156 偽魔王討伐編(12)
「ようやく姿を現したか、魔王。この時を待っていたぞ!」
エルダの手には、刀身の透明な剣が握られていた。
そして、その剣の刀身の根元部分には、透明な魔石が填められていた。
その剣は、刀身はストームドラゴンの鱗、魔石部分はストームドラゴンの魔石、柄はストームドラゴンの骨で出来た魔剣だった。
エルダが、『グランベルグ大陸』で作った魔剣のひとつだ。
「放て、魔剣ミストラル。」
エルダの持っている魔剣の魔石が仄かに光った。
エルダは、下から上に向けて魔剣ミストラルを振った。
そして、エルダの持っている魔剣ミストラルから放たれた攻撃は、ミサキが乗っていた建物を縦に真っ二つにした。
それだけではなく、その建物の3軒後ろの建物まで縦に真っ二つにしていた。
真ん中で真っ二つにされた建物は、両側の重さに耐えられず、真ん中から崩壊して崩れていく。
ゴゴゴゴゴゴゴガシャングシャンギャガンー。
もの凄い音と土煙をあげながら崩壊していく建物。
「土煙が邪魔だな。どかせ、魔剣ミストラル。」
エルダが、軽く魔剣ミストラルを横に振ると、その場に横風が起こり、砂煙を飛ばしていく。
そして、エルダの周りの視界が開けた瞬間、エルダの周りには30体以上のミサキが立っていた。
「なるほど・・・そういうことか。・・・しかし、私の勘がこの中に本物はいないと言っている。また、本物はどこかに隠れているのだろう、卑怯な奴め。」
エルダの周りのミサキは同士討ちなど気にせずにエルダの前後左右さらに上から一斉に飛び掛ってきた。
「放て、魔剣ミストラル。」
前からエルダに向かってきたミサキ5体の上半身と下半身を真っ二つにするが、その隙に左右後ろと上からエルダはミサキに抱きつかれた。
そして、エルダに抱きついたミサキは、スライムの姿に戻りながら、隣のスライムと合体していき、その身の内にエルダを取り込んだ一体の大きなスライムへと変化した。
エルダは何度かスライムの体の中で魔剣ミストラルを振るっていたが、あまりに大きなスライムのため多少斬ったくらいでは、意味はなかった。
「だったら・・・。」
エルダの持っている武器が、魔剣ミストラルから赤い刀身の剣へと変わった。
この赤い刀身の剣は、先ほどの魔剣ミストラルと同じく『グランベルグ大陸』でエルダが作った魔剣のひとつだ。
刀身は炎龍の鱗、魔石は炎龍の魔石、柄は炎龍の骨で出来ていた。
「怒れ、魔剣フィアンマ。」
エルダの言葉に反応し、魔剣フィアンマについた紅い魔石が仄かに紅く光ると、魔剣フィアンマの刀身から炎が噴出した。
そして、その炎は、一気に大きく広がり、あっという間にエルダと捕らえていたスライムの体全体に広がり、そして、天高く炎は舞い上がった。その光景は、地面から噴出す巨大な炎の柱のように見えた。
炎の柱が治まると、そこに残っていたのは、一切変わりないエルダとスライムの燃えカスだけだった。
「これでお終いか、魔王。」
「そんなわけないでしょ。」
どこからかはわからないが、ミサキの声が聞こえ、再び、エルダの周りには、ミサキが30体以上現れた。
そして、今度は一気に飛びかからずに、連携して攻撃し始めた。
「何をしようが無駄だ、魔王。ミラースライムの攻撃力では私の鎧にかすり傷ひとつ傷つけることなどできない。」
わずかに刀身に炎を帯びた魔剣フィアンマを振るい、ミサキを1体ずつ片付けていくエルダ。
魔剣フィアンマに斬られたミサキは、先ほどの魔剣ミストラルの時とは違い、一気に全身が炎に包まれてしまうため、スライムに戻ることはなかった。
順調にミサキの数を減らしていくエルダ。
今もまた右から突進してくるミサキ目掛けて魔剣フィアンマを振るった。しかし、そこで今日初めてエルダの攻撃がかわされた。
「なっ!」
驚きの声を上げるエルダ。しかし、考えている暇はなかった。魔剣フィアンマによる攻撃をかわしたミサキが、思いっきり持っていたデスサイズの柄でエルダの鎧の腹部を殴りつけた。
「ぐわぁー!」
この日初めて声を上げて、エルダは吹っ飛び、そして、エルダの後ろにあった建物の壁を突き破っていった。
「へいへいへいへい、相変わらず、単純だね、エルダは。いつから偽者ばかりだと勘違いしていた。キラッ、ビシッ。」
いつもの左目の横でVサインを横にしたポーズを決めるミサキ。超ご機嫌だった。
そのミサキの目の前でエルダの吹っ飛んでいった建物が一瞬で炎に包まれ、そして、先ほどの倍以上の太さの炎の柱が上がった。
「やべっ、エルダ、超怒ってる。」
そう言うとミサキは、再び姿を隠した。
その後、炎に包まれた建物の中から、ゆっくりとエルダが出てきた。
しかし、その姿は、着ている鎧は変わらないのだが、明らかに体の大きさが違っていた。
先ほどまでも身長が190cmあり女性にしてはかなり大きいエルダだったが、今はそんなモノではなく、明らかに3mはあるように見えた。
「魔王、殺す!」
エルダ・リ・マルクーレ、『グランベルグ大陸』での種族は、炎の巨人とドワーフのハーフである特別な種族、ティタンドワーフだった。
天高くまで巻き上がる炎の柱の中から現れたその巨大な姿は、ミサキとどちらが魔王かわからないほどの畏怖を備えていた。
ミラースライムは、ミサキの姿だけでなく、ミサキのデスサイズも擬態して持ってます。