13 『ミサキ』 惨殺する
「警告は・・した。」
ハイドには、かぼちゃのかぶりものを被ったミサキの目が赤く光ったように見えた。
ミサキは、男の腕から右手を離した。
「ふざ・・・あれ?」
ふざけるなと言おうとした男は、なぜか自分の目の前を自分の体が通り過ぎる光景を見た。
それがどんな意味を持つのかを、男自身は結局最後まで理解することができなかった。
「ハイド、何か用?」
ミサキのデスサイズを持った右手には、テーブルの上に飛び乗ったハイドの右手が乗せられていた。
「ミサキ・・・やり過ぎだ。」
ミサキが男の腕から手を離した後、男が何か言おうとした瞬間、ミサキはデスサイズを持ち、デスサイズを回転させ、ニーナの肩を持っていた男の右腕を切断し、その勢いのまま、男の首を落とし、ついでに、ミサキの周りにいた男達3人の首を落として、最後の一人の男の首筋で止まっていたのだ。
ハイドは、てっきりミサキが先ほどのように最初に魔法を使うものと思っていたので、ミサキを止めるタイミングが遅くなってしまった。と言っても、ミサキの行動が分かっていたとしても、何人の男を助けられたかは、自分自身疑問を持っていたが。それほどの速さだった。
ドサッドサッと男達の首から上のない死体が次々に倒れた。
あたりは血の池でハイドもニーナもミサキも血塗れである。
残された男は、茫然自失状態で、股間からは温かいものが流れていた。
「「「キャー。」」」
悲鳴が聞こえ、カフェにいた客は、我先にとカフェを飛び出し、残されたのはハイドとミサキとニーナと股間を濡らした男一人になった。
「はぁーどうする気だ、これ?」
「・・・もしかして、私、やり過ぎた?」
「あ、あ、ミサキお姉様・・・にゃーの肩に・・・。」
ミサキは、ニーナの肩についたままの男の右手を無造作に取ると、興味なさげに床に投げ捨てた。
ハイドが外を見ると、ハイドと視線があった者は、カフェの前の道から次々逃げ出し、あれほど騒がしかったカフェの前の道には人がいなくなった。
ただ遠くで衛兵を呼ぶ声がするので、すぐに衛兵が駆けつけてくることは確実だった。
「さて、どうするか。」
ハイドは考えたが、穏便に済む方法など思いつくはずはない。
どう考えても、どう客観的に見ても、ミサキが悪いのは歴然としていた。
その場合、衛兵はミサキを捕らえるだろうし、たぶん、ミサキはこの都市連合国の法律では死罪だろう。
この世界、人を殺したからすぐに死罪となるわけではないが、ちょっとした言い争いにも関わらず、一方的に4人も殺している。
ただ、その場合、ミサキが素直にそれに従うかという問題も出てくる。
そうなると、先ほどの行動を見ても、間違いなく衛兵を殺すだろうし、下手したら、ひとりでこのグロースと戦争を始めるかもしれない。
そして、このグロースを滅ぼすことも可能ではないのかという疑問がハイドの中に浮かんでいるのだ。
この世界、1人で一つの都市と戦争できる者というのは、現実に存在している。
実際、ちょっとした行き違いから、1人に滅ぼされた都市というのが存在しているのがその証拠だ。
(まあ、真っ先に俺は逃げるがな。)とたぶん現在唯一ミサキの強さを少し確認できたハイドは決心している。
その確認できた少しの実力でも、ハイドでは歯がたたないというのが理解できたからだ。
しかも、出会ってからの会話から決して悪い人間ではないとは思っているのだが、あまりにもミサキの行動には普通人間にあるべき躊躇いがない。
オンとオフしかないのだ。
ハイドでさえ敵と認識すればなんの躊躇いも無く殺すだろう。
「『ゲート・オブ・ファーム』」
ミサキの左手の中指につけている指輪が光った。
次の瞬間、ミサキの前の床に魔法陣が現れ、その魔法陣の中に扉が地面から浮き上がってきた。
そして、完全に姿を見せた扉が、ゆっくりと開くと中に見えたのは草原のような場所だった。
「アシッドスライム達出てきて。」
ミサキの呼びかけで、濃い水色の1mくらいのスライム達が10匹ほど次々に飛び出してきた。
「お前達、ここにある死体と飛び散った血を綺麗にしなさい。」
アシッドスライム達は、ミサキの命令を聞くとすぐに4人の死体にたかり、あっという間に自らの体内に取り込んだ。
そして、取り込まれた死体は、みるみる骨ごと溶けていき、あっという間にアシッドスライムの体内には何も見えなくなる。
次に床やテーブルに飛び散った血の上をアシッドスライムが通り過ぎるとゴミ一つない綺麗な床やテーブルに変わっていた。
最後に、アシッドスライム達は、ミサキとハイドとニーナと残った男の体中に群がった。
「大丈夫よ。」
というミサキの言葉を信じ、ハイドもニーナもアシッドスライムにされるがままにされていたが、残された男だけは恐怖が勝ったのだろう、「ひぃー」と再び股間を濡らしていた。
「・・・それもついでに綺麗に。」というミサキの命令で残った男の股間も綺麗にしたアシッドスライム達は、追加の指令がないことを確認すると再び扉の中へと戻っていった。
すべてのスライム達が扉の中に戻ると魔法陣の中の扉は、ゆっくりと地面に沈んで消えた。
「ふう、これで証拠隠滅完了。我ながら完璧。」
満足そうな声で椅子に腰掛けるミサキを見て、ハイドも苦笑いを浮かべながら、椅子に腰掛けた。