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165 新しい都市エスト



あの宴会から1週間後、ようやく住民の引越し作業がすべて終了した。



あの魔法陣で出来た都市はすべてが規格外だった。



城壁は薄黒く、材質は何で出来ているのかラインベルトには分からなかった。



ドワーフのガドンガルが言うには、アダマンタイトと何かの合金らしいのだが、その何かが分からないらしい。



しかも、この都市を囲うほどの城壁のアダマンタイトとなると、実際手に入れることができるのかわからないと言っていた。



しかも、それと同じ材質で城も出来ている。



そのため、城も薄黒く、誰かが、魔王城と小声で言っていたのがラインベルトの耳にも聞こえ、確かにそうだとラインベルトも思ったものだ。



しかも、都市の中心に城があるのだが、その大きさたるや、つい先日見た王宮ほどではないが、それに次ぐほどの広大さを誇っていた。



あまりの広大さにレキエラら兵士や衛兵から苦情が上がってきているくらいだ。



都市自体は、10万人を収容できる大きさなので、王都アウグスティンの広大さには劣るが、ミサキが言うには、拡張したければ、今の城壁に沿うように新たに拡張できるそうだ。



今、ラインベルトがいるのは、城の最上階である5階である。



5階とはいっても、城は基本的に通常の建物より1階ごとの高さがかなり高いので、通常の10階分くらいの高さだろうか。



その5階の自分の部屋から見下ろす新しいエストはなんとも言えなかった。



あまりの素晴らしさに思わず叫んでしまいそうになるくらいだ。



「ラインベルト、バロム商会の会長のグアルディ・バロムが来たぞ。」



エルダがラインベルトの部屋に入ってきた。



「なんだ?また、外を見ていたのか?」



エルダもラインベルトの部屋のバルコニーに出て、ラインベルトの側に立った。



「凄い景色だよね、エルダ。」



「そうか?」



ラインベルトの表情は興奮しているのか、仄かに赤くなっているが、エルダはいたって普通だ。



それもそのはずだろう。エルダは日本でそれこそ信じられない高さのビルから下を見たこともあるのだ。5階の高さくらいでは、驚きもしなかった。



「こういう時になんて言うか知っているか、ラインベルト?」



「何て言うんだい、エルダ?」



ラインベルトの表情に期待が溢れていた。エルダがこの景色を見て、どんな素敵な言葉を言うのだろうという期待だった。



「・・・フッ、人が虫のように見えるな。働け、虫ども。・・・だ。」



エルダの表情は、自信に溢れていた。どこをどう考えれば、今の言葉を言えば、ラインベルトが感動すると思ったのかは不明だった。



「・・・えっと、エルダ、バロム商会の会長さんが来たんでしょ?」



「んっ?ああ、そうだが。それよりも、どうだ?先ほどの言葉。まるでどこかの支配者みた・・・。」



ラインベルトはエルダが言い終わるのを待たずに自分の部屋を出て行った。



「・・・おかしいな?支配者が言いたい台詞第3位の台詞だったはずなのだが?」



なぜ、ラインベルトにあんな態度を取られたのかわからないエルダは、頭を傾げながらラインベルトの後を追いかけて行った。









ラインベルトが部屋に入ると部屋で待っていた人物が立ち上がった。



「すいません。お待たせ致しました。エストラ男爵領の領主、ラインベルト・シュナイゼル・エストラです。」



「初めまして。私は、バロム商会のグアルディ・バロムと申します。」



グアルディが差し出した手をラインベルトが握った。



「この度は、交易都市グロースの市長でもあり、大商会バロム商会の会長であるグアルディさんに直接来ていただいて申し訳ありません。」



ラインベルトはグアルディに席を勧めながら、席についた。



その時、部屋のドアが開き、飲み物を持っていたルーベル爺とエルダも入ってきた。



エルダもいつものようにラインベルトの隣の席へと座った。



「そちらは?」



「これは、失礼致しました。これは、私の執事であるルーベルとこちらは私の騎士であるエルダ・リ・マルクーレという者です。あっ、そういえば、パンプキン商会のミサキさんが、『パンプキン・サーカス』のエルダと言えば、グアルディさんに通じると言ってましたが?」



「・・・十分通じました。」



グアルディの表情に緊張が走った。これが、あのエルダかと。すでにグアルディはバロム商会のすべての情報網を使い、ミサキ達の情報を集めていた。そして、理解していた。『パンプキン・サーカス』がどんなに危険な組織かを。



「今回は、こちらから出向かなければいけないものを、わざわざお越し頂きましてありがとうございます。」



「いえいえ、それには及びません。一度新しくなったというエストも見ておきたかったですし、何よりパンプキン商会から直接連絡を頂きましたから、来ないわけにはいかないでしょう。」



グアルディは苦笑いを浮かべていた。



つい4日前にパンプキン商会の名義でグアルディに手紙が届いたのだ。グアルディにとっては不幸の手紙以外の何者でもなかったが、手紙を開けないわけにはいかなかった。



中に書いてあった内容は、『儲けさせてやるからエストラ男爵領のエストに来い。あっ3日以内でな。 マブダチのミサキより』だけだった。



何度読み返して、火で炙ったりしてみても、やはり、これだけだった。ミサキは、グアルディのことを何か勘違いしているのではないかと思ったが、ミサキがこう言っている以上いかないわけには行かなかった。



それに、グアルディは、ミサキ達の様子を探るためにエストにも密偵を送っていたので、エストが1日で新しくなったことも知っていた。



そして、エストを新しくしなければいけなかった理由も。それゆえ、ミサキに呼ばれなくても、実は一度行ってみようと思っていたのだ。



ちょうどいい機会だと、グアルディは、どうにか仕事の都合をつけて、自らやってきたのだ。



「それで、どういうお話でしょうか?」



「お話しはミサキさんからは聞いていませんか?」



「残念ながら、とても簡易な手紙でしたので。」



「そうでしたか。それは失礼致しました。実は、新しいエストが出来ましたので、古いエストの方を売ろうかと思いまして。」



「・・・古いエストを売る?」



この日はじめてグアルディの表情が固まった。



「はい。・・・もしかして、売れませんでしたか?確かに、倒壊している建物もかなりありますが、状態のいい建物も残っていますので、売れないかと考えたんですが。」



ラインベルトは少し不安そうな表情になった。ルーベル爺やパンプキン商会のドルトと話している時にドルトから言われたことなのだが、都市に使っている石材、木材、魔石などは売れますよと聞いていたのだ。それで、パンプキン商会の方に買い取ってもらえませんかと持ちかけたら、パンプキン商会の規模では、とても取り扱えないから、別の商会を呼びますと言われ、バロム商会を紹介されたのだ。



「・・・一応、確認させていただきますが、それは、隣にある古いエストのすべてを我がバロム商会に売ってくださるということですか?」



「はい。住民に必要な物はすべて運び込んでいますので、もう残っているもので必要なものはありませんので。」



「魔石なども残っているとおっしゃってましたよね?」



「はい。この新しいエストには最初から完備されてましたので。」



「買ったーーーーー!」



グアルディ、この日、一番の大声だった。



「は、はい?」



「いいですか、エストラ男爵様。私共が責任を持って買い取らせていただきますので、絶対に他の商会には知らせないでください。」



「それはもちろんです。」



「それでは、至急、見積りを計算させていただきますので、数日いただけますか?」



「わかりました。では、見積りが出ましたら知らせてください。」



こうして、ラインベルトとグアルディは再度、握手をして別れた。



グアルディは、城を出てすぐに交易都市グロースに向けて出発した。



そして、交易都市グロースに着くと、すぐに人数を集めて、再び、エストへと出発した。



その間、グアルディは年齢を感じさせない非常に生き生きとした表情をしていた。




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