155 偽魔王討伐編(11)
エルダが外へと出た時、すでにそこにミサキの姿はなかった。
「逃げたか?」
周囲を見渡し、そう呟いたエルダの後ろからミサキが飛び掛った。
「甘いな。」
そう言うと、エルダは持っていた騎士剣を振るった。
飛び掛ったミサキの胴体が真っ二つにされ、上半身と下半身が別れた状態で地面に落ちた。
「・・・違うな。」
エルダは、切ったものが先ほどまでの美少女ではないと確信した。
あまりにも手ごたえが無さ過ぎたからだ。
案の定、ミサキの姿をしていた地面に落ちた上半身と下半身は、その姿をゆっくりと変えていった。
上半身は、溶けるように潰れていき、下半身はスライムに変化していった。
「なるほど・・ドッペルスライム・・・いや、ミラースライムか。」
ドッペルスライムは、相手を食べることによってその姿を真似るが、ミラースライムは、相手の姿を鏡に映したように真似るスライムだった。
エルダは、すぐさま、スライムに斬りかかるとスライムの中にあった核を両断した。
するとスライムは先ほどの上半身と同じように溶けていった。後には透明なスライムの皮のようなモノが残っていた。
スライムは、核を斬らなければ殺すことはできないのだ。
再び、エルダに襲い掛かる影が2つあった。
先ほどと同じように姿はミサキだった。
エルダは簡単に両断し、その後でスライムに戻った2匹の核を斬った。
「なるほど。魔王はスライムマスターか。・・・しかし、残念だったな。このエルダ、スライムマスター相手の喧嘩には慣れているぞ。」
エルダは、昔を思い出し、少し笑っていたが、フルフェイスの兜だったため、それに気付いた者はいなかった。決して、エルダがエロいから思い出し笑いをしたのではないことだけは付け加えさせてもらおう。エルダの名誉のために。・・・エルダに気にするだけの名誉が残っていればの話だが。
エルダは、感覚を研ぎ澄まし、周囲の様子を探る。
そして、「そこだ!」と持っていた騎士剣を思いっきり投げた。
エルダから放たれた騎士剣は、スガーンッともの凄い音を立てて、建物の中へと飛び込んでいった。
「うわー、なんだ。」「やばい、逃げろ!」
その建物の中にいた獣人が慌てて飛び出してきて、逃げ出して行った。
遠くの方からは、衛兵達の「街の外に逃げろー。」という声が聞こえてきた。
しかし、エルダは、そんな獣人や衛兵の声には反応せず、ただ、騎士剣の飛んでいった先を見ていた。
しばらくの静寂の後、エルダは言った。
「よし、違った。」
「・・・あんた何してんのよ?」
ミサキの突っ込む声が聞こえた瞬間、その声が聞こえた方向へ、今度は騎士槍を思いっきり投げつけた。
再び、ズガーンッともの凄い音を立てて、騎士槍が建物に飛び込む。
「・・・だから、どこを狙ってるのよ。」
「またはずしたか。」
「またはずしたかじゃないわよ。さっきから見当違いの方向ばかりに投げてるじゃない?」
「フッ、そうやって私を惑わそうとしても無駄だ。私には、お前の位置が手にとるようにわかるぞ。むっ、そこだ!」
今度は、斧を投げた。
斧も建物の壁など障害にもならず、建物に飛び込んでいく。
「いい加減にしなさいよ。私は、ここにいるのに何で見当違いの方向にばかり投げているのって聞いてるのよ!」
エルダが2階建ての屋根の上を見ると、そこにはミサキが立っていた。