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133 ミサキ in エスト(8)


「ちょっと、シーター、うちの冒険者組合では、そういうことは私の許可なく禁止してるんだけど?」



その時、冒険者組合のカウンターの中から1人の美女が現れた。たまたま、冒険者組合のカウンターの中からドワーフ達を見ていたジュリであった。



ジュリは、ドルトがシーターにお金を渡したのに気付いたらしい。



「えっ、ジュリさん、何のこと?」



「まったく、今回だけよ。」



とぼけるシーターの頭を軽く小突きながら、ジュリは苦笑いを浮かべていた。そして、ミサキ達の方を向くと、「あなた方が、早速、このエストで有名人になったパンプキン商会の方々ね。交易都市グロースの武勇伝も聞いてるわよ。私が、このエスト冒険者組合支部長のジュリよ。よろしく。」と挨拶をした。



「私は、パンプキン商会の会長を務めておりますドルト・パンプキンと申します。よろしくお願い致します。」



ドルトは、ジュリに丁寧に頭を下げ、その後、ミサキ達の紹介をしようとしたが、ジュリの視線がミサキを凝視していることに気がついた。



「どうかされましたか?」



「・・・えっ、いや、そうね。ちょうど暇だったから、よろしかったら支部長室でお茶でも飲んでいかない?」



ジュリは、ちょっと焦っているように見えたが、ドルトは、冒険者組合の支部長と言えば、その都市の有力者には間違いないので、その誘いを受けることにした。



ジュリとミサキ達は、冒険者組合のカウンターの中に入り口がある支部長室の部屋へと通された。



そして、ジュリに促されるがままに、部屋の中のソファーへと腰を下ろした。ちなみに、ハイドは、未だに目を覚まさず、ミサキが足を持ったままだったので、ミサキがソファーに座る前に支部長室の床に投げ出されていた。



「そちらの方は?」



「ちょっと、寝相が悪くて。」



ミサキ、自分がやっておきながら、酷い言い様である。



「もし、よろしければ、気付けの香料がありますので、起こしましょうか?」



ミサキが頷くのを見て、ジュリは、腰に付けた小袋の中から小さな瓶を取り出し、倒れているハイドの鼻元に近づけてから、小さな瓶の蓋を開けた。



「ウグッ。」



ハイドは、小さな瓶の蓋を開けたとたんに目を覚ました。



「な、なんだ、この酷い匂いは?」



ハイドは、周辺を見回し、混乱したような表情をしていたが、ミサキに「さっさと座れ。」と言われ、訳も分からずソファーの空いている場所に座った。



そして、ハイドが座るのを待ってから、ジュリは、まさに王に謁見するかの如く、床に片膝をついて、頭を下げたまま、挨拶を始めた。



「このような場所にお出で頂きまして、光栄の極みでございます、魔王様。」



ジュリの体の向きはミサキを向いていた。



ジュリの言葉にドルトとハイドとニーナは驚いた顔でミサキを見たが、ミサキは無表情だった。



「300年の時を経て、再び魔王様に見まえることができましたことをうれしく思います。」



顔を上げたジュリの表情は、いたって真面目だった。



「・・・うむ。」



ミサキが発した言葉はそれだけだった。



「魔王様が復活されておられるとはつゆ知らず、本来はこちらからお伺いするものを、わざわざこちらに出向かれた理由はどのような御用件でしょうか?」



「うむ。魔王と言えば、やることはひとつしかないであろう。」



ミサキは、真っ直ぐにジュリを見ていた。



「・・・やはり、300年前の続きをされるということですか・・・。」



「うむ。」



「・・・かしこまりました。それでは、すぐに悪魔族に至急連絡を取らせていただきたいと思います。」



「うむ。」



「魔王様には、最上階のスイートルームを用意させていただきますので、好きに御使いくださいませ。」



ジュリは、ミサキにスイートルームの鍵を渡した。



ミサキは真顔のまま、その鍵を受け取った。



「それでは、何かございましたら、いつでもこの部屋をお訪ねください。」



「うむ。」



ミサキ達はそれだけジュリと話すと支部長室を出て、最上階のスイートルームへと向かった。



最上階のスイートルームは、階全体がひとつの部屋であり、冒険者組合の幹部や王族が使うための部屋であった。



そのスイートルームに入るとミサキ達は、備え付けのソファーに座った。



ハイドが、先ほどのことが何なのかミサキに尋ねようと口を開きかけるが、ミサキがそれよりも先に話し始めた。



「・・・言わなければいけないことがあるのだけど?」



ミサキの真剣な口調に一同真剣な表情でミサキを見ていた。



「・・・なんか、調子合わせていたら、こんなことになっちゃったんだけど・・・これ、もしかして・・・まずくない?」



「おい!」



ミサキが、困ったように首を傾げた瞬間、ハイドが突っ込んだ。



「だって、しょうがないでしょ。あんなに真剣な表情であんなこと言われたら、普通、乗っちゃうでしょ。」



「のらねぇーよ。普通は怖くてのれねぇーよ。」



「・・・ミサキお姉様、魔王じゃないのかにゃ?」



「当たり前でしょ。しかも、300年前なんて、さすがの私もまだ、精子と卵子にもなってないわよ。」



ミサキは、困ったようにソファーに深く座りなおした。



「そもそも、魔王って何?この世界には魔王がいるの?」



ミサキが一番詳しそうなドルトを見た。



「・・・正確にはわかりません。・・・いえ、言い方が悪かったですね。今は魔王と言われる存在はいないと言った方がよろしいでしょうか。」



「昔は居たってこと?」



「はい。ですが、300年前のことですので、実際に見たことがあるのは、寿命の長いエルフ族やその魔王に仕えていた悪魔族ぐらいでしょうか?」



「悪魔族が仕えていたってことは、魔王も悪魔族なの?」



「はい。そう言われております。ただ、実際のところはどうだったのか分かりかねます。」



「・・・今、悪魔族はどうなってるの?」



「このアリステーゼ王国の北にキワール帝国があり、さらにその北にゲイトリア王国がございます。そのゲイトリア王国の東に魔領域と言われる地域があるのですが、そこに悪魔族の国があると言われておりますが、残念ながら、悪魔族は人間の国には来ませんので詳しいことは分かりかねます。魔領域に生息する魔物はこの周辺で見られる魔物とは強さが違いますので。」



「強いってこと?」



「はい、格段に。」



「・・・ということは、悪魔族って言われる種族は人間よりも強いってこと?」



「はい。ただ、悪魔族は、種族自体絶対数が少ない上にまとまりがないため、現在、心配する必要はないと言われております。」



「・・・そう。だったら、とりあえず、このまま、適当に流しておきましょうか。どうせ、この宿屋に泊まるのもそう長くはないのだし。」



ミサキ達は、すでに店舗となる建物を借りているため、そこに泊まる事もできるのだ。



「そうですね。何をもって、あの支部長がミサキ様を魔王と間違えたのか分かりませんが、今更、否定しても余計な問題を引き起こすだけかもしれませんので。」



「というわけで、明日、早速、店舗の方に移るとして、今日はこの部屋で静かにしておきましょ。」



「了解致しました。」



ドルトとハイドとニーナは頷き、同意した。



こうして、エスト2日目は過ぎていった。


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