137 ヒロ in ガジール山脈(3)
「それでは、今から、皆さんを助けるための準備をしますので、もうしばらく待っていてください。どこか、誰にも見られない場所などはありませんか?」
ドワーフは、ヒロの言葉にトイレのドアの方を指し示し、「トイレ。」とだけ言った。
「それでは、申し訳ありませんが、また、皆さんを驚かせてもいけませんので、トイレに行ってもらえますか?その際、トイレのドアを俺も入れるように長く開けて置いてください。」
ドワーフは頷くと、立ち上がりトイレに向かって行った。
ヒロもドワーフについていった。
ドワーフの後にヒロもトイレの中に入り、ドワーフに「閉めてください。」と伝えて、ドアを閉めてもらった。
中は、公衆トイレ並の広さがあった。
「それでは、姿を現しますので、驚いて声を出さないでくださいね。」
ヒロは、ドワーフに念を押して、ドワーフの肩に触った。
その瞬間、ドワーフの前にヒロの姿が現れた。
「おっ。」
一瞬、ドワーフは驚いて声を出しかけたが、どうにか我慢したようだった。
「初めまして。俺は、エストの冒険者ヒロと言います。これから、ここで皆さんを助ける下準備をするので、少しですので、しばらくトイレの外で待っていてもらえますか。下準備が済みましたら、トイレのドアを3回ノックしますので、そしたらドアを開けてください。その際、俺はまた姿を消していますので驚かないようにお願いします。」
ドワーフは頷くと、トイレの外に出て行った。
ヒロは、トイレのドアが閉まるのを確認すると、『とめどない強欲の指輪』の中から、『純血の乙女』を取り出した。
そして、一瓶の半分くらいを飲み干した。
あっという間に、ヒロの髪の色が真っ白に変わり、目の色も深紅へと変化する。
「空間魔法『座標固定』。」
ヒロの言葉でトイレの床に魔法陣が浮かび上がり消えていった。
この空間魔法『座標固定』は、それだけでは何の意味もないが、空間魔法『テレポート』を使う時に目標となるのだ。
この空間魔法『座標固定』がなければ、空間魔法『テレポート』は使えないのだ。
空間魔法『座標固定』は最大99個設置できるため、『グランベルグ大陸』の時は新しい場所に行くととりあえず空間魔法『座標固定』を使うのだ。
ちなみに、ノーブル(貴族)種吸血鬼にはスキルで『瞬間移動』があるが、これは目に見える場所にしか瞬間移動できないスキルである。
『グランベルグ大陸』では、ノーブル(貴族)種吸血鬼が使える魔法は、闇魔法、水魔法、氷魔法、そして、空間魔法であった。
空間魔法が使える吸血鬼は、ノーブル(貴族)種以上の吸血鬼であり、それに満たない吸血鬼には使えない設定になっていた。
ノーブル(貴族)種吸血鬼になり、5分が経過したところで、ヒロの姿が元の黒髪、黒目に戻った。
ヒロは、吸血鬼姿では使えなかった盗賊系スキルの『無音』と『姿消し』を使い、トイレのドアを軽く3回叩いた。
するとドアが開いたので、ヒロはトイレから外に出た。
「こちら側の準備が完了しましたので、後はこの酒場の出口が開いて、俺が外に出ることが出来て、この地下空洞から出ることが出来れば準備完了になります。外の兵士達は、何時間ごとにこの酒場の中に入ってくるか分かりますか?」
「・・・2時間ぐらいじゃと思う。」
ドワーフは先ほどの言葉を覚えておいてくれたのか小声で答えた。
「それでは、俺は、酒場の出入り口の側で待機しておきますので、皆さんはいつもようにしておいてください。」
ヒロの言葉に頷き、ドワーフは最初にいた場所に戻った。
ヒロも、酒場の出入り口のドアの近くで待機しておいた。
そして、1時間半ぐらいして、ようやく酒場のドアが開き、兵士が見回りに来た。
その隙にヒロは、酒場を飛び出し、もと来た坑道を戻って行った。