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129 ミサキ in エスト(4)



翌朝、ミサキ達が宿屋の1階の酒場に行くと、満席状態だったにも関わらず、すぐにミサキ達が座れるようにテーブルが空いた。



「あら?気が利くじゃない。」



気分良さげに空いたテーブルに座ると、テーブルを空けた獣人達は、「御意。」と答えた。



「・・・・何か違わね?」



ハイドは良心が少し痛んだが、ニーナとドルトも当然の如く席についたので、申し訳なく思いながらもハイドも椅子に座った。



「それにしても、大繁盛ね。」



ミサキは、酒場の中を見回しながら、うれしそうにしていた。



酒場の多くの者が獣人だったからだろう。



しかし、見られた獣人の方は決してミサキと目を合わせようとはしなかった。無理やりにでも・・・。



「おはよー、ミサキちゃん。」



シーターがミサキの隣の席に座った。



その行為に酒場にいた多くの者が驚きの表情を浮かべた。



「あら、シーター、おはよ。昨日はありがとね。シーターのおかげでかなり稼げちゃった。」



「いいよ、いいよ、ミサキちゃん。あっ、でも、もし、いいなら朝食奢ってくれない?」



「いいわよ。ハイドが奢ってあげる。」



「ありがとー。さすが、ミサキちゃん。」



ミサキは、ハイドの「俺か?」という視線を当然無視している。



ちなみにハイドは、昨日、一番の怪我をさせられただけで、一銭も儲けてはいない。むしろ、怪我が一番酷かった分だけ大損だ。



「それにしても、何でこんなにこの酒場はお客が多いのかしら?」



「んっ?それはね、このエストには、外食できるところここしかないからだよ。」



「・・・そうなの。それはいいこと聞いたわね、ドルト。」



ミサキがドルトに視線を送ると「御意。」とドルトが答えた。どうやら、ドルトは獣人達がミサキに御意と答えたのを気に入ったらしい。



ドルトの体には、ハイドと違い、怪我らしい怪我はひとつもしていなかった。



昨日の乱闘でミサキの次に多くの獣人達を倒していたのが、このドルトなのだが、最後ミサキと1対1になった時、ドルトは棄権したので倒されてはいないのだ。



別にミサキは、ドルトが向かってきても気にはしなかっただろうが、ドルトの中でミサキとは戦わないという信念というか決まりがあるらしかった。



「ご、御注文は何ですか?」



メグが恐る恐るミサキ達に注文を取りに来た。



彼女も昨日の乱闘風景を見ているため、ミサキに恐れを抱いているのだろう。



かなり顔が強張っていた。



「みんな、私が決めてもいいよね?ここ下手なの頼むととんでもない料理出てくるから。いつもの5人前とクルーア5人前持ってきてね。」



シーターは、ミサキ達が頷くのを確認した後でメグに注文した。



「御意です。」



メグまでが御意を使用していた。本当に怖いのだろう。



「それにしても、ズタズタのボロボロだね、ハイドちん。」



「・・・誰がハイドちんだ。」



ハイドは、少し不機嫌そうにシーターを見たが、シーターは気にした様子はなかった。



「そう言えば、最近、いい薬屋さんが出来たんだよ。黒ウサギ薬局っていうんだけどね。ポーションの効き目が凄いって今エストで噂になってるの。」



「ポーションですか?」



ハイドではなく、ドルトがシーターの話に食いついた。



「そうだよ、ドルトちん。」



「・・・私もハイド様と同じですか・・・。」



あからさまに落ち込むドルト。そんなドルトを見て、ハイドは「念のために聞くけど、ドルトちんと呼ばれたことに落ち込んだのか、それとも、俺と同じ呼ばれ方をしたことに落ち込んだのか、どっちだ?」と聞いた。



「当然、後者です。」



当然の如く言い切るドルト。彼の目に濁りはなかった。



「だから、ハイドちんも1回黒ウサギ薬局のポーション試してみればいいと思うよ。」



「こんな傷くらいどうってことないけどな。」



「まあ、そう言わず1回試してみましょう。もしかしたら、商売のチャンスかもしれませんので。」



ハイドは乗り気ではなかったが、ドルトがかなり乗り気になっていた。



「邪魔するぜ。」



その時、酒場に獅子族の男が現れた。



獅子族族長のギ・ガ・ゾルドである。



「ここにミサキって奴がいると聞いて来たんだが、どいつだ?」



ギ・ガ・ゾルドの言葉に酒場にいた者のすべての視線が、ミサキ達のテーブルへと向けられた。



「お前か。」



ギ・ガ・ゾルドは、ハイドを睨みつけた。



「俺じゃねぇーよ。」



ハイドは素っ気無く答え、ミサキを指し示した。



「こっちの女なの・・・か。」



「そうだ。」



ギ・ガ・ゾルドの顔が明らかに落胆した。



が、すぐに真剣な表情に戻った。



「お前が、ミサキか?」



「御意。」



どうやら、ミサキも実は御意が使いたかったらしいが、明らかに使う場面を間違えていた。



しかし、ミサキの御意を聞き、あからさまにギ・ガ・ゾルドの表情が上機嫌になった。



「よく分かってるではないか。無礼で横暴な奴だと聞いていたが、王族への礼儀は心得ているようだな。」



「御意。」



「無礼と横暴しかあってねぇーよ」というハイドの言葉はギ・ガ・ゾルドには届かなかった。



「ふむ、これほどの礼儀を弁えている奴だったとは・・・。しかし、俺も配下の者達に対する義務がある。今日の夜7時に門の外で待っているぞ。配下の者の借りを返させてもらおう。」



「御意。」



「殺しはしないから、安心しろ。ちょっと痛い目を見てもらうだけだ。それでは、夜7時に門の外だぞ。」



「御意。」



ギ・ガ・ゾルドは、それだけミサキに伝えるとさっさと建物を出て行った。



「おい、どうするんだよ、ミサキ。今日の夜、行くのか?」



ハイドが心配そうにミサキを見た。ただ、ハイドが心配していたのは、またミサキが暴れて問題を起こす事に対してだ。決して負けるとか思っているわけではない。



「どこに?」



「だから、今、呼び出されたろ?」



「誰が?」



「お前がだよ!」



「うそー。デートのお誘い?おめかししていかなくっちゃ。ルンルン。」



ハイドは、そんなミサキの態度にいつもと違う感じを受けた。



「・・・行く気ねぇーだろ?」



ミサキは、ハイドに見られて、「エヘッ。」と可愛い仕草をした。



「そんなことないですよー。いやですわハイドさん。約束は守る女ですよ、私は。」



フンッフンッと鼻息荒く見せるミサキ。美少女だけに見た目だけは、そんな仕草も可愛かった・・見た目だけは。



「まぁ、どっちでもいいけど、行くんならやりすぎるなよ。」



「ギョイ。」



ハイドの言葉に最敬礼で答えたミサキだった。



「何か、最後の俺に対する御意だけ、馬鹿にした感じだったんだが?馬鹿にしたわけじゃねぇーよな?」



「・・・。」



「何で答えねぇーんだよ。そこで御意だろ?」



ミサキは、チョイッチョイッと指を動かしてハイドを呼んだ。



他の客に聞かれたくないことでもあるのかと思い、「何だよ?」といいながら、テーブルの上でハイドは体だけを伸ばして、ミサキに顔を近づけた。



ドゴッ!



凄い音が響き、ハイドが隣の席に吹っ飛んでいった。



当然、ハイドが飛んでいったテーブルの上のものはめちゃくちゃである。



しかし、そのテーブルに座っていた者がミサキに文句を言うことはなかった。



むしろ、「それ片付けて置いて。」とミサキに言われ、「御意。」と散らかったものを片付け始めたぐらいであった。



「ハイド、誰が無礼で横暴よ。」



「今更かよ・・・。」



ハイドは忘れていた、ミサキは絶対に忘れないということを。


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