142 ヒロ in ガジール山脈(8)
朝起きて、ヒロが隣を見ると酒瓶を抱えたドワーフの気持ちよさそうな寝顔があり、思わず吐きそうになるのを堪えた。
昨日の夜、ヒロは、1人離れて寝ようとしていたのだが、寝てすぐ後に体を軽く叩かれて、目を開けてみると、そこに黒ウサギ族族長のシリルがいたのだ。
シリルはかなりお酒を飲んだようで、酒臭かった。
「えっと、何ですか?」
シリルはヒロのことを嫌っていると思っていたので、何を言われるのか不安に感じながら上半身を起こした。
「・・・ヒロ、年上の女性ってどう思う?」
「えっ?年上の女性って・・・いいんじゃないんですか?」
ヒロはシリルが何を言いたいのか理解できず、無難な答えを返した。
「そう。・・・ここに年上の女性がいるのだけど?」
「・・・酔ってます?」
「もう、分かってるくせに。ここには私の夫もいないのよ。ほら、この豊満な胸を触ってみたいと思わない?」
シリルがヒロに豊満な胸を押し付けてきた。
なるほど・・・そういうことか、とヒロはようやく理解し、シリルに言った。
「ごめんなさい。人妻には興味がないので。」
そして、その場にシリルを置いて、急いでドワーフ達が宴会をしている場所に逃げて結局朝方近くまでドワーフに飲まされたのだ。
それにしても、ジュリといい、シリルといい、この世界では謹みというか恥じらいはないのかと、ヒロは残念に思っていた。
まあ、シリルはお酒が入っていたから仕方ないと思いはしたが、だがしかし、ジュリ、お前は駄目だ、と心の中で思っていた。
ドワーフ達が起きて、朝食をみんなでとった後に、ドワーフ達とヒロは、今、昨夜泊まった坑道の一番奥に来ていた。
「ほら、見るべ。ここにでかい岩があるべな。これのせいでこれ以上掘れんのだべ。」
ドワーフは通常、多少の岩石は関係なく掘り進めることが出来るらしいが、そこにある岩はあまりに大きい上に厚く、そして固いため、掘り進めるのを断念したらしい。
しかし、せっかくここに来たので皆で解決策がないか、考えるためにやって来たのだ。
なぜ、それにヒロがいるかというと、ぶっちゃけ、昨日のことがあり、シリルと顔を合わせづらいということもあるが、大きな理由はレキエラが余計な一言を言ったためだった。
「ヒロなら珍しい武器を持っているから、何か良い解決策が浮かぶのではないか?」
話し合っていたドワーフ達にこの言葉を投げかけ、そして、ヒロは懇願されて連れてこられたのだ。
「・・・これ一応、大きいけどただの岩ですよね?」
「んだ。」
「だったら、これを俺が触って、アイテムボックスに入れれば、この岩はなくなるんじゃないんですか?」
ヒロとしては、画期的な考えだと自信を持っていったのだが、ドワーフ達から非常に冷たい視線を浴びる羽目になってしまった。
「本気だか?」「おいおい、誰だべ、こんな奴連れてこようって言った奴は?」「ドワーフだったら、殺してるべ。」
ヒロ、散々な言われようである。
「はははっ、すいません。」
ヒロ、見た目は笑ってはいたが、心の中では、ハラワタが煮えくり返っていた。
「ヒロ、この岩を一瞬でどけると何が起こると思う?」
ガドンガルは、他のドワーフ達とは違い、ヒロを優しい目で見ていた。
「・・・ああ、なるほど。崩落する危険があるんですね。」
ヒロの答えに満足そうにガドンガルが頷いた。
「だから、出来れば岩を破壊しないで済む方法が最善なのだが、あまりに岩が大きいため、迂回することもできんのだ。まあ、鋭い物で岩をくりぬくことが出来ればそれでもいいのだがな。」
「それなら、簡単じゃないですか。」
ヒロにドワーフ達の視線が集中した。ほとんどのドワーフが、何言ってるんだ、こいつという目つきだったが。
ヒロは、『とめどない強欲の指輪』の中からスコップを3つ取り出した。
ドワーフ達は、ヒロが取り出したスコップを全員が凝視していた。
誰一人、視線をスコップからはずそうとしない。
それもそのはずだった。
このスコップの先は、アースドラゴンの鱗で出来ており、柄の部分は、アダマンタイト製だからだ。
当然、これはヒロの持ち物ではない。
ギルド『パンプキン・サーカス』のメンバーの1人である『アレキサンダー偏屈王』の持ち物だった。
ドワーフの方言はむちゃくちゃですので、あまり気にされないでください。ちなみに作者の地方の方言ではありません。適当です。外に出ていた期間が長いので、今では出身地の方言の使い方がわかりません・・・。