144 ヒロ in ガジール山脈(10)
ヒロが、ドワーフ達にアースドラゴンの鱗で作ったスコップを見せてから、すでに10日が経過していた。
しかし、未だにヒロは、あの避難先の坑道にいた。
何度かドワーフの地下空洞には出向いたが、それ以外はこの坑道で過ごしていた。
地下空洞に行ったのは、亡くなったドワーフ達をこちらに運ぶためと地下空洞にあった食料と酒をこちらの坑道に運ぶためだった。
それ以外にも、ドワーフ達の個人的な日常品を地下空洞からこちらの坑道に運んだり、亡くなったドワーフ達の葬式をして埋葬したり、いろいろと忙しかった。
ヒロとしては、早くにエストに戻り、情報を持ち帰らなければいけないと思っていたのだが、レキエラが、「急いで帰っても、どうせエストラ男爵はまだ王都アウグスティンから戻ってはおらん。それよりも、ヒロはドワーフ達を手伝ってやってくれ。」と言われ、いろいろと手伝っているのだ。
ただ、まったくこちらの情報を知らせないというのはまずいので、レキエラとシリルは、2人で先にエストに戻って行った。
ガドンガルは、元々ドワーフの集落で暮らしていたので、こちらに残るのは当然だが、何故かミュミュも残っていた。
「・・・レキエラさん達と戻らないの?」
「私の居場所は、ヒロさんのそばですから。」
ミュミュの言った言葉は、状況が状況ならなんとも熱い愛の告白みたいだが、ヒロはそうではないということを痛いほど理解していた。
ドワーフ達は、この1週間でかなり住みやすいように避難先の坑道の拡張を行っていた。
もはや、坑道ではなく、新たな地下空洞と言っても過言でないくらいであった。
たった1週間で、なぜ、これほど広げることができたかと言うと、ヒロの出したスコップのおかげだった。
あのスコップは面白いように掘れ、あの岩も豆腐のように綺麗にくりぬくことに成功していた。
その際、なんと岩をくりぬいた先に大量のミスリル鉱床を発見し、ドワーフ達は喜び、ここに住むことに決めたのだ。
本格的に採掘に取り掛かる前に、まずは住処をなんとかしないといけないということで、ミスリル鉱床を掘り進めることを我慢して、全員で拡張を行っているのだ。
現在、ヒロは、20本スコップを出してる。
最初の3本の時に問題が起こったので、出すか出さないかで迷ったヒロだが、ある程度、まとまった数を出せば問題ないだろうと、総数20本になるようにスコップを出したのだ。
ただ、ドワーフの喜びようをみているとこれが終わってからスコップを返してもらえるのか、ヒロはちょっと不安だった。
一応、絶対に返すように言って渡しているのだが、ここ何日か一緒に過ごしてわかったことだが、ドワーフは己の欲望にかなり弱いので、最悪、最初の3本はあげて、残りの17本を絶対に返してもらおうと心に決めていた。
それにしても、ドワーフが凄いのは、適当に掘っているように見えて、地中にも関わらず、方角を間違えることはない上に地下水脈などの場所を予想するのも非常に巧みで、新たな地下空洞の中は、すでにいっぱしの街の様相を呈していた。
「ハルム村方面の坑道が掘り終わったべ。」
拡張と共にハルム村方面のトンネルも掘っていたのだ。
これで、ガジール山脈の魔物を気にすることなく、ガジール山脈の麓に出ることができる。
この新しい地下空洞は、ハルム村方面と逃げる時に使ったガジール山脈に出る場所以外は出口を作らないことにしたらしい。
ついでに言えば、元々使っていた地下空洞も出入り口は、すでにガジール山脈の出入り口のみとなっている。
テトリナ子爵領方面の出入り口は、完全に崩落させて潰してしまったのだ。
それも当然の処置だった。あんなことがあってもまだテトリナ子爵と取り引きを継続しようと思う者はいないだろう。
そんな日々を送っていたヒロの元に、レキエラとシリルが再び、戻ってきた。
「ヒロ、至急、エストに戻ってくれ。大問題が起きた。」
レキエラの表情は、いつもとは違い焦っていた。
「何が起きたのですか?」
「それは帰りながら説明する。」
焦るレキエラを見て、ドワーフ達も快く「それは大変だべ。」「急いで行くがいいぞ。」と送り出してくれた。
「わかりました、レキエラさん。急ぎましょう。」
ヒロは、レキエラとシリルとミュミュと何故かガドンガルも一緒にエストに戻っていった。
ヒロが急いで戻っていった後の新しい地下空洞では、ドワーフ達がほくそ笑んでいた。
「やったべ。ヒロは忘れてるべ。」
「んだ、んだ。このまま、忘れてくれるとこれはオラ達のもんだ。」
ヒロは、急いで帰ったため、ドワーフ達に貸したスコップの回収を忘れていた。
そのことにヒロが気付くのはエストに到着した後だった。
次回から『偽魔王討伐編』です。
まあ、討伐編と銘打つほど長くはないと思いますが・・・。