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149 偽魔王討伐編(5)


ヒロとエルダとラインベルトとレキエラが酒場に行くと、すでにほとんどのテーブルが埋まっていたが、たまたまひとつだけテーブルに空きがあった。



そこに座り、とりあえず、エール酒を3人分とラインベルトの分の水を頼んだ。



今回、ジュリは魔王と話したことがあるということで付いて来なかった。



ただ、魔王の特徴については、しっかりと聞いてきたため、それとなく周囲を見わたす。



エルダ以外は皆、それとなく周囲を窺っているのだが、エルダだけはラインベルトを凝視していた。



ヒロは、どうせエルダに言っても直らないので、放っておいた。



「あれは!」



それとなくテーブルを見ていたヒロの視線が一点で止まった。



「どうした、ヒロ。」



レキエラもヒロの視線の先を追うが、そこにいたのは、この客が多い中、テーブルひとつを占領して、黙々と食事を取り続けるミュミュの姿だった。



ミュミュのテーブルの上には、信じられないほどの空の皿が山積みで置かれていた。



「・・・見なかったことにしましょう。」



「そうだな。」



ヒロとレキエラは他のテーブルを見ていく。



黒ウサギ族3人とハーフエルフの女性がいるテーブルは、ジュリの言った特徴とは違う。



ねずみ族5人のテーブルは、ねずみ族が仲間に入っているとは聞いた事がないので違う。



人間だけのテーブルもあったが、仲間に狼族と猫族がいると聞いたので違う。



逆に獣人だけのテーブルもあるが、魔王は見た目は人間と変わらず、あと1人高齢の人間の男性がいたと言っていたので違う。



そして、ヒロの視線は、あるテーブルを見た時に止まった。



そのテーブルは、高齢の男性1人、狼族の男性1人、猫族の女性1人、獅子族の男性1人、そして、美少女1人だった。



「レキエラさん。」



ヒロがレキエラを呼ぶと、レキエラも気付いていて、ちょうどそのテーブルを見ているところだった。



「獅子族が混じっていますが、あれがそうじゃないですか?」



ヒロ達がジュリから聞いた情報では獅子族は含まれていなかったが、獣人の中に魔王の軍門に下った者達もいると聞いていたので、他の獣人が含まれていてもおかしいことではなかった。



「・・・そうだな。あれが一番、ジュリの情報に近いな。」



「ねぇー、ヒロ兄ちゃん、いい加減、注文してよ。」



エール酒以外注文していないヒロ達に痺れを切らし、メグが注文を取りに来た。



正直、それどころではないヒロ達は、メグに「適当に持ってきて。」というと、再び魔王の観察を続行した。



ジュリがいうには、魔王は美少女だったということだから、ほぼ間違いなく彼女だろうなと思っていた。



「どう思います、エルダさん?」



ヒロがエルダを見ると、エルダは「おっと、ちょっと酔ってしまったかな?」と言いながら、大きい体でラインベルトに抱きついたところだった。



ラインベルトの顔は、すっぽりとエルダの胸の間に収まってしまっていた。



ラインベルトはいきなりのことで、手をジタバタとさせているが、エルダは離そうとしなかった。



「何してるんですか、エルダさん?」



ヒロは感情のまったく込もってない目でエルダを見た。



「勘違いしては困るな、ヒロ。これは実験なのだ。王都に行った時、酒場の女性から聞いたのだ。男性を落とすには酔った振りして寄りかかればいいと。」



「・・・そうですか。どうでもいいですけど、男性の心を落とすではなく、領主様、息が出来なくて落ちそうになってますよ?」



先ほどまで勢いよく動いていたラインベルトの手がピクピクとしか動かなくなっていた。



「なんてことだ、ラインベルト。これは人工呼吸だな。」



エルダは、ラインベルトを胸から離し、ラインベルトの顔を両手でしっかりと持って、口を近づけていく。



「だ、大丈夫だよ、エルダ!生きてる、生きてる!エルダ、生きてるからやめてー!」



ラインベルトは、必死に抵抗しようとするが、この好機を逃がそうとするエルダではなかった。



が、その時、何かがヒロ達のテーブルの上に飛び乗り、エルダの両手を叩いてラインベルトの顔から外し、その後でエルダを蹴り飛ばした。



派手に吹き飛ぶエルダ。エルダの後ろにいた獣人だけのテーブルに衝突し、獣人達のテーブルの上の料理はすべて床に落ちてしまった。



とっさに椅子から立ち上がり、自らのテーブルから距離を取るヒロとレキエラ。その2人の目の前には、ジュリから魔王と聞いていた美少女がテーブルの上に立っていた。



「レキエラさん!」



ヒロがレキエラに声をかけたと同時にレキエラは、腰のナイフを抜いた。そのナイフはヒロがあげた麻痺の効果があるナイフだった。



次の瞬間、レキエラは、後ろへと飛んだ。そして、レキエラが今までいた場所を椅子が凄い勢いで通り過ぎていった。



レキエラが椅子が飛んできた方を見ると、そこには不気味に笑う高齢の男性が立っていた。先ほど確認した魔王と一緒にいた男性だった。



「おやおや、今のを避けられるとは・・・中々やりますね。」



「・・・お褒め頂くとは光栄だ、御老人。できれば、老人虐待と言われることはやりたくないのだが?」



高齢の男性とレキエラが睨みあう。



ヒロは決断した。魔王の前にはラインベルトがいた。ラインベルトを殺されるわけにはいかない。



ヒロは、初めて本気のスピードで魔王目掛けて走り、テーブルの上に飛び乗ると同時に魔王の腹部へと蹴りを放った。



魔王は、エルダが飛んだ方向を見ていたので、反応が遅れ、ヒロの蹴りを喰らい、エルダのように吹っ飛んでいった。そして酒場の壁にドカンッと凄い音をさせて衝突した。



ヒロは、何が起こっているのか混乱しているラインベルトの肩に手を置き、「領主様、早く逃げてく・・・。」と言ったところで、左脇に激しい衝撃を受けテーブルから落ちた。



テーブルから落ちたヒロはすぐに起き上がり、自分を攻撃した者の姿を見た。



そこにいたのは獅子族の男性だった。



「領主様、早く逃げて!」



ヒロの言葉でようやく動き出したラインベルトが酒場の入り口へと走る。そこにちょうどディートとグラハムが黒ウサギ族の女性2人と入ってきたところだった。



「んっ?おう、ラインベルトじゃないか?どうした焦って?」



ディートの言葉を聞き、ヒロは、瞬間的にその男はラインベルトの味方だと判断した。



「領主様を早く逃がしてください!」



ヒロの言葉にディートとグラハムはすぐに反応した。



元王子だけあって、このような場合は、すぐに体が動くように訓練されているのだ。



グラハムがラインベルトを抱え、ディートと共に建物の外へと全速力で逃げ出していった。



ヒロは、どうにかラインベルトを逃がせたことに安心し、ゆっくりと立ち上がり、獅子族の男を見た。



いつものヒロとは違い、真剣な表情だった。



魔王に飛ばされたエルダもすでに完全武装で立ち上がって、壁際で立ち上がっていた魔王を見ていた。



魔王の手には、漆黒のデスサイズが握られていた。



こうして、エストの住民に『パンプキン・サーカスの悪夢』と言われることになる夜の幕が上がった。


次回予告:あなたは次回、真の絶望を知ることになる。自分の買ったプリンを他の人間に食べられる絶望と同等の絶望にあなたは耐えられるか!(大嘘です。)

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