132 ミサキ in エスト(7)
ミサキ達は、ハイドが意識を失っていたこともあり、黒ウサギ薬局へ行くのは明日にまわし、直接、宿屋に戻った。
ちょうどその時、宿屋には3台の馬車が止まっており、中から20人程度のドワーフが降りて来ているところだった。
「シーター、何があったの?」
馬車を建物の隣の馬車を止める所に止めた後、建物の中に入ったミサキはドワーフ達の中にシーターがいるのを見つけた。
「あっ、ミサキちゃん。えっとね・・・ちょっと訳があって、ドワーフさん達を宿屋に泊めることになったから、手伝ってるの。」
シーターは、さすがに国家機密とまではいかないかもしれないが、アリステーゼ王国内のことを他国から来たミサキ達に言ってはいけないと思ったのだろう。適当に誤魔化して答えていた。
そんなシーターにドルトが近づき、そっと手を握った。
いや、周りからみたらそうとしか見えなかったが、実際には、大銀貨1枚を渡していたのだ。
「ヒャッ・・・。」
最初、いきなり手を握られたシーターは驚いたが、すぐに握られた手の中の感触で気がついたのだろう。一瞬、微妙に困ったようなうれしいような表情に変わった。
「う~ん・・・。あっ、そうだ。ドワーフさん、大丈夫でしたか?大変でしたね。」
シーターは近くにいたドワーフに話しかけた。
「なんじゃ、あいつらは。我らの同胞を殺しおって。絶対に許さんぞ。」
シーターの近くのドワーフはかなり怒っていた。
「相手はわかってるんですか?」
「ああ、あいつらは、テトリナ子爵の兵士達じゃ。しかも、サイラス伯爵の三男も含まれておったらしいわ。」
「そうじゃ、そうじゃ。」
周りのドワーフ達も怒りが未だ収まらずといった感じだった。
「我らがガジール山脈で掘ったものをあれだけ卸してやったというのに、この仕打ち。二度とテトリナ子爵とサイラス伯爵とは取り引きはせんぞ。」
「そうじゃ、そうじゃ。」
「そうですよね。それでは、部屋の用意が出来てるから、とりあえず、ゆっくりと傷を癒してね。」
シーターに促されて、ドワーフ達は階段を上がっていった。
「・・・ありがとうございます。」
ドルトが少し笑みを浮かべてシーターに頭を下げた。
その後、ドルトは、ミサキの側に行き、小声で、「ガジール山脈のドワーフ達をテトリナ子爵とサイラス伯爵が攻撃したようですね。」とミサキに説明した。
その際、テトリナ子爵領の位置や、サイラス伯爵領の位置も説明している。
「なるほど。で、ドワーフって、やっぱり、鍛冶仕事が得意なの?」
ミサキは、ゲームの中では、ドワーフが鍛冶を得意としているのは知ってはいたが、現実にもそうなのかをドルトに確かめた。
「はい。人間の鍛冶師と比べても、ドワーフの鍛冶師はかなり優秀と言われております。それだけでなく、土木仕事全般をドワーフは得意としておりますので、もし、雇い入れることができれば、かなりの戦力になります。」
「雇い入れられそう?」
「・・・さて、それはちょっと難しいかもしれません。基本的にドワーフは、命令されることが苦手ですので。」
「そう。だったら、無理に雇おうとするのは辞めた方がいいかもね。」
ミサキに言葉にドルトは、「はい。」と頭を下げた。