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141 ヒロ in ガジール山脈(7)


ヒロは、地下空洞でひとり落ち込んでいた。



ヒロの現在の姿は人間である。



すでにヒロの目の前にあるのは、動かなくなったドワーフの死体だけだ。



兵士達の死体と血はすべて吸血鬼状態の時に『とめどない強欲の指輪』の中に回収している。



現在、ヒロが落ち込んでいるのは、吸血鬼状態の時の自分の話し方や行動についてである。



「あああ・・・。俺はなんて恥ずかしい奴なんだろう・・・。」



今の年齢は15歳とはいえ、元は25歳である。



さすがに、中二病で片付けるには歳を取り過ぎていた。



ついつい調子に乗ったというか、気分が高揚したというか、・・・簡単に言えば、恥をさらしただけであった。



幸い、あの姿を見た兵士のほとんどは死んでいるはずだが、一部、テトリナ子爵方面の坑道から逃げ出した者がいるのもわかっていた。



別に全滅させるつもりはなかったので、あえて追いかけはしなかったのだが、今考えれば自らの恥ずかしい姿を他人に言われるくらいなら、皆殺しにすればよかったと後悔していた。



今となっては、エルダの言ったことは正しかったと思わなくはないが、自らの恥をそそぐために皆殺しという考えはさすがに人間辞めているのではないかと思わないこともなかった。



「今更考えても仕方ない・・・。戻るか。」



ヒロは、『純血の乙女』を取り出し、少し飲んだ。



そして、空間魔法『テレポート』を使用し、ドワーフ達を飛ばした場所にテレポートした。



ヒロが、飛んだ場所には、レキエラとシリルとミュミュがいた。



「あれ?待っていてくれたんですか?」



「ああ、ちょっと予定と違う場所に避難したのでな。それで、向こうはどうしたのだ?」



「・・・全員ではありませんが、」



ヒロは、『とめどない強欲の指輪』の中に入れておいた兵士の遺体を1体だけ取り出して、レキエラ達に見せた。



「なるほど。死体を持って帰ったのは正解だと思うぞ。動かぬ証拠になるからな。」



ヒロもそう思って持って来たのだが、レキエラに理解してもらえて安心した。



シリルは相変わらずヒロと目を合わせないようにしていたので、ヒロは少し落ち込んだ。



ただ、なぜ、シリルが頬を赤く染めているのかは理解できなかった。



トンットンッとヒロの背中側からミュミュがヒロの肩を叩いてきた。



「んっ?」



「お土産はどこですか?隠してる系ですか?楽しみは後に取っておく系ですか?」



ミュミュの目はキラキラして期待満々の目だった。



「・・・お土産って別にどこか旅行に行ったわけじゃないし・・・。」



ヒロ、まったくもってその通りであった。



「ま、まさか、お土産なし系ですか?・・・ありえません。ミュミュはそれだけを楽しみに待ってあげてたのに・・・。」



まさにガーンッという擬音がピッタリと当てはまる表情だった。



「・・・後で何か食べ物出してあげるから。」



「本当ですか?いつですか?今ですか?ミュミュの期待は最高潮ですか?」



再び、ミュミュの目がキラキラと輝き始めた。



「だから、あと。」



「わかりました。ミュミュは待ちます。いつまでも待ちます。・・・で、今ですか?」



仕方なく、ヒロは、何かの時のために『とめどない強欲の指輪』の中に入れていた非常食にするつもりだったノーマルブルの燻製を取り出し、ミュミュに与えた。



ミュミュはお礼も言わずに、ヒロから奪い取ると、ガツガツと食べ始めた。



「とりあえず、避難場所まで案内しよう。」



レキエラに言われ、ヒロは兵士の死体をしまい、レキエラの後をついていった。











5分ほど歩いた所にその坑道はあった。



「こう見えて、かなり中は広いぞ。」



入り口は、大人3人が並んで入れるかどうかだったが、入って少し歩くと地下空洞ほどではないが、かなりひらけた空間が広がっていた。



ヒロの姿は、先ほど少ししか『純血の乙女』を飲まなかったため、すでに人間の姿に戻っていた。



「ヒロ!感謝するぞ!」



入ってすぐにガドンガルがヒロに抱きついてきた。当然、ヒロはうれしくない。が、そこで避けるような人間ではなかった。



「気にしないでください、ガドンガルさん。とりあえず、地下空洞の兵士達は排除してきましたが・・・あの・・地下空洞の死体なんですが、どうしますか?ここに運ぶこともできますが?」



「・・・お願いできるか?」



「はい。」



ガドンガルは、ドワーフの仲間が解放されたことにより少し安心したようで、仲間の死体という話について、先ほどまでは見せなかったような悲しげな顔をした。



「えーい。悲しんでも始まらん。今日は皆の再会を祝して飲むぞ!」



「おー!酒か!」



「酒じゃ!」



他のドワーフ達も騒ぎ出した。



ヒロは仕方なく『とめどない強欲の指輪』の中に入っていた日本酒、焼酎、ワイン、ブランデー、ウイスキーなど『グランベルグ大陸』の中で交易品として扱われていた酒類を大量に取り出した。



「なんじゃ、これは?」



「酒か?酒なのか?」



「珍しいぞ!」



「こりゃ、うまいぞ!」



ヒロが飲んでもいいと言う前にすでにドワーフ達は飲み始めていた。



仕方なく、急いでつまみになるような食べ物や女性や子供もいるので様々な食べ物も大量に取り出した。



ミュミュがまず先にガツガツと食べ始め、それを見ていたドワーフの女性や子供も食べ始めた。



「皆さん、食欲があるようでよかったです。」



「まあ・・珍しい話ではないからの。」



ヒロの言葉に答えたレキエラの言葉がこの世界の実情を物語っていた。



この世界では、いきなり身内がなくなることなど日常の一部なのだ。



今回の事件は、それを感じることのできる事件だった。



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