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127 ミサキ in エスト(2)


エストの冒険者組合兼宿屋の建物の中には、結構な数の人や獣人がいた。



エストでは、現在、外で食事を出来る場所がここしかなかったため、どうしても、独り身の人や獣人がここに集まってしまうのだ。



しかも、エストで現在働ける場所があまりないことやクリオラの森にいた獣人は狩りをして暮らしていたという特性上、獣人で冒険者登録するものが多く、元々エストには10人ちょっとしかいなかった冒険者が急増していた。



そのため、冒険者組合を利用する者も多く、建物の中は非常に賑わっていた。



「何これ?右を向いてもモフモフ、左を向いてもモフモフ、正面を向いても・・・人間は死ね。」



ミサキはうれしそうに目移りさせていた。



「・・・ミサキ、最初の頃から思っていたけど、お前、本当に人間が嫌いなんだな。そして、異常に獣人が好きなんだな。」



そんなミサキを見て、ハイドは呆れていた。



「見てにゃ見てにゃ、ミサキお姉様、これかわいいにゃ。」



ニーナの腕の中には60cmくらいの身長の全身毛に覆われたねずみを大きくして二足歩行にしたようなねずみ族が抱かれていた。



「まあ!ニーナ、それどこで捕まえてきたの?私も欲しいから、ちょっと、捕まえてくるわ。」



ミサキとニーナの二人は、キャッキャと騒いでいた。



「いや、それただのねずみ族だろ?捕まえたら駄目だって。離してやれって。」



ハイドは元々クリオラの森にいたので、ねずみ族のことを見たことがあった。



「なぜ?」「なぜにゃ?」



ハイドの言葉にミサキとニーナの2人は、可愛く首を傾げた。



「いや、それも獣人の種族のひとつでねずみ族だから。なぁ、ドルト。」



同意を求めてドルトを見ると、なぜか、ドルトは不気味な笑顔で、獅子族の青年の筋肉を見ながら、「ホッホッホッ、中々良い筋肉ですな。ひとつお手合わせをお願いできますかな?」と話しかけていた。



「だから、辞めろって。何でいきなり喧嘩売ってんだよ。ただの・・・獅子族か?珍しいな。」



ハイドもドルトと一緒になって獅子族の青年のたてがみを珍しそうに触り始めた。



ハイドは、ここ5年以上クリオラの森に帰っていなかったので、獅子族がクリオラの森に来たことを知らなかった。



獅子族の青年は、「や、やめろ。」とドルトとハイドの手を振り払おうとするが、凄腕のドルトとドルトには劣るがそれなり、いや、かなりの腕を持つハイドは、うまくその手を交わし続け、獅子族の青年のたてがみに触り続けた。



「どうした?」



獅子族の青年の声を聞き、他の獅子族達が集まってきた。



「いや、こいつらが俺のたてがみを触るんだ。」



獅子族の青年は非常に不愉快そうな顔をしていた。



それもそのはずだ。獅子族の男にとってたてがみは誇りであり、他人に簡単に触らせるようなものではないのだ。



「何だと!我ら獅子族のたてがみに触るとは、無礼な奴らだな。」



獅子族は、5人でハイドとドルトを囲んだ。



「ホッホッホッいいですね。」



それでもドルトの笑顔を消すことはできなかった。



「いや、悪かった。つい、珍しくてな。」



さすが、それなりに常識のあるハイドは、素直に謝った。・・・交易都市グロースにいる人間は、誰一人、ハイドに常識があるとは思っていないが。



「いまさら、謝って済むか!」



獅子族の1人が、ハイドの肩を押した。



その瞬間、ハイドの表情が変わった。



「おい、こっちは素直に謝ってんだ。それをわかって手を出してきたんだろうな?」



間違ってはいけないのは、ハイドは一応常識を持ってはいるが、あくまで一応ということだ。



元々、傭兵ギルド『抗う心臓』の第2組組長を任されるような人物であるのだ。



喧嘩っぱやくないはずはなかった。



ハイドは、いくら体格が大きい獅子族とはいえ、脅しに屈することは絶対ないし、喧嘩を売られて買わないこともない。



あくまでミサキが側にいるから、温和に見えるだけで、実際はそれほど温和な性格をしているわけではなかった。



しかし、獅子族も種族的に非常に血の気が多い種族である。



口で言われただけで引くような性格はしていなかった。



「ちょっと、待って!」



そこに、冒険者組合のカウンターに座っていたシーターが止めに入った。



体の大きな男達の睨み合いにも関わらず、シーターは気にした素振りも見せない。



「どけ、シーター。これは、獅子族の誇りの問題だ。」



「まったくもう、これだから冒険者の初心者は困るのよね。いい、冒険者っていうのはタダで喧嘩をしたりしないの、わかる?」



獅子族の誇りと言った獅子族の男に詰め寄るシーター。どうやら、この獅子族達も最近、冒険者になったばかりらしい。



「こ、これは冒険者とは関係ない。我らが誇りの問題なのだ。」



「まったく、獅子族はいつも誇り誇りって、そんなんだから、冒険者になっても大した獲物ひとつ取れやしないのよ。いい?誇りでご飯は食べられないの?馬鹿なの?脳筋なの?飢え死にするの?」



「クッ、いくらシーターと言えど、それ以上は許さぬぞ。」



獅子族の男達は顔を真っ赤にしてシーターに詰め寄った。



「だから、私が、お金の儲け方を教えてあげるって言ってるの。というわけで、みなさーん、只今より、特別ギャンブル大会を開催しまーす。」



シーターの言葉に、酒場で飲んでいた多くの者が、関心を示した。



「なんだ?」「ギャンブルだってよ。」「そりゃいい。」



「はーい。それでは、獅子族5人vsこちらのお爺さんと狼族の男性、勝つのはどちらか!参加費用は銅貨1枚、賭け金は上限なしよ!さあ、賭けてー。受付は、今から10分だけ冒険者組合のカウンターで受け付けるわよー。」



シーターが冒険者組合のカウンターに戻ると、酒場で飲んでいた男達が一斉に冒険者組合のカウンターへと向かった。



あまりの多さに、急遽、宿屋の受付の猫族の女性もシーターを手伝う。



「・・・何なんだ、これは?」



すっかり毒気を抜かれ、呆然と立ち尽くすハイド。



「いやいや、構いませんよ。楽しくなってきたではありませんか。」



本当に楽しそうに笑っているドルト。



「・・・獅子族の誇り・・・。」



獅子族の男達は、今更、どうすることも出来ずにただ、呆然と立っていた。



「おい、ミサキこれどうするんだよ?」



ハイドは、ミサキに視線を向けたが、ミサキはいつの間にか両手にねずみ族を2人抱え込んでニーナと何か話し込んでいた。



「おい、ミサキ。聞こえてるのか?」



「うっさいわね、ハイド。今、ニーナといくら賭けるか考えてるんだから黙ってなさい!」



「・・・楽しそうだな・・・。」



ミサキが、賭けにノリノリになってしまった以上、ハイドは、これはもうやるしかないなと腹をくくった。



「決めたわ!仲間の私達が決めたんだから、間違いなし。ここは獅子族に銀貨1枚よ!」



ミサキが叫び、ニーナは「はいにゃ。」と冒険者カウンターに座っているシーターの元へと向かった。



「あっ、しかも、俺達に賭けるんじゃないのね。」



ハイドのミサキを見る目は呆れていた。



「おい、仲間っていう奴らがああ言ってるんだから、これは獅子族の勝ちじゃないか?」



ボソボソと他の者達が話す声が聞こえ、一気に獅子族に賭ける者の人数が増えた。



「当たり前だ。獅子族の誇りを甘く見るな。」



獅子族の男達も、もうどうにでもなれとこの状況に流されることにしたらしい。



「早くしないと、受付終了するよー。いい?あと、5秒ねー。4、3、2、1、終了ー。それでは、只今より、獅子族5人vsお爺さんと狼族の緊急試合開催でーす。それでは、建物の外に出てくださーい。」



賭けに参加した者はぞろぞろと建物が出た。



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