164 偽魔王討伐編 後日談(5)
「はーい。こっちに注目してー。」
ミサキの声に反応して、宴会に来ている者達の視線がミサキに集まった。
すでに宴会を開始して、3時間が経過していた。
松明や焚き火も大量に焚かれ、周辺はかなり明るくなっている。
ミサキの側には、ヒロとエルダとアオイが立っていた。
4人はようやく何のためにエストの外に出てきたかを思い出したのだ。
ミサキとエルダとヒロがいるのを見て、住民から次第に「魔王、最高!」「我らが魔王!」「魔王様、御意!」などの歓声が上がる。
そして、次第に歓声は「御意。」「御意。」「御意。」「御意。」と意味の分からない歓声に統一されていた。
ミサキがその「御意。」という歓声に応えるように両手を挙げていたが「それじゃあー、今から面白いもの見せるから、ちょっと黙ってもらえるかな?」と言った。
しかし、歓声はとどまることを知らず、「御意。」「御意。」「御意。」を繰り返していた。
「あー、ちょっと、黙ってー。ねぇー、・・・・お前ら、いい加減、黙れよ。」
それほど大きな声でなかったにも関わらず、ミサキの冷たい声を聞いて、一気に宴会場が静けさに包まれた。
その中で歓声に紛れて「暴力女。」「暴力女。」「暴力女。」と繰り返していたハイドの声だけが、最後に残った。
「・・・ハイド、あとでちょっと来い。」
ハイドの顔面が蒼白になったはずだ・・・毛が多いのでわからないが。
「ハイドはとりあえずあとで折檻するとして、今から新しい都市を造りまーす。」
ミサキの宣言にザワザワと住民達の困惑が広がった。
「まぁー、言ってもわからないだろうから、まぁー見てて。」
ミサキはヒロに視線を送る。
ヒロは、その視線を受け、『純血の乙女』を取り出し、一瓶飲み干した。
ヒロの姿が白い髪、深紅の目に変わった。
「キャーーー!」「ヒロ様ーーーーー!」「私の血を吸ってー!」
ヒロの姿を見た宴会に参加している女性陣から黄色い歓声が上がった。
そういうことに慣れていないヒロは、少し照れくさそうにしていたが、ジュリが近づいてきて「ヒロ、目を閉じてなさい。この歓声、あなたの魔眼の効果だから。」と冷静に言われ、悲しそうな表情で、素直に目を閉じた。
「それじゃぁー、いくよー。ギルドマスター魔法『都市創造 発動』。」
ミサキの言葉でミサキ、ヒロ、エルダ、アオイの体が少し光ったように見えた。
そして、エストの隣の広大な平原に馬鹿でかい魔法陣が現れた。
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオーーーー!」」」
今までに見たことのないような大きな魔法陣を見て歓声を上げるエストの住民達。
しかし、魔法陣はずっと出ているのだが、いっこうに変化が現れなかった。
「あれ?もしかして、失敗した?」
ミサキが、珍しく不安そうな顔をしたが、アオイが魔法陣のある部分を指差した。
そこには『残り7時間59分』と出ていた。
「もしかして、これできるまでに8時間かかるってこと?」
ミサキの言葉にアオイが頷いた。
「・・・というわけで、出来上がるまで8時間かかるらしいから、それまで宴会を続けるわよー!」
「「「オオオオオオオオオオオオオーーーーー!!!」
宴会をしているエストの住民から歓声が上がった。
こうして、宴会は、朝まで続いた。
そして、朝には今までの城壁の倍の高さはある薄黒い色の城壁と10万人は収容できる都市エストが完成していた。
酒に酔いつぶれた者は、起きてから目の前に見える城壁を見て、そのあまりの立派さに、ただ口をあんぐりと開けて見上げることしか出来なかった。