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128 ミサキ in エスト(3)


冒険者組合の前の通りには、多くの観客が円状になっており、その真ん中に獅子族5人とハイドとドルトが立っていた。



「なんとーここで緊急情報が入ってまいりましたー。あの狼族の男性は、超有名傭兵ギルドである『抗う心臓』のハイド氏であるということでーす。そうですよね、解説のミサキさん。」



「そうです。彼こそは、交易都市グロースで付き合いたくない狼族No.1、結婚したくない狼族No.1、死んで欲しい狼族No.1の三冠を見事達成した伝説の狼族の男、ハイド氏であります。」



いつの間に用意したのか、シーターとミサキは、テーブルと椅子を用意し、解説席を作っていた。



「ハイドって、あのハイドか?」「そう言えば、昔、森の狼族で見たことあるぞ。」「狼族の族長の弟か。」「触るもの皆、傷つけると言われたナイフのように尖っている男、ハイドか。」



観客がざわついた。



ただ、狼族の一団だけは、気付いていたらしく、ほくそ笑んでいた。



ハイドの強さを直に知っているだけに、ハイドとドルトの勝ちに賭けたのだろう。



「ナイフのように傷つけるって言われてたのかにゃ?」



ニーナは、ちょこちょことねずみ族を抱えたまま、ハイドに近づいていき、真顔で尋ねた。



「・・・昔の話だよ。」



ハイドは、恥ずかしさのあまり、ニーナの顔を見ないで答えた。



「プッ。」



一瞬、ハイドの隣にいたドルトが吹き出したように見えたが、ハイドがドルトを見た時には、すでに真顔に戻っていた。



「今、笑ったよな?」



「いえ、笑っておりません。」



ドルトは、ハイドの問いに真顔で答えた。



「笑ったよな?吹き出すのが聞こえたぞ。」



「いえ、私ではございません。」



ドルトは、再度の追求にも真顔で答えた。



「そうか。ならいいんだけどよ。最後に聞くが、本当に笑ってないんだな。」



「笑いました。」



「いや、そこ認めちゃ駄目だろ!」



ハイドがドルトに詰め寄るが、ドルトは決してハイドと視線を合わせなかった。



「確かに、ハイドじゃな。」



その時、ニーナに抱えられたねずみ族が初めてしゃべった。



「・・・もしかして、ねずみ族の族長のトリス爺さんか?」



「いかにも。こう見えて、ねずみ族の族長トリスじゃ。ちなみに、ワシはハイドに賭けたぞ。」



「・・・賭けに参加しちゃったんだな・・・。」



それ以上、ハイドが何も言える事はなかった。



「それでは、時間無制限1本勝負を始めます。なお武器の使用は禁止です。相手を殺してしまった場合も反則負けになりますのでお気をつけください。それでは、始め!」



シーターの掛け声で獅子族の男達とハイド&ドルトの勝負が始まった。



獅子族の男達5人の中で最初2人の男が前に出た。



「これは、どういうことでしょう?獅子族はまずは2人だけでやるつもりでしょうか?」



「当たり前だ。相手より多い人数でやるなど、獅子族の誇りが許さぬわ!」



獅子族の男達の中の1人がシーターを睨みつけた。



「いやー、解説のミサキさん。これはどう思いますか?」



「はい。ハイドの好みは、意外とお淑やかな女性だと思います。」



「そうですか。どうでもいい情報をありがとうございます。」



前に出た獅子族の男2人は、警戒することなく真っ直ぐにハイドとドルトへと向かって行った。



そして、何の変化もつけることなく、ハイドとドルトに殴りかかった。



ハイドとドルトは、2人共、獅子族のパンチをギリギリでかわすと同時にパンチを獅子族の顎先にヒットさせた。



膝から崩れ落ちるようにその場に昏倒する獅子族の2人。



ハイドとドルトは汗ひとつかいてなかった。



「これはー!なんということでしょう!まさかの一撃!強い、強すぎます。解説のミサキさん、今の一撃をどう見ますか?」



「そうですね。ハイドの座右の銘は、『一日一回一目惚れ。ストーキングの継続は力なり。』です。」



「なるほどー。それは、交易都市グロースで嫌われるわけですね。気持ち悪ーいです。これが狼族の英雄ハイド氏の実態というわけですね。」



「そうです。しかし、ハイド氏を責めないであげてください。これは狼族の習性なのです。」



「違うわ!」「何言ってくれてんだよ!」「ふざけるなー!」



周りにいた狼族達の罵声がミサキに飛んだ。



「あっ?」



その罵声を聞いたミサキが、狼族達を睨みつけ、椅子から立ち上がった。



「訂正しろー!」「狼族に対するヘイトスピーチだ!」「謝罪と賠償を要求する!」



さらに、ミサキに罵声が飛ぶ。



もし、交易都市グロースだったら、このような事態になることは絶対になかっただろう。



交易都市グロースの住民はミサキがどういう人間がよく知っていたから。



しかし、ここはエストだった。



彼らは、ミサキがどういう人間かまったく知らなかったのだ。



ハイドが、狼族達の罵声を聞いて、まずいという表情になったが、すでに遅かった。



ミサキは、一瞬で解説席から狼族の集団の中に飛び込むと手当たり次第に殴り飛ばし始めた。



「あーー!なんということでしょう!場外乱闘勃発です!まさに、これこそプロレスの華とも言うべきでしょう!さあー、皆さん、ジャンジャンやっちゃってください。これより、賭け金は、最後に残っていた者の総取りとします。」



「まじか!」「いくぞー!」



観客の中で殴り合いが始まった。



後にこの日のことをエストの住民は、『ミサキの悪夢』と呼んで後世に語り継いだと言われる。



20分に渡る大乱闘の末、最後に立っていたのは、山積みされた獣人達の頂上に立ち、雄叫びを上げるミサキだった。



ちなみに、ほとんどの獣人達の怪我は大したことなく、意識を刈り取られる形だったが、何故か、ハイドだけは、ぼろ雑巾のようにボロボロにされていた。



誰がやったかは、言う必要はないだろう・・・。



こうして、ミサキ達のエストの初日の夜は更けていった・・・。


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