしながら、しかめっ面で現れた。
「ミュミュ、何を食べてるの?」
「・・・ヒカリゴケって、あまり美味しくないですね。」
「ミュミュ、何でも口に入れるのは辞めておいた方がいいよ・・・。」
ヒロとガドンガルとジュリは呆れた様子でミュミュを見ていた。