130 ミサキ in エスト(5)
ミサキ達がエストに到着したのは、ヒロ達がハルム村に出発した日です。
朝食を食べてしばらく後に、ミサキ達は馬車に乗りエストの城に向かった。
御者席には相変わらず、ミサキとニーナが乗っている。
城への道すがら、朝、シーターが言っていた黒ウサギ薬局の前を通ったミサキは、一瞬だけであったが、黒ウサギ族の男3人に囲まれている白衣を着た女性を見た。
ミサキは、白衣の女性がじっと馬車の側面に描かれたかぼちゃと鎌のマークを凝視していることには気付かなかった。
その後、城の入り口の所で面会の約束だけでも取れればいいと思っていたミサキ達だが、予想外にすぐに会って貰えるということになり、そのまま城の中へと進んだ。
城の応接室で待っていたミサキ達の前に現れたのは、ルーベル爺だった。
「はじめまして。ルーベルと申します。エストラ男爵様の執事をやらせていただいております。今日は、わざわざお越しいただきましてありがとうございます。大変申し訳ありませんが、エストラ男爵様は、現在、王都アウグスティンへ出かけておりまして、今回の交渉は、このルーベルが担当させていただきます。」
「はじめまして。パンプキン商会会長のドルトと申します。わざわざお時間をお取りいただきまして、誠にありがとうございます。今回このエストに支店を開きたいと思っておりまして、できましたら、営業許可をいただけないかと思いまして伺わせさせていただきました。」
ルーベル爺とドルトは、お互い深くお辞儀をした。
「それは、ありがとうございます。現在、このエストには、小さい商店がひとつあるだけですので、非常に助かります。」
その後、営業許可のための費用や税金などの話を進めていくルーベル爺とドルト。
その話し合いにミサキ、ハイド、ニーナは、口を挟むことはなかった。ミサキは、ただニコニコと笑っているだけで、ハイドとニーナは、ドルトが何の話をしているのかチンプンカンプンだったので。
ドルトはとりあえず、交易都市グロースで仕入れた物を売るための店舗を求めたが、それは、特に問題なく決まった。店舗のための建物は嫌というほど余っているので、その中でも結構大きい地上3階地下1階建ての建物を選ぶことが出来た。
ドルトがこの建物を選んだのは、すべてを店舗にするためではなく、地下1階は倉庫に、地上の3階は事務所にしようと考えてのことだった。
ルーベル爺に家賃を聞いた時、ドルトは本当に驚いた。
交易都市の十分の一程度だったからだ。
しかも、営業許可を得るための料金はなく、1年間は、利益にかかる税金も免除され、しかも、売り物を都市に運び入れる時は、どこの都市も売り物に応じた金額を払わなければいけないのが普通だが、このエストでは、そういうものはすべて廃止していると聞いてさらに驚いた。
だったら、1年後に利益にかかる税金が大きいのかと思ったら、それも利益の最大で利益の1割程度であり、他の都市と比べて格段に低かった。
「本当にこれでよろしいので?」
そう聞いたドルトに、ルーベル爺は満面の笑みで「住民の方の不便さを考えれば、是非にでも商人の方々に多く来ていただきたいだけです。もし、よろしければ、交易都市グロースの商人の方々にも御口添えいただけましたら幸いです。」と答えた。
これにドルトはひどく感動し、「素晴らしいお考えだと思います。」と固く握手をした。
ちなみに、この時、すでにミサキの笑顔は頬が微妙にヒクヒクしており、ニーナとハイドは出されたお菓子の取り合いと始めていた。