148 偽魔王討伐編(4)
エストの城の会議室の中には、ラインベルト、ジュリ、エルダ、ヒロ、レキエラが席についていた。
時刻は、夕方になろうとしていた。
ラインベルト達がエストに到着したのは午前中だったのだが、ジュリがヒロ達も含めて話をしたいとして、ラインベルト達にヒロが帰って来るまで待つように言ったのだ。
ジュリから今回は出来るだけ少人数にして欲しいということで、ルーベル爺は、会議に加わることを辞退したのだ。
ジュリは「別にルーベルさんなら構わないわよ?」と言ったのだが、「私は、ただの執事に過ぎませんから。」と固辞されたのだ。
出るところは出て、引くところは引く、まさに執事の鑑であった。
ジュリは、どうせ後からラインベルトがルーベル爺には言うだろうと思い、特に無理に出席を求めなかった。
「ヒロ、今回はお疲れ様。」
「いえ、当然のことをしただけですから。」
「そうよね。」
ヒロはジュリの素っ気無さにやや不満を抱いたが、ここで言うのも恥ずかしいので、特にそれ以上は言わなかった。ただ、もうちょっと褒めてくれてもという思いはあった。
ラインベルトは、まだ報告を受けてないらしく、ちょっと聞きたそうにしていたが、ジュリが「後で詳しく報告するから。」と言って、先に集めた理由を説明し始めた。
「今日集まってもらった理由だけど・・・簡単に言うわね。魔王がこのエストに現れたわよ。」
「ま、魔王ですか?」
ラインベルトはよく分からないといった表情だった。
「そうよ。話くらい聞いたことあるでしょ?300年前に現れた魔王と呼ばれる存在について。」
「はい。ですが、御伽噺みたいなものでしか聞いた事がないので・・・。」
「それで構わないわ。魔王というのは実在していて、そして、今、このエストに現れたということを理解してもらえれば。」
ジュリが説明した内容は簡単だった。
魔王が現れたので、このエストに近隣のSクラスの冒険者達を招集したということだった。
「これは、冒険者組合が出来た時からの決まりなの。・・・ほとんど知る人は少なくなってしまったけどね。」
「それで、私達は何をすればいいのでしょう?」
「何もしなくていいわ。むしろ、魔王にこちらの動きを悟られないように普通にしておいて頂戴。魔王も今は動く気配はないから。魔王を刺激してエストが崩壊なんてことになったら困るでしょ?」
ラインベルトはやや涙目になりながら強く頷いた。
「安心しろ、ラインベルト。お前には、私という騎士がいるではないか。」
エルダがラインベルトの肩をギュっと抱きしめて励ました。
ヒロは、そんなエルダの行為を見ながら、(エルダさん、意外と優しいんだよな・・・ただ、領主様とエルダさん・・・席近すぎない?)と思っていた。
この会議室の席は円卓なのだが、とても隣同士が肩を組めるような距離ではないのだ。
何故か、ラインベルトとエルダだけがほとんど肩がつくような距離に椅子を動かしていた。
「それは分かりましたけど、何で俺がこの場に呼ばれたんですかね?」
領主であるラインベルトとその騎士エルダ、兵士衛兵を束ねるレキエラまでは分かるが、ただの最下級のEランク冒険者であるヒロが呼ばれた理由が分からなかったのだ。
「ええ、それは、ヒロとそこのエルダさんに魔王を一度見てもらいたいのよ。」
「私もか?」
ジュリはエルダに頷いた。
「何故ですか?俺達が魔王みても何かできるとは思えないんですけど?むしろ、今の話を聞いて、別の場所に移住しようかななんて考えたりしないこともない・・・・ことはないですけど。」
ヒロ、ジュリを始め会議室の全員から睨まれた。
「ヒロ・・・逃げたらちょん切るからね。」
ジュリの目は据わっていた。
「何をちょん切るか主語を求めてもいいですか?」
「聞きたいの?」
ジュリの視線は、ヒロの下半身方面を凝視していた。
「いえ、結構です。逃げません。頑張ります。」
ヒロは、一度も使わないうちにちょん切られる恐怖を思い、死ぬ気で頑張ろうと決心した。
「私の目で見たところ、確かにとんでもない強さだけど、もしかしたら、ヒロとエルダさんだったら、どうにかできるかもしれないと思って。当然、仕掛けるとしたら、Sクラスの冒険者達が到着してからになるけど、とりあえず、顔くらい見ておいて欲しいのよ。」
「まあ、顔を見るくらいは構いませんけど、どこにいるんですか、その魔王は?」
「普段は、ある建物の3階からじっともの凄い目つきでいつも街を見てるけど、さすがにそこに行くのは危険だから、魔王達は、夕食をいつも冒険者組合の酒場で取っているから、そこで夕食を取る振りをして、顔の確認をしておいて。」
ヒロとエルダは、ジュリの言葉に頷いた。
「ただ、街中で魔王の話は禁句よ。・・もうすでに獣人達の中で魔王の軍門に下ったらしき行動を取る者が現れているから。」
「分かりました。」
ヒロとエルダは再度頷き、会議は終了した。