145 偽魔王討伐編(1)
登場人物
ラインベルト・・・エストラ男爵
エルダ・・・ショタ。変態。『パンプキン・サーカス』のメンバー。
ディート・・・元王子。
グラハム・・・元王子付きの騎士。
シャーリー・サキュ・・・エスト冒険者組合支部長ジュリの姉。サキュ商会会長。ジュリの姉なので当然サキュバス。
「でだ、何で俺達は、空を飛んでいるんだ?」
空飛ぶ馬車の中にいるのは、ディート、グラハム、ラインベルト、そしてエルダの4人だった。
この馬車は、エルダのフォルクスともう1頭フォルクスと同型のファルクスの2頭が引いていた。
元々、『グランベルグ大陸』の時にエルダが作った馬車である。
なぜフォルクスとファルクスだけでなく、馬車自体も飛んでいるのかというと、実際のところエルダにも分からなかった。
ゲーム内でそうだからとしか言えなかったのだ。
馬車に魔石のような物がついているので、これが関係しているのではないかとは思っていたが、はっきりと理解することはできなかった。
「馬車は空を飛ぶものだろう?」
「んなこと聞いたこともねぇーよ。」
分からないことでも自信満々に答えるエルダにディートは呆れていた。
ラインベルトはというと、普通に馬車の中でくつろいでいた。
エルダが理解不能なものを出すのはこれが最初ではなかった。
すでにラインベルトには免疫があるのだ。
この馬車は、ヒロの『とめどない強欲の指輪』の中に入っていた物だが、ヒロと会った時にヒロから受け取って、エルダのアイテムボックスの中に入れていたのだ。
「何に使うんですか?」というヒロの問いに「馬車を何に使うとは、変な質問だな、ヒロ。」とエルダは答えた。
「そうですよね。元々、エルダさんの持ち物ですので、渡すのは全然構いませんよ。」と素直に渡したのだが、受け取って去り行くエルダが、「男女が同じ馬車に乗っていれば、やることはひとつしかないだろう。」とボソッと呟いたのを聞いて、やはり渡さなければ良かったと後悔したのだ。
グラハムは、意外と平気そうな表情で馬車の中にいたが、時折、「ウッ。」と吐きそうな顔をしていたので、昨夜のお酒がまだ抜けきっていなくてそれどころではないというのが本音かもしれない。
「まったく、俺達は、今日、王都を出発する予定だったんだぞ。」
「すでに王都を出発しているじゃないか。」
「目的地が違いすぎるだろうが。クリスティアン伯爵領に行く予定が何で最北西の田舎であるエストラ男爵領になんかに行かなくちゃいけないんだよ、まったく。」
「えっ!・・・申し訳ありません、ディートさん。」
「あっ、わりぃ、ラインベルト。そういう意味じゃなかったんだよ。」
ディートは、ラインベルトに謝った。つい出た言葉とはいえ、ラインベルトの治める領のことを悪く言ったのだからディートが謝罪するのは当然だった。
「何をそんなに怒っているのだ、ディート。そもそも、エストラ男爵領に行こうと言ったのはお前だぞ?」
「そうですよ、ディート様。私は、止めたんですからね。」
エルダとグラハムが言うには、完全に酔っ払ったディートが、エストラ男爵領に行きたいと言い出したらしい。
その言葉を聞いたラインベルトが、「是非、いらしてください。」と答え、エルダが、「だったら、今から来ればいい。」と馬車とフォルクスとファルクスを出し、そのまま、妖艶酒家から出発したらしい。
「いや、普通は酔っ払いの戯言と思うだろ?」というディートの嘆きは誰の耳にも届かなかった。
「まぁ、いいではないですか、ディート様。エストラ男爵領には、ディート様が見たがっていた黒ウサギ族がいるそうですし、なにより、あのシャーリー・サキュ殿の妹君がいるとか。是非、一度拝見させていただきたいと思いませんか?」
「・・・そうだな。そう言われれば、行きたくなってくるな。なんか楽しみになってきたぞ。」
ディート、単純な男であった。いや、グラハムがディートの扱いを心得ているというべきか。
グラハムはというと、特にエストラ男爵領に行くことには特に抵抗はないらしかった。
クリスティアン伯爵領であろうが、エストラ男爵領であろうが、グラハムにとっては、ディートさえ、隣にいれば変わりはないというところだろう。
そして、3日後、眼下にエストが見えてきた時には、すでにディートの機嫌は直っており、むしろ、エストに着くのが今か今かと待ち遠しいそうにしていた。