143 ヒロ in ガジール山脈(9)
『アレキサンダー偏屈王』は、非常に話し好きのメンバーで、暇さえあれば、いや、暇がなくても、話し続ける人だった。
ヒロは人当たりがいいので、よく『アレキサンダー偏屈王』につかまり話し相手をさせられていたのだ。
ある時、「ヒロリン、今までに人類が作った鉄製の武器の中で一番人を殺している物は何だと思う?」という問いと投げかけられた。
「えっ?・・・それは剣・・・と見せかけて、槍じゃないんですか。」
「ふふふ、おしいな、ヒロリン。答えはスコップだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・武器じゃないですよね?」
「何を言っている、ヒロリン。これほど身近にあり、叩くもよし、刺すもよしの何でもありの武器などないではないか。今から500年くらい昔は、戦士は戦場にスコップを持って行ってたんだぞ。これは、イギリスにいるフィリップ・レクマード博士が論文に書いていたことだぞ。」
「そうなんですか。さすが『アレキサンダー偏屈王』さんですね。そんなイギリスの論文まで知っているなんて。」
「ああ、そうだろ。だから、今回手に入れたアースドラゴンの鱗でスコップを作りたいのだが、ヒロリンも俺の意見に賛成してくれないか?」
ギルド『パンプキン・サーカス』では、手に入れた素材は欲しい人が立候補して決めることとされていた。
その際、欲しい物がかぶった際は、他のメンバーがどちらに渡すのがいいかを多数決で決めていたのだ。
「・・・そのイギリスの博士って実在するんですか?」
「当たり前じゃないか!フリップ・レイヤード博士は、俺の尊敬する人物だぞ。」
「・・・名前が微妙に違いますよ。」
「・・・フィリップ〇リス博士?」
「すでに人物名ではなく、タバコの銘柄になってますよ。」
結局、『アレキサンダー偏屈王』は、みんなに似たような話をし、その度に微妙に名前が違い、メンバーに呆れられたが、あまりに必死でかわいそうだったため、同情票が集まり、アースドラゴンの鱗を手に入れることができたのだ。
ちなみに、手に入れた後、メンバーみんなが『アレキサンダー偏屈王』がスコップを使って戦うところを楽しみにしていたのだが、結局、一度も『アレキサンダー偏屈王』はスコップを使って戦うことはなかった。
ヒロが、あまりに使って戦わないので、「『アレキサンダー偏屈王』さん、この前、手に入れたアースドラゴンの鱗で作ったスコップは使わないんですか?」と聞いたところ、「えっ、スコップを戦いで使ってどうするんだい?スコップは土を掘るものだろ。」と真面目な顔で言われたのだ。
それ以来、ヒロは素材の所有権をかけた多数決で『アレキサンダー偏屈王』に投票したことはなかった。当たり前である。
後で知ったことだが、『アレキサンダー偏屈王』はどっかの農家の人らしかった。
そのため、スコップやツルハシ、鍬など農作業で使う物をとんでもない素材で作りたかっただけらしい。
ただ、アースドラゴンの鱗と言っても、結構あったため、あれだけの量を使って他に何か作ったのかと思ったら、全部、農作業の道具を作ってしまっていたらしい。
ギルド『パンプキン・サーカス』の金庫の中に、大量の農作業用の道具が眠っていたのが、その証拠だった。
他のギルドで同じことをしたら、除名されても文句が言えないようなことであるが、ギルド『パンプキン・サーカス』では、逆に面白いとほとんどのメンバーが認めてしまったため、処罰なしということになった。
そのほとんどのメンバーの中にヒロは入っていないのだが、だからと言って、ヒロが『アレキサンダー偏屈王』のことを嫌いになったかというとそんなことはなかった。
こういう他のギルドでは起こりえないことが『パンプキン・サーカス』の日常であり、常識であったからだ。
まあ、他のメンバーのとんでもなさ度が振り切っていたというのもあるかもしれないが。
で、現在、ドワーフ達はヒロの目の前で殴りあっていた・・・。
3本しか出さなかったのは失敗だったなと思うヒロであったが、今更、出すこともできず困っていた。
まさか、アースドラゴンの鱗でできたスコップとはいえ、殴り合ってまで使いたいとは、ヒロの理解を超えていた。
結局、30分ほどヒロはドワーフ達が殴りあう姿を見るはめになったのである。