119 ローマンとシーニュ in フロレンツ伯爵領の都市フローラ
「うわー、ロマ兄、見てください。壁ですよ、壁!」
ローマンとシーニュは、あの後、たまたますぐに別の乗り合い馬車が通りかかったので、ローマンが交渉して、このフロレンツ伯爵領の都市フロレンツへその日の内に到着することが出来た。
下手したら、森の中で一泊しなければいけないと思っていたローマンは、自分達の幸運に感謝していた。
シーニュは、ローマンには何がそんなに珍しいのか分からないが、都市の城壁を見て、引くぐらい興奮していた。
ちなみに、シーニュが、ローマンのことをロマ兄と呼ぶのは、別にローマンがそう呼んでくれと言った訳ではなく、どうしてもローマンのことをおじさんと言ってしまうシーニュが、自ら、だったらあだ名を付ければいいと言い出し、ロマ兄呼ばわりし始めたのだ。
「わあー、見てください、壁のすぐ横に豚さんがたくさんいますよ!」
「豚?」
ローマンがシーニュに言われて、馬車の外を見ると、城壁のすぐ側に囲いのようなものがあり、その囲いの内側には、大量のシマシマブーと呼ばれる豚によく似た魔物がいた。
シマシマブーはその名の通り、縞々模様の豚によく似た魔物であり、体長は1mくらいだった。
味は非常に美味しく、市場での人気も高い魔物である。
しかし、森の中に生息しているため、捕まえるのが難しい上に、こんな見た目にも関わらず、足が非常に速いため、自然で捕まえるのが非常に困難な魔物だった。
このフロレンツ伯爵領の都市フローラでは、城壁のそばを牧場のようにして、魔物を育てているのである。
「ああ、あれは、シマシマブーという魔物だよ。かなり美味しい魔物だよ。」
「豚ではなくて、シマシマブーですか。」
シーニュは、興味深げにシマシマブーを見ていた。
「そうだよ。」
ローマンは、特に珍しい魔物ではないため、さっさと視線を馬車の中に戻した。
「んっ、何か変なのが一匹混じってますけど? 」
「えっ?」
シーニュの言葉に再びローマンが視線を馬車の外に戻したが、ちょうど馬車が都市の中へと入り始めており、結局、シーニュの言う変なのを確認することは出来なかった。
「変なのってどんなのだったんだい?」
「ん~・・シマシマが少しブレブレだったような気がします。」
「・・・ちょっとした模様の違いじゃないのかな?」
「そうですかね?何かちょっと感じも違う気がしましたけど・・・あーーー!見てください、ロマ兄。こんな街並、私、現実では始めてみました!」
シーニュは再び、窓の外のフローラの町並みに視線が釘付けになっていた。
「・・・子供・・・だね。」
次々に興味が移るシーニュをローマンは優しい目で見つめていた。
「それじゃあ、お休み。」
「ロマ兄、お休みなさい。」
ローマンは、宿屋の下の酒場で夕食を取った後、宿屋に1人部屋を2部屋取り、シーニュと別々の部屋に入った。
シーニュがまだ、かなり精神的に幼い気がしたので、2人部屋にすべきか少し悩んだが、これまでのシーニュの言動から推測すると、2人部屋にするとまたひと悶着ありそうだったので、隣同士の1人部屋2部屋にしたのだ。
「・・・なんか、王宮にいた頃には感じなかった精神的な疲れだな・・・。」
ローマンは、酷く疲れた顔で、お風呂にも入らずに真っ直ぐベッドに横になった。
そして、ウトウトしていたら、いつの間にか寝てしまった。
どれほど寝ていたのだろう、ローマンが次に目を覚ました時、街中に響く鐘の音が鳴り響いていた。
ローマンは、急いで窓の外を見ると、街では多くの衛兵達が右往左往していた。
それを見たローマンは、急いで部屋を出て、隣の部屋をノックした。
コンコンコンコンッ
「・・・誰ですか?」
ドアは開くことなく、シーニュの声だけが聞こえてきた。
「シーニュ、何か起こったみたいだ。急いで出ておいで。」
「・・・誰ですか?」
シーニュの声は、まだ半分寝ぼけているようだった。
「ローマンだよ。鐘の音が聞こえるだろ?何か起こったみたいだ。急いでいつでも出ることができるように準備して。」
「・・・ローマン?・・・ああ、思い出しました、おじさんですね。」
「ウグッ。」
「わかりました。ちょっと待っておいてください。てっきり、目覚まし時計の音が鳴っているのかと思ってました。」
微妙にローマンに精神的ダメージを与えながら、シーニュは、どうやらはっきりと目を覚ましたようだった。
5分ほどして、シーニュが出てきた。
「遅かったね?」
「えっ、ごめんなさい。ちょっと、下着とか服とかを洗って干していたので、乾かすのに時間が掛かりました。」
ペコリとローマンに頭を下げるシーニュ。
「今、乾かしたのかい?」
「はい。今乾かしました。で、裸で寝てたので、ドアを開けられなかったんですよ。」
ローマンは、どうやって乾かしたのか聞きたかったが、今はそんな状況ではないと思い直した。
「とりあえず、外に出て何があったのか聞いてみよう。」
「はい。」
ローマンとシーニュは、一緒に階段を下り、宿屋の外へ出てみた。
通りには多くの人が溢れており、ガヤガヤと騒がしかった。