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160 偽魔王討伐編 後日談(1)

ちょっと、サブタイトルに後日談とつけました。


偽魔王討伐編(15)の続きですので、安心してください。


あの惨劇の夜から2日目の朝、風通しの良くなった冒険者組合の1階の酒場では朝からジュリがお酒を飲んでいた。



ちなみに、あの『パンプキン・サーカスの悪夢』では、奇跡的に死者はゼロであった。



ラインベルトの早めの避難命令が功を奏したのだが、それでも、怪我人はそれなりにいた。



ただ、それも、黒ウサギ薬局がポーションを配ったため、すでに全員回復している。



「はぁー・・・はぁー・・・。」



ジュリのため息は、途切れることはなかった。



「どうしたんですか、ジュリ様?」



ジュリの後ろから起きたばかりのヒロが来た。



ヒロが、酒場の他の席に目をやると、いつも通り、いつもの席にすでにミュミュが座っていた。



「はぁー・・・ヒロ、聞いてくれる?」



「お断りします。それでは、俺は朝食を食べるので。」



シュタッと右手を上げて、ジュリと別の席に座ろうとしたヒロだが、ヒロが別の席に座るとジュリがそのテーブルへと移ってきた。



試しに、何度か違うテーブルに移っていたが、その度にジュリも付いて来た。



「・・・なんですか、ジュリ様?」



「あっ聞いてくれるの?」



「聞かないとどこまでも付いて来るんでしょ?」



「当たり前じゃない。」



「当たり前なんですね・・・。」



ヒロの呆れた表情など関係なしでジュリは話始めた。



要するに、魔王ではない人物を魔王と認定してしまった上に、討伐のためにSクラスの冒険者を呼び寄せてしまったジュリは、上からめちゃくちゃ怒られる可能性があるということだった。



「いや、別に怒られるくらいで済むならいいじゃないですか?」



「給料も減らされるのよ。しかも、もう手紙を出してかなり経ってるから、すでに本拠地を出発しているSランク冒険者もいるだろうから、その損害を考えると・・・あああああああー。お酒を飲まなきゃやってられないわよ。」



「へぇー、大変ですね。」



「・・・何で他人事なのよ、ヒロ。私達エスト冒険者組合の信用問題なのよ?」



「いや、私達のではなくジュリ様のジュリ様によるジュリ様のためのエスト冒険者組合ですからね。」



「よくわかってるじゃない、ヒロ。」



「いや、そこは否定してくださいよ。」



呆れるヒロの前にメグが、黙って朝食とクルーアを置いていった。どうやら、ジュリに絡まれたくなくて静かにしているらしい。



「あっ、そういえば、ヒロに手紙が来てるわよ。」



ジュリは、ポケットの中からシワシワの紙を取り出した。



「なんですか、これ?」



ヒロは受け取った紙を広げると、それは冒険者組合のブラックリストだった。いわゆる賞金首だ。



「えっと、ガジール山脈のヴァンパイア。賞金 白金貨10枚。・・・なるほどっと。」



ヒロは、貰った紙を再びシワシワに戻し、酒場のゴミ箱に捨てようとするが、ジュリに「捨てちゃ駄目よ。」と言われ、仕方なくジュリへと返した。



「メグ~、これ貼っておいて。」



ジュリは何故かメグを呼ぶと、ブラックリストが貼ってある掲示板に貼るように頼んだ。



メグは文句言わずに受け取ると、すぐに掲示板へと貼りに行った。



ちなみに、白髪、深紅の目という特徴と変な仮面をつけているということが描いてあった。しかも、似顔絵の仮面は結構似ていた。



「まったくもう!ガジール山脈の件ではヒロにすべての責任を押し付ける作戦はうまくいったのに、もっと大事な問題の方で失敗するなんて・・・。」



「なるほど。だから、俺にヴァンパイア姿で戦えって言ったんですね。」



「何よ、文句あるの?」



「えっ、どこら辺で文句がないと思いました?」



「ふんっ、いいのよ別に、どうせ私なんか、役立たずの組合長なんだから。」



ジュリは相当今回の事がこたえているようだった。いつものようにヒロと睨み合うこともなく、頬を膨らませ、そっぽを向いた。



「・・・・・・・。」



ヒロは、ようやく静かになったので、朝食を食べ始めた。



「何で、慰めないのよ。」



「慰める必要性を感じないからですけど?」



「これだから、童貞は女心がわからないから嫌なのよ。」



「あっ、その点は安心してください。俺、ジュリ様を女としてカウントしていませんので、別に女心がわからないってわけじゃないですから。」



するとジュリは、ヒロの朝食が置いてあるテーブルの上にあがると大声で叫び始めた。



「みなさーん。ここに高額賞金首のガジール山脈のヴァンパイアがいますよー。早い者勝ちですよー。白金貨10枚ですよー。」



「やめてくださいよ、ジュリ様。わかりました。慰めますから。」



ヒロは、焦ってジュリをテーブルの上から引きずり下ろした。



しかし、そのジュリの言葉が聞こえていたはずの朝食を取っていた冒険者達は、誰も動かなかっただけでなく、ヒロと目を合わそうともしなかった。むしろ、故意に避けている感じだった。



その時、シーターが冒険者組合に出勤してきた。そして、酒場にヒロの姿を見つけると驚いた顔で駆け寄って来た。



「ヒロちゃーん。聞いたよ。ヒロちゃんって実はヴァンパイアで魔王なんだってね。町中で噂されてるよ。すごーい、超有名人だよ。サイン今のうちに貰っておいた方がいいかな?早い方がいいよね。討伐されちゃったらサイン貰えないし。」



シーターは、キラキラした目でヒロを見てきた。



シーターはあの騒ぎの時、冒険者組合のカウンターにいなかったため、直接は見ていないのだ。



「・・・サインは勘弁してください。あと、本当に討伐されたら嫌なので、吸血鬼ということは黙っておいてもらえませんかね?」



「あっ、そっか。みんなが言わなければ、誰もヒロちゃんが吸血鬼って気付かないもんね。わかった。町中のみんなに言ってくるよ。」



シーターは、それだけ言うと、外へと飛び出して行った。



「おい、ヒロ、迎えに来たぜ。」



冒険者組合の建物に入ってきたハイドが、ヒロを見つけ声をかけた。今日は、一昨日の夜のことでラインベルトに呼び出されているのだ。



ミサキ達も一緒に呼び出されているということで、城まで一緒に馬車で乗せて行ってもらう約束をしていたのだ。



「どこ行くのよ、ヒロ!」



「なんだ?痴話喧嘩か?」



「違いますよ!あっ、そういえば、別にハイドさんは呼び出されてはいないんですよね。」



「ああ、ミサキの付き添いって感じだな。」



「だったら、ジュリ様の相手をしておいてくださいよ。」



そういうと、ヒロは逃げるようにその場を後にし、ミサキ達の馬車に向かった。



ヒロの後ろから、ハイドの「えっ?ちょっと、どういうことだ?」という声が聞こえていたが、ヒロが振り返ることはなかった。


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