158 偽魔王討伐編(14)
「というわけで、あれをヒロリンにどうにかしてもらいます。」
ヒロとミサキは、遠くにエルダが見える場所に立っていた。
「・・・あれ、俺がどうにかするんですか?」
ヒロの姿はすでに人間状態に戻っている。
「そのとーり!ザッツライト!」
ヒロとミサキが見ているエルダは、先ほどよりもさらに大きくすでに5mは超えているように思えた。
「・・・あれ、エルダさん、めっちゃ怒ってますよね?」
「いかにも!」
エルダの周りでは、ミサキの姿をしたミラースライムが、多数でうろちょろし、エルダの怒りをさらに増幅しているようにヒロには思えた。
「あれ、怒らしたの、『ほっかほっかのかぼちゃ』さんですよね?」
「あっ、私のことは、ミサキって呼んで、ヒロリン。」
「だったら、俺のことは、ヒロって呼んでくださいよ。」
「OK!さあ、今こそ、あのゴ〇ラ的な何かを倒すんだ、ヒロ!」
「だから、あれ、怒らした誰かが責任を取るべきだと思うんですけど?」
ヒロとミサキが話し合っている最中にも、エルダが魔剣フィアンマを振るい、そこから放たれた特大の火球がミラースライムだけでなく、エストの建物を容赦なく破壊し、火災の拡大を招いていた。
「うっ、私もそうしたいのはやまやまだが、いかんせん、先ほどヒロにやられた傷が痛んで・・・。」
痛そうに右腕を押さえてうずくまるミサキ。当然、嘘である。
「・・・さっき、最高級ポーション飲みましたよね?」
「・・・細かいことは気にしない。さあ、今こそ、あのゴジ〇的な何かを倒すんだ、ヒロ!地球の未来は君にかかっている!」
「たぶん、地球は隕石の衝突で未来もくそもなくなっていると思いますよ?」
「うるさーい。」
パチーンッとミサキは、先ほどまで押えていた右腕でヒロをビンタした。
「はあ・・・相変わらずですね。・・・でも、そういう理不尽さ、ちょっと懐かしいので頑張ってみますよ。」
「そう、それでこそ、英雄の名を持つ男だ!」
ミサキはうんうんと頷いている。
「あれ、『怪盗英雄』なんて恥ずかしい名前つけて広めたの、ミサキさんでしょ?」
「いかにも!ヒロリンだけに英雄。まさにピッタリ。」
「なんて安易な・・・まあ、このままだと、エストが崩壊するのでやりますけど・・・。」
ヒロは、『とめどない強欲の指輪』から『純血の乙女』を取り出すとグビッと飲んだ。
ヒロは一瞬で白い髪と深紅の瞳へと変化した。そして、再び、マスクをつけた。
「それでは、ミサキさん、行って参ります。アハハハハハハハハハハ。スキル『瞬間移動』。」
ミサキの前からヒロが消えた。
「・・・ヒロリン・・あの姿になると性格破綻するの変わってないなー。」
ミサキは、懐かしそうな表情をしていた。
ヒロは、エルダの10m前に現れた。
「エルダさん、もういいですから、やめてください。」
ヒロは、とりあえず、エルダに声をかけてみるが、返ってきたのは魔剣フィアンマによる斬撃だった。
エルダの体の大きさに呼応するように魔剣フィアンマの大きさもかなり大きくなっていた。
ヒロの姿は、エルダの魔剣フィアンマが当たる直前で消えた。
魔剣フィアンマの斬撃は、ドゴーンッっと轟音を立てて地面を破壊し土煙を上げた。
「まったく、これは怒りで我を忘れてますね。」
ヒロは、エルダの後ろの2階建ての建物の屋根に立っていた。
エルダは、キョロキョロと周囲を見わたし、ヒロを探しているようだった。
「スキル『漆黒の翼』。」
ヒロの背中から1対の漆黒の翼が現れた。
「ちょっと痛い思いをするかも知れませんけど、恨むんならミサキさんを恨んでくださいよ。」
そう独り言を言うと、ヒロはエスト中に広がる気配を見せている火災に赤く照らされた空へと舞い上がった。