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153 偽魔王討伐編(9)


冒険者組合の建物からラインベルトを抱えて逃げたディートとグラハムは、街の見回りをしていた衛兵達に止められていた。



「何をしている?」



「今は、それどころじゃねぇー。早く逃げるぞ。」



ディートは焦って衛兵に命令するが、残念ながらここは王都アウグスティンではなかった。



今日来たばかりのディートのことを知っている者はいなかった。



それゆえ、今、衛兵達の目の前で一番怪しいのはディート達だった。



「おい、肩に背負った子供は何だ?まさか、人攫いか?」



衛兵達は、ディートとグラハムを取り囲んだ。



「チッ、今はそれどころじゃねぇーってのに。」



「降ろしてください。」



グラハムの肩に背負われてたラインベルトが冷静な声で言った。



「落ち着いたか、ラインベルト?」



グラハムは言われた通り、ラインベルトを肩から降ろした。



「はい。ありがとうございました。」



ラインベルトは、ディートとグラハムに丁寧に頭を下げた。



「おい、まさか男爵様では?」「本当だ、男爵様だ。」



衛兵達はラインベルトの顔を確認し、担がれていた子供が誰であったのかに気付いた。



「皆さん、至急、このエストからの避難を開始してください。」



「えっ?」



衛兵達が戸惑うのも当然だった。



衛兵達は、魔王と呼ばれる存在が暴れだしたことなど知らないのだ。



「急ぎなさい。エストの住民を全員このエストの外に出すのです。」



衛兵達の前にいたのは、ただの子供ではなく、立派な領主だった。



「「「はっ。」」」



衛兵達は敬礼をし、すぐに動き出した。



「ラインベルト、お前も逃げるぞ。」



ディートの言葉にラインベルトは笑顔で返した。



「僕は、いや、私は、このエストラ男爵領の領主、ラインベルト・シュナイゼル・エストラ男爵です。仲間が戦っている限りこの街を逃げ出すことなどありえません。ディートさんとグラハムさんこそ、早く逃げてください。」



それだけ言うと、ラインベルトはしっかりとした足取りで城へと歩き始めた。



「・・・だってよ、グラハム。お前、さっさと尻尾巻いて逃げろよ。得意技だろ?」



ディートが茶化した表情でグラハムを見た。



「これは心外ですね、ディート様。私は、生まれてからこの方、駄目王子から以外逃げようとしたことなどありませんよ。・・・逃げ切れませんでしたけどね。」



ディートとグラハムは、お互い見つめ合い、そして、大声で笑いあった。



笑いあった後の2人の表情は、いつものおちゃらけた表情とは180度違っていた。



「いくぞ、グラハム。」



「はい、ディートヘルム王子殿下。」



ディートヘルムとグラハムは、ラインベルトの後を追って城へと歩き出した。














「おやおや、これは困りました。まだ『第2章 親友の契り』なのですが・・・なぜ、誰も立っていないのでしょう・・・あっ、そういえば私がタコ殴りにしたのでした、アハハハハハハハハハハハハハハ。」



ヒロの周囲には、ハイドが倒れ、ギ・ガ・ゾルドとドルトが膝を地につけていた。



第1章で、無理やり力ずくでハイドとドルトとギ・ガ・ゾルドと握手をした後、第2章と告げて、一方的に3人を殴りまくったのだ。



「安心してください、皆さん。急所は外していますよ。痛いですか?痛いですか?そうでしょう、楽に死ねないように急所を外して殴っているのですから。いやいや、これでも結構大変なのですよ?プチッと蟻のように潰さぬよう、優しく細心の注意を払って殴っているのですから。ですが、仕方ありませんよね。親友になるためには喧嘩をすることが必須条件なのですから。あっ、そういえば言い忘れていました。皆さん、遠慮せずに私を殴ってくれても・・・いいのですよ?」



ヒロは、『とめどない強欲の指輪』の中から『純血の乙女』を取り出すと、まるで牛乳を飲む時のように片手を腰に当てて、もう片方の手に『純血の乙女』の入った瓶を持ち、グビグビグビッと豪快に飲んでいく。



「プハァー。やはり、運動の後のジュースは美味しいですね。・・・ところで、まだ殴りかかって来られないのですかね?折角、隙を作って差し上げているのに、これでは、私がまるで道化ではないですか。アハハハハハハハハハハ。」



ようやく倒れていたハイド、ドルト、ギ・ガ・ゾルドは立ち上がった。



そして、3人は一瞬だけ視線を合わすと、一斉に攻撃を開始した。



ハイドはナイフで、ドルトは黒い手袋をはめた拳で、ギ・ガ・ゾルドはその鋭利な己の爪でヒロに襲い掛かった。



3人の攻撃は、見事にヒロに命中した。



ハイドは、ヒロの背部に深々とナイフを刺し、ドルトの拳はヒロの首筋を捉え、ヒロの首の肉をズタズタに引き千切り、ギ・ガ・ゾルドの爪は、ヒロの左肩から右わき腹にかけて深い切り傷を負わせた。



しかし、それらの攻撃を受けたときでさえ、ヒロは微動だにしなかった。



「んっ?もう終わりですか?」



3人は続けてヒロを殴り続けるが、ヒロは涼しい顔で立ち続けていた。



「5・・4・・3・・2・・1・・0。スキル『瞬間移動』。」



ヒロの姿が一瞬で消え、3人から少し離れた場所に現れた。



そして、離れた場所に現れたヒロの体からは、先ほど3人が傷つけた傷はすべて綺麗に消えていた。



「残念ながら、第2章終了です。それでは、『最終章 永遠の友情』開幕です。ついに親友となれた吸血鬼と騎士ですが、なんと、騎士の主である国王が吸血鬼の討伐命令を下します。なんということでしょう。こんな悲劇あっていいのでしょうか?・・・いいんです。まったくもっていいんです。これこそまさに物語の最後に相応しい親友同士の殺し合い。実に笑えるじゃないですか。アハハハハハハハハハハハ。」



ヒロは何がおかしいのか、大声で笑っていた。しかし、すでにもうそこにいる全員が気付いていた。ヒロの、いや吸血鬼の笑い声には感情がまったく込もってないことに。ただ、大声で笑い声を出しているだけなのだ。



「おい、ドルトとゾルド・・お前達逃げろ。」



苦しそうに息をしていたハイドの言葉に、ドルトは驚いた。同様にギ・ガ・ゾルドも驚いていた。



「早く行け。」



「・・・死ぬ気ですか?」



「何言ってんだ。誰が死ぬかよ。・・・ちょっと、お前らが逃げる間だけアイツとダンスを踊ってやるだけだってぇーの。俺も頃合を見て逃げ出すさ。」



ハイドは笑みを浮かべた。ダンスなどと似合わないことを言った自分が恥ずかしくなったのだ。



しかし、ドルトとギ・ガ・ゾルドは笑わなかった。いや、笑えなかった。



「おい、狼族の・・・戦士よ。先ほどはすまなかった。お主は尊敬すべき戦士だ。」



ギ・ガ・ゾルドは、ハイドを臆病者と言ったことを謝った。



「なんだよ。似合わねぇーな。・・気にするな。俺はお前の言う通り、ただの臆病者だよ。今もアイツが怖くてチビりそうだ。」



「すぐにミサキ様を呼んできますので、・・・それまで死なないでくださいよ。」



「だから、死なねぇーっての。どいつもこいつも、そんなに俺を殺してぇーのか?まったく・・・『抗う心臓』は永遠に引き継がれ、生き続けていくのさ。絶対になくならない不屈の魂、それが『抗う心臓』だ。」



ハイドは、一直線にヒロに向かって走り始めた。ハイドも本当に勝てるとは思っていない。いや、そんな希望を持てるほどの実力差ではないのだ。



ただ、命を燃やし、仲間を逃がす時間を稼ぎたい。ただ、それだけのためにハイドは己のすべてを賭ける決心をした。



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