116 気遣いの出来る男、ローマン、旅に出る。(2)
乗り合い馬車は、しばらく森の中を走っていると急にスピードを落とし始めた。
何事かと思い、前をみると、ひとりの少女が道の端で乗り合い馬車に手を振っていた。
その少女の横で乗り合い馬車が止まると御者と少女が何か話し始めていた。
少女は白を基調とした服に大きなツバのついた先の尖った帽子をかぶっていた。
さらに背中には、大きな白いマントをつけていた。
ローマンは、王宮の中で見たことのある女性の魔術師の服装に似ているなと思った。
身長は低く150cm程度だろうか、かなり幼く見えた。
ローマンは少し聞き耳を立てていたが、どうやら、この乗り合い馬車に乗せる、乗せないで揉めている様子だった。
乗り合い馬車の中からは2人の話に割り込みにくかったので、ローマンは一度後ろから乗り合い馬車を降りて、仲裁に入ろうと乗り合い馬車を降りた時、いきなり乗り合い馬車が出発してしまった。
呆然と去ってゆく乗り合い馬車を見るローマン。道の端では、乗り合い馬車の御者と揉めていた少女が、「けーち!ばーか!お前なんか馬に蹴られて死んじゃえ!」と悪態をついていた。
去り行く乗り合い馬車に一通りの文句を言い終わった少女は、ようやくそこにローマンが立っていることに気付き、「何ですか?」とローマンを睨みつけた。
「い、いや・・何ってことのほどもないけど、何を揉めていたのかと思ってね。」
ローマンの顔は微妙にこわばっていた。
「・・・乗せてくれって頼んでいたんですよ。」
「乗せてくれなかったのかい?」
「乗せてくれていたら、ここにいるわけないじゃないですか!」
少女は頬を膨らませローマンから視線を逸らした。
「そ、そうだよね。僕が悪かったよ。機嫌直してくれるかな?」
「・・・何か食べ物持ってますか?」
「ああ、ちょっと待ってね。」
ローマンは、腰につけたアイテムボックスの小袋からよく冒険者などが食べる固いパンと燻製にした肉を出し、燻製にした肉を薄くスライスして、パンに挟んで少女に渡した。
少女は、差し出されたスライスした肉を挟んだパンを横を向いたままでローマンの手からひったくると街道沿いの木の後ろに周り込むとその後ろでガツガツと食べ始めた。
「・・・・・・・ヒック・・・・ヒック。」
少女は乾いたパンをいきなり食べたため、しゃっくりが出始めていた。
ローマンは、アイテムボックスからコップと水の出る魔石を取り出すとコップに並々注いで木に隠れている少女へと差し出した。
「・・・ヒック・・・変なヒック・・・・ものヒック・・・入ってヒック・・・ないですよねヒック?」
疑いの目を向ける少女。
「だ、大丈夫だよ。」
人に疑われることに慣れていないローマンは悲しい笑みを浮かべた。
自分はそんなに怪しく見えるのだろうかとちょっと残念な気分になった。
「ぐび・・・ぐび・・・・ぐびぐびぐびぐびぐびプハァー・・・美味しいです。」
最初、警戒して一口ずつ飲んでいたが、途中で普通の水と分かり、一気に水を飲み干す。そのおかげで、少女のしゃっくりは止まったようだ。
「満足したかい?」
「はい。お兄さん、いい人ですね。・・・警戒してごめんなさい。」
少女は素直にローマンに頭を下げた。
その姿を見て、実は素直ないい子なのかもしれないとローマンは、少女の自らの中の少女の評価を訂正した。