15 『ミサキ』 衛兵をからかう
満を持したとばかりにミサキは立ち上がり、衛兵達の方へと向いた。
「なるほど。話はわかりました。今までの話をまとめると、ここにあった死体がいつの間にか消えてしまった、『家政婦はいない 昼下がりのカフェで起こった死体消失事件 バージョン・フォー』ということですね。」
「・・・え~、こちらの変な物をかぶった女性は何者かな?」
明らかに怪しんでいる目でミサキを見る衛兵達。
「これは失礼しました。こう見えて、私は、某世界ではそれなりに有名かもしれない名探偵に憧れる美少女、ミサキという者です。キラーン。」
目の横で横向きのVサインを決めるミサキ。
「なるほど。とりあえず、その変なかぶりものを取ってもらえるかな、お嬢さん。」
(あ~、それはまずいな。)
ハイドとミサキが、この都市に入る時もパンプキンヘッドを取る、取らないでひと悶着あったのをハイドは思い出した。
しかし、ハイドの思いとは裏腹に、ミサキは躊躇なくパンプキンヘッドに手をかけ、素顔をさらした。
髪は黒髪でポニーテールにしており、目は黒色でパッチリしており、十分美少女と呼べるものだった。
「かぶりもの取れるんなら、最初から取っておけてぇーの。」
ハイドは都市に入る時、ミサキがパンプキンヘッドを取らなくてもいいように多めに門番にお金を渡した時のことを思い出していた。
ミサキの声から女ということは分かっていたが、まったくパンプキンヘッドを取りたがらないので、てっきり、顔に傷でもあってそれを人に見せたくないのかと思っていたのだ。
「それは違うぞ、ハイドくん。私だってはずせるなら、すぐにでもはずしたさ。しかし、私の顔を見た者はあまりの美しさに7日後に死ぬという呪いがかけられているからはずせなかったのだよ、ハイドくん。」
「ハイドくんって何だ?」
「私のことは、シャーロット・ミサキと呼んでくれたまえ、ハイドくん。」
「あー、会話中すまないが、聞き捨てならない言葉が聞こえたのだが、君の顔を見ると7日後に死ぬ呪いがかけられているというのは本当かな?」
衛兵がハイドとミサキの会話に割り込んできた。
衛兵が確認を取ったのにはわけがある。この世界には、呪いは存在しており、決して軽んじてよいものではないのだ。
「残念ながら・・・。このことは黙っておきたかったのだが、私も疑われたからには、自信の潔白を証明する必要があるからな。そう、一言で言うなら、『馬鹿につける薬はない。馬鹿は死んでのみ救われる。』ということだ。」
「・・・?」
衛兵は意味が分からず、ぽかんとしている。
「あ、衛兵。たぶん、意味は、嘘ってことだと思うぞ。」
「こちらの少女には、ちょっと詰め所まで来てもらう必要があるようだな。」
馬鹿にされた衛兵の顔が、険しさを増した。
「何!それは、普通にナンパしたのでは、私のような美少女と仲良くできないから、職権乱用して私と仲良くなろう、いや、私の体を好きにしようという浅ましき考えによるものか。だが、はっきりと言おう、『私の体は好きに出来ても、痴女の体を好きに出来るとは思わないことだ。なぜなら、お前の体を好きにされるのだからな。』だ。」
ハイドは、ミサキの言葉を聞きながら、(あー、もう、この問題の着地点が見えやしねぇーっていうか、口裏合わせた意味がねぇー。)とカフェの窓から悲しげに空を見上げていた。
「どうやら、私達を舐めているようだな。もういいから、詰め所まで来てもらおうか。」
衛兵が、ミサキを取り囲み、カフェを出るように促した。
(やべぇー)
ハイドは、すぐにミサキを止めることが出来るように、席を立ったが、ハイドの予想に反してミサキは右手にデスサイズを持つと、衛兵に従いカフェを出て行った。
ハイドもミサキ達の後を追い、すぐにカフェを出た。