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147 偽魔王討伐編(3)

登場人物


ミサキ・・・『パンプキン・サーカス』のギルドマスター。


ハイド・・・狼族。傭兵ギルド『抗う心臓』の一員。


トリス・・・クリオラの森にいたねずみ族の族長。


ギ・ガ・ゾルド・・・クリオラの森にいた獅子族の族長


ドルト・・・ミサキの執事にして、『パンプキン商会』の会長。


「ふぅー・・・暇ね。」



ミサキは借りたエスト建物の3階の事務所で優雅にクルーアを飲んでいた。



「ミサキ、ひとつ言いたいことがあるんだがいいか?」



ミサキの目の前でいろいろと動いていたハイドが立ち止まり、ミサキを睨みつけた。



「何かしら?」



「暇なの、お前だけだからな。」



ハイドの言う通りだった。



エストに来て、この2週間弱は、新たな店舗をオープンするためにドルトとハイドだけでなく、あのニーナでさえも、非常に忙しく過ごしていたのだ。



「あら、これは心外。私だって、ひじょーに忙しい日を過ごしているのよ、ハイド。」



「ほう、だったら、この数日何をしていたのか言ってみろ。」



ハイドが怒り心頭な表情でミサキに迫る。



「この3階の窓から通りを眺めて、目に付く獣人がいたら、お茶に誘ってモフモフしたり、私のかわいいぬいぐるみであるねずみ族のトリスの毛を櫛で梳いてあげたり、私のかわいいおもちゃである獅子族のギ・ガ・ゾルドをからかったりともう本当に困っちゃうほど忙しいわ。」



ミサキ、誰が見ても顔がにやけていた。



「・・・一応言っておくけどな、ミサキ。まず、ねずみ族のトリス爺さんは、ねずみ族の族長で森の賢者と呼ばれるほど偉い人なんだからな。本来、お前が気安くあの毛並みに触れることができるような人物じゃねぇーんだぞ?」



その時、3階の事務所のドアが開き、ねずみ族の族長トリスが入ってきた。



「ミサキよ・・・毛を梳いてくれ。」



「あら、癖になっちゃった?しょうがないわね。・・・あっ、でも、残念なのだけど、そこの変態狼が私の寵愛を受けるトリスに嫉妬して、もうトリスを可愛がらないでくれって汚い涙と鼻水を流しながら泣きついてきたばかりなの。ごめんね。」



「な・・なんと・・。もうあの神技のような梳かしを受けられないとは・・・世界の終わりだ・・・。」



絶望のあまり絶句するトリス。



「本当にごめんね。ハイドさえいなければ、いくらでもやってあげるのだけど。」



ミサキはチラチラとハイドとトリスを交互に見ていた。



「そ、そうであったのか・・・あのハイドのせいで・・・。」



トリスは非常に悲しげな表情だった。



「そうなの。ハイドさえいなければ・・ハイドさえ消えれば・・・ハイドさえ死ねば・・・。」



「ちょっと待て、ミサキ。お前、何、トリス爺さんを洗脳して俺を殺そうとしてるんだよ。」



「そうか!ハイドが死ねば・・・。」



トリスは閃いたとばかりに手を叩いた。



「だから、ミサキの言いたいことを理解しちゃ駄目だって、トリス爺さん。」



ハイドは、トリスの両肩に手を置き、トリスを揺さぶった。



「はっ、ワシは今、何をしていたのだ?」



「ようやく正気に戻ったか。」



ハイドは安心してトリスの肩から手を離した。



「チッ。」



ミサキの隠す気のさらさらない舌打ちが部屋の中に響く。



「ふむ。今日は忙しいようだな。それでは、またの機会に御願いするとしよう。・・・ワシもやらなければいけないことが出来たでの・・・ハイドの暗殺を・・・。」



トリスは、物騒なことを呟きながら部屋を後にした。



「・・・うん。全然、洗脳が解けてねぇーな。これから身辺には気をつけよう。」



そんなトリスの様子を見て、ハイドは強く心に誓った。



トリスが出て行ってすぐに今度は獅子族族長ギ・ガ・ゾルドが入ってきた。



「おい、ミサキ。今日こそは我と勝負してもらうぞ!」



ズカズカと近づいてくるギ・ガ・ゾルドにミサキは凄い速さで椅子から立ち上がり、ギ・ガ・ゾルドの胸に飛び込んだ。



「ああん、ギ・ガ・ゾルドさまぁーん。私もそうしたいのはやまやまなのですが、実は、今朝、右手の手首を傷めてしまいまして・・・。」



ミサキ、右手の手首を押さえながら、痛がる振りをした。どう見ても大根役者である。しかし、ギ・ガ・ゾルドには通用した。



「何!それは本当か!・・・だったら仕方ないな。またの機会とすることに・・。」



「それだけではないのです、ギ・ガ・ゾルドさまぁーん。こんな手にも関わらず、そこのハイドが重い荷物を持てと責めるんですぅー。私、気が弱いから、怖くて、怖くて・・・代わりに誰かやってくだされば、いいのだけれど・・・。」



ハイドを睨みつけながら、ギ・ガ・ゾルドは高らかに言った。



「なんと酷い男だな、ハイドは。よし、俺様に任せろ。」



「もしかして、ギ・ガ・ゾルド様が私の代わりに仕事をやってくださるのですか?」



「ああ、こう見えても力仕事は得意だ。」



胸を張るギ・ガ・ゾルド。その姿を横で見ながら、いや、力仕事しか得意にみえねぇーよとハイドは心の中で思っていた。



「それでは、下の階にドルトがいますので、仕事内容はドルトに聞いてください・・・さすが、頼れる男性ですぅー、ギ・ガ・ゾルド様は。」



ミサキは、まるで初恋の人にあったかのような表情でギ・ガ・ゾルドを見つめた。



「まかせておけ!」



ギ・ガ・ゾルドは、入ってきた時より大きな足音で部屋を出て行った。



「チョロ過ぎ。」



ミサキは、小声で呟いた。



ハイドも、「あっ、うん。アイツ、本当にチョロいな。」と呆れた表情でギ・ガ・ゾルドの後ろ姿を眺めていた。



ギ・ガ・ゾルドは、ミサキが約束を破った最初の日も、朝、ミサキを尋ねてきたが、ミサキが「ゴホッ、ゴホッ・・実は、風邪を引いてしまって。」と言うと、「やはりそうであったか。お主のような王族への礼儀を心得ている者が約束を破るはずはないと思っていた。」と言って納得して帰って行った。



それ以来、毎日、ミサキの下へ通い続けているが、その度にあれこれミサキに言われ、結局、パンプキン商会の開店準備を手伝っていたのだ。



「ハイド、ひとつわかったことがあるわ。」



「何だよ、ミサキ?」



「ギ・ガ・ゾルドは、私より暇人よ。」



「・・・だろうな。」



ハイドは、確かに暇人でなければ、毎日、ミサキの下に通いつめて、仕事まで手伝ったりはできないよなと納得した。



トリスとギ・ガ・ゾルドの訳の分からない行動に毒気を抜かれたハイドは、ミサキの相手を辞めて、仕事に戻って行った。



しかし、ハイドは、気付いていなかった。ギ・ガ・ゾルドの行動は、ハイドがやっていることをなんら変わりがないということに。



「ハイド、お前、いつからパンプキン商会に入ったんだ。お前、傭兵ギルド『抗う心臓』の一員だろ。」と誰も突っ込む者はいなかったからだ。



それゆえに、ハイドは気付くことなく働き続けた。


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