139 ヒロ in ガジール山脈(5)
「ちゃんと、目標の場所に着いたな。」
ヒロは、自分のいる場所が、先ほど『座標固定』したトイレの中ということで安心した。
まったく違う場所についたら、どうしようかと思ったからだ。
ヒロは、念のために、『とめどない強欲の指輪』の中から、『純血の乙女』を取り出し、もう1本飲んでおいた。
そして、トイレのドアを開けて、ドワーフ達を確認するとすぐに「空間魔法『テレポート』。」とドワーフ達にテレポートを使った。
一瞬のうちに部屋の中にいたドワーフが消えた。
そして、誰もいなくなった酒場をゆっくりと歩き、酒場の出入り口のドアの前に立った。
ヒロは、『とめどない強欲の指輪』からアイテム『嘲笑うマスク』を取り出した。
マスクは基本黒一色であり、目と口がまるで嘲笑っているかのような表情で穴が開いており、赤い文字で左の額のところに『4』の文字が描いてあった。
そのマスクを顔に装着した。
紐もなにもないのに、その『嘲笑うマスク』はヒロの顔にピッタリとくっついた。
そして、次に真っ黒いマントを取り出し、羽織った。
これが、ヒロが『グランベルグ大陸』で戦う時にする正装だった。
「フーッ」
ヒロは、大きく深呼吸すると酒場のドアをゆっくりと開けた。
「おーーー!お前達、無事だったか!」
ガドンガルは、ヒロの言った通り急に現れたドワーフ達を見て、うれしそうに抱き合っていた。
「んだ。・・俺達は無事だ。そっちはどうだべ?」
ガドンガルは、先にエストに避難した者達の名前を次々にドワーフ達に告げた。
「・・・んだば、ガドリコの奴は・・・。」
「言うな。この戦いで死んだのはガドリコだけではない。」
ガドンガルは気丈にも悲しさを見せなかった。
ガドンガルは、すでに数年前に妻を亡くしていた。
それを知っているだけに、ガドンガルの心の内を思い、ドワーフ達は悲しそうな表情になった。
しかし、ガドンガルだけではなく、この戦いにおいて多くの者が身内を亡くしているのは事実なのだ。
それぞれが心に傷を負っているのだ。
それゆえ、ガドンガルは、その気丈な姿勢を崩すことはなかった。
「それより、早くハルム村に避難するぞ。これだけの人数だ。いつ魔物が襲ってくるかもしれん。」
「それなんだが、夜にこれだけの人数移動するのは危険だべ。この近くに前に掘りかけた坑道があるんだが、そこに避難しないべか?」
1人のドワーフの意見にガドンガルはレキエラを見た。
「う~む。確かにそれはそうかもしれん。その坑道は近いのか?」
「んだ。ここからなら歩いて5分ぐらいだべ。」
周辺を見わたしながら、ドワーフの1人は頷いた。
「そうするか?」
レキエラの言葉にシリルとガドンガルが頷く。
「でも、ヒロさんはどうするんですか?ほっときますか?置いて行きますか?見捨てるの確定ですか?」
意外にもミュミュがヒロの心配をしていた。
「ヒロは1人でも大丈夫だろうが・・・それなら、ドワーフ達を坑道に送った後で我らだけでここに戻ってきてヒロを待とう。多分、ヒロはここに戻ってくるだろうからな。」
「了解した。それでは、私が先頭で誘導しよう。道案内は頼むぞ。」
シリルの言葉にドワーフの1人が頷いた。
こういう場合、気配に敏感なシリルが先頭に立つのはセオリー通りだった。
「よし。それでは、出発しよう。」
シリルを先頭にドワーフ達は歩き出した。