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140 ヒロ in ガジール山脈(6)


いきなり酒場から出てきたヒロを見て、ドアの横に立っていた兵士達は固まっていた。



出てきたのがドワーフであるならば、すぐに対応できただろうが、出てきたのがふざけたマスクをかぶった男だったからだ。



ヒロは、そんな兵士達には構わずにゆっくりと前に進み、ある程度進んだ場所で立ち止まり、周囲を見わたした。



すでに何人かの兵士達は、ヒロに気付き、注目していた。



「皆さん、ようこそ我が劇場にいらっしゃいました。心より歓迎致します。これより始まる物語は、悲劇の物語。是非、お楽しみください。なお、御代を払ってないという方は、御安心くださいませ。御代は・・・皆様の御命にて御支払いいただきます。」



ヒロは大きくよく通る声、大げさな振り付けで兵士達に挨拶をし、そして深く御辞儀をした。



「ふざけるな!」



ヒロの前にいた兵士2人が、ヒロに目掛けて、槍を構えて突っ込んできた。



そして、その兵士達が構えた槍は、見事、ヒロの胴体を貫いた。



槍の先端は、ヒロの腹部を通り、背中を突き抜けて、ヒロの後ろに立っていた兵士からも槍の先を確認がすることが出来た。



見ていた誰もが、ヒロの死を確信した。



普通の人間であれば、確実に致命傷だったからだ。



しかし、ヒロは、槍が体を貫いていることなど気にした様子もなく、腹部から伸びている2本の槍を掴んだ。



兵士2人は、ヒロの体から槍を引き抜こうと必死の形相で槍を引っ張っているが、その槍はまったく動く気配はなかった。



「おや、これは困りましたね。劇場では御静かにというのがマナーなのですが、どうやら、興奮しすぎてしまわれた御客様がおいでのようです。ですが、御気になさる必要はございません。当劇場は、御客様一体型の演目も御用意させていただいております。それでは、当劇場の一番人気である演目『兵士達と吸血鬼の悲恋。第1章 運命の出会い。』を御堪能くださいませ。」



ヒロは、腹部に刺さったままの槍2本を見た感じ軽く上に振った。



それだけで、槍を掴んでいた兵士は、空高く飛ばされ、そして、ガシャンッと大きな音を立てて地面に落ちた。



落ちた兵士2人は、「ううううっ。」と痛がっている様子が窺えるので、どうやら生きてはいるらしい。



ヒロは、その兵士2人の生死を確認することなく、腹部に刺さった槍を引き抜くと、一瞬でその2本の槍を跡形もなく消した。



ヒロは、『とめどない強欲の指輪』の中に仕舞っただけなのだが、周りで見ていた兵士達には何が起こったのか理解不能だった。



何よりヒロの腹部に大きくあいているはずの傷からは、一滴の血も出てなかった。



「・・・今、吸血鬼って言ってなかったか?」



「ああ、吸血鬼って言ってたぞ・・・。」



兵士達の間に動揺が広がっていく。



「おや、この演目は、吸血鬼である私とあなた方、兵士達の運命の出会いの場です。どうぞ、皆様、御遠慮なく演目への御参加をよろしく御願い致します。」



ヒロは周囲を見わたすが、兵士達で動く者はいなかった。



「これは、参りました。・・・それでは、新たな登場人物を出演させることに致しましょう。吸血鬼スキル『死者の冒涜』。」



地下空洞の隅の方で何かが動く気配がした。



兵士達が視線を音のした方へ向けると、そこには山積みにされていたはずのドワーフの死体がゆっくりと動き始めていた。



「これはなんということでしょう!吸血鬼である私と皆様方の恋を邪魔する恋敵が現れてしまいました。『第2章 翻弄される恋人達』始まりです。」



動き出したドワーフ達は、最初ゆっくりと動いていたが、その動きは段々と早くなり、兵士達へと殺到していった。



「う・・うわぁー!」



多くの兵達が、槍や剣でドワーフ達を攻撃するが、槍が刺さろうが、剣で斬られようが、ドワーフ達の動きが止まることはなかった。



彼らは、すでに死んでいるのだから止まるはずはなかった。



ドワーフ達の力はもの凄く、一度兵士達を掴んでしまえば、二度と離すことはなかった。



ある者は頭を引き千切られ、ある者は足を、またある者は腕を引き千切られた。



「「「ギャーーーーーー!」」」



地下空洞におびただしい血と絶叫が広がっていく。



「おやおや、これは困ってしまいましたね。まさか、これほどあなた方が弱いとは・・・。このままでは、演目の続行が不可能になってしまいます。仕方がありません。それでは、予定より早いですが、『最終章 恋人達の別れ』を御贈り致します。是非、あの世での世間話にでもしてくださいませ。」



ヒロは、血だまりの中に踏み入れると、ナイフを出し、自らの指先を少し傷つけた。



先ほど槍で傷つけられた時は一滴の血もでなかったにも関わらず、指先からは、一滴だけ血が出てきて、そして、血だまりの中に落ちた。



「これより、悲しき運命の総仕上げ。ありがちですが、最後は信じていた恋人に殺されるのがこの物語としての終着点。むしろ、恋人に殺されない悲恋など馬の糞にも劣ります。それでは、どうぞ御堪能ください。吸血鬼スキル『ブラッディ・レイン』。」



あたり一面に広がっていた血が、頭上5mの位置に集まっていく。



そして、血の球はすでに直径1メートルにもなっていた。



「それでは、本日はお越し頂きましてありがとうございました。これにて終焉(終演)でございます。」



ヒロが深く御辞儀をすると同時に、頭上の血の球が一斉に生きている兵士に向けて雨のように飛び散った。



その血の雨は、鉄の鎧を軽々貫き、まだ生きていた兵士達を黄泉路と送った。



あとに残ったのは、死んだ兵士の死体をさらにバラバラに引き裂くドワーフ達とヒロだけであった。


吸血鬼状態のヒロは、ダメージはすべてHPから引かれます。


そのため、どんな傷を受けようが、HPを0にしない限りヒロを殺すことはできません。


真祖であるヒロのHPは、とんでもない数値なので、鉄の槍で刺されたくらいでは、ほとんどHPは減っていません。

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