14 『ミサキ』 ハイドで遊ぶ
「ニーナとお前も座れ。」
ハイドは、茫然自失としているニーナと男に声を掛けた。
2人は、あまりの状況に考える許容量を超えたのだろう、言われるがままに目の前の椅子に座った。
「口裏を合わせとくぞ。ここでは誰も死ななかったし、何も起きなかった。俺達は、クルーアを飲んでいただけだ。あと、お前は、ただ通りかかっただけの男だ。たまたま、通りかかったらいきなり他の客が騒ぎ出して驚いたでいい。」
ハイドの言葉にニーナと男は何度も頷く。
「それで大丈夫なの?」
「ああ、下手な事言ってボロを出すよりも、知りませんよって態度で押し通す方が何倍もマシだ。誰かさんのおかげで、証拠もねぇーしな。」
「なるほど。『それのどこが面白いか、最初から説明してくださいと言われたら、もういいよと返したくなる』現象を利用した『相手のうわぁーこいつとは合わないや』という気持ちを強制的に発動させる行動理論というわけね。やるわね、ハイド。」
「ミサキの言っている事はまったくわからねぇーが、何も知りませんでいいんだよ。証拠さえなければ、法律で裁かれる可能性は低いだろーよ。」
「なるほど。要するにハイドの言いたい事は理解した。最初、ちょっと頭のおかしい人のふりをして、ばれそうになったら皆殺しってことね。」
「よし。ミサキが何度も『なるほど』と言っているが、少しも理解してないことを理解した。ミサキはしゃべるな。」
「なるほど。だが、断る。」
自信に満ち溢れた雰囲気のミサキ。
「・・・ミサキ、これ、お前が起こした問題なの分かってるよな?本来、俺らというか、この中で俺だけは関係ねぇーわけだ。それが、こんなに一生懸命、お前のために考えてるんだから、俺の言うこと聞いてくれてもよくねぇーか?」
「なるほど。確かにハイドの言う事はすべてにおいて正しい。まさに真実だろう。だが、この状況でさえもギルド『パンプキン・サーカス』のギルドマスターである『ほっかほっかのかぼちゃ』さんことミサキは、声を大にして言おう、断ると。」
「・・・もしかして、遊んでるのか?」
「何を言う、ハイド。私をみくびるな。私から言える事は、『今遊ばなくて、いつ遊ぶのだ。なぜなら、お前の明日はもう来ないのだから。』ということだけだ。」
「遊んでんだな。」
ハイドは、容赦なくミサキのパンプキンヘッドの頭の部分を叩いた。
思ったよりもやわらかく、弾力がある感触だった。
「さすが、私の見込んだ狼、ハイドだ。なかなか見所がある突っ込みだったぞ。特別にニーナと共に、我が『パンプキン・サーカス』に入ることを許そう。」
「それはそれは感謝の極み。だが、断る。」
「ま、まさか、すぐに『だが、断る。』を使えるとは・・・。類まれなる才能の持ち主だな、ハイド。だが、私は、お前が断るのを断る。」
「にゃ、衛兵が来たにゃ。」
カフェの入り口を見ていたニーナが、震えた声を出した。
カフェの中に入ってきたのは、10人の衛兵とカフェの店主だ。
「・・・どこにも、死体なんかないぞ?」
衛兵の一人が、カフェの中を確認して、店主を見た。
「そ、そんなわけは・・・。確かに、あの人達が・・・。」
「う~ん。と言っても、死体どころか血の跡もないんだからな。」
「本当にさっきはあったんです。ほら、外にいる人達も見たって言ってたじゃないですか!」
「それはそうだが、おい、お前達、ここに死体があってあたり血塗れだったというんだが、何か知っているか?」
「んっ?俺達か?いや、いきなり他の客が騒いで外に出て行ったが、それ以外はしらねぇーな。」
ハイドが、何言ってんだ、こいつといった雰囲気を醸し出している。
「し、し、知らないのにゃ、にゃ、にゃ、にゃーの肩を掴んでいた右手なんて知らないのにゃ。」
ニーナの目は泳ぎまくっている。
「し、知らない。俺は、知らないんだ。何にも知らないんだ。絶対に知らないから、早く帰してくれ。頼む。頼むよ~!」
殺されなかった唯一の男は、半分錯乱していた。
(駄目だな、こりゃ。)
ハイドは、あまりの他の奴らの嘘の下手さに呆れかえるしかなかった。