134 ミサキ in エスト(9)
ジュリは、支部長室の机に座り、急いで手紙を何枚も書いていた。
内容は、すべて同じだった。
『魔王復活。至急、討伐のためにSクラスを送られたし。』
これは、300年前、魔王を封印した時に決められていたことだった。
冒険者組合とは、今では忘れられているが、元々は魔王を倒すための組織だったのだ。
魔王とは、今ある秩序を壊す者。
300年前、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族そして悪魔族の一部が総力を合わせても封印しか出来なかった存在なのだ。
悪魔族キメラ種。
それが、魔王の種族であった。
そして、現在まで魔王以外にその種族は確認されたことはなかった。
そして今、ジュリの『真実の眼』にはっきりと映ったのだ。
ミサキは、悪魔族キメラ種であると。
こうして時代は動き始めた・・・。
ミサキ達がスイートルームで静かに過ごしていた日、エストの門の外では、1人の男がすでに日が暮れたにも関わらず1人佇んでいた。
「おい、まだ、中に入らないのか?」
門番が声をかけるが、男は黙ったままだった。
すでに時刻は夜の8時を回っていた。
通常、夜は門は閉めておくのだが、この男が門の近くにいるため、閉めるわけにもいかず、門番は困っていた。
「もしかして、誰か待ってるのか?もう、遅いし、来ないと思うぞ?」
門番がいくら声をかけても、男は反応しなかった。
「・・・門、閉めるからな。もし、入りたくなったら声をかければ開けてやるから。」
そういうと、門番は男の説得を諦め、門の内側へと戻っていった。
そして、門が閉まり始めた。
その光景を見ても男は動かなかった。
男の名は、ギ・ガ・ゾルド。
ミサキとの決闘を約束したはずの男だった。
「あれ程王族に対する礼儀を弁えた者が来ないはずはない。」
ギ・ガ・ゾルドの呟きは夜の闇に溶けていった。
その夜、空に浮いていた月は、夜中、身動きせずに立っていたギ・ガ・ゾルドを優しく見守っていた・・・。