109 国王とエストラ男爵、おまけのエルダ(2)
登場人物
イグナーツ・・・アリステーゼ王国国王
ギャラン・・・アリステーゼ王国冒険者組合組合長
ヴァイアード・・・アリステーゼ王国王都アウグスティンの鍛冶組合組合長
ラインベルト・・・ラインベルト・シュナイゼル・エストラ男爵。12歳。
エルダ・・・エルダ・リ・マルクーレ。『パンプキン・サーカス』のメンバー。ショタ。未来のラインベルトの嫁の予定(本人の中では、確定。)。
ドワーフの奴隷化の禁止法令・・・ドワーフを奴隷にしちゃ駄目だぞっという法律。破ったら殺しちゃうぞという感じ。まあ、程度によるが。
イグナーツに書いてもらったエルダへの手紙・・・(こやつ、抜け目がないの。)とイグナーツに思わせた手紙。エルダ待望の手紙でもある。もしもの時のために、エルダのマジックボックスの袋に大事にしまわれている。エルダは、イグナーツが書くところは見ていたが、内容は確認していない。
「それでは、最初に秘密裏に送り込みたいと言ったが、これは、本当に慎重を期す必要があって、騎士達をバラバラに旅人や商人、冒険者に化けて送り込む。そして、その中から2,000人ほどが、とりあえず、エストラ男爵家に仕官するので雇ってやってくれ。」
「はい。分かりましたが、残りの2,000人はどうするのですか?」
「ああ、それは、さすがにいきなり4,000人もの騎士を抱えると目立ちすぎるからな。順次増やしていけばよい。その間、騎士達には、エストの町に潜伏しておくようにいうので安心してくれ。」
「はい。」
潜伏という言葉に、やや安心できない思いを持ったラインベルトだが、それを国王陛下であるイグナーツへ言うことはできなかった。
「おい、ちょっといいか?」
ギャランがイグナーツとラインベルトの会話に割り込んできた。
「何だ、ギャラン?」
「さすがに、やはり騎士ばかり4,000人も送り込むのは、目立ちすぎるんじゃないか?騎士は独特な雰囲気あるしな。立ち振る舞いも見る奴が見れば、丸分かりだからな。」
「そうか?・・・それは、困ったな・・・。」
イグナーツとギャランは、下を向いて考え込んだ。
「あ、あの、よろしいでしょうか?」
「何だ?申してみよ。」
イグナーツは、ラインベルトに発言を促した。
「実はですね。私のエストもどうにか住人を増やしたいと思っておりまして、もし、よろしければ、王都で住民の募集をさせてもらえないかと思いまして。」
「んっ?褒美の話か?」
「いえ、そうではなく、エストラ男爵領が、住民の募集をかけたことを大々的に宣伝してもらいまして、それに応募という形で新しい住民をエストラ領に送るという形でしたら、騎士の方々が、護衛でエストラ領まで来てもおかしくないし、もしくは、その新しい住民の中に騎士の方々を紛れ込ませて、私の領地に送り、護衛だった騎士の方々は、王都に送り返すという手法を取れば、私が国王陛下より騎士を譲り受けているとは思われないのではないかと。」
イグナーツに必死に自らの考えを述べるラインベルト。その姿は、12歳の少年ではなく、すでに立派な貴族の一員だった。そして、そんなラインベルトの姿を気持ち悪い笑顔で見つめるエルダは、立派な痴女の一員だった。
「しかし、それは、仕事はあるのか?住民を集めるにしても、仕事がないと新しい住民もやっていけないぞ?」
「はい。・・そのそれで第一陣として、この王都で酒場やレストランを開くことを夢見ているが、未だに開けていない人達に声を掛けまして、1年間家賃なしの物件でお店を開いてみないか声をかけまして集めてみたらどうかと思いまして。騎士4,000人増えるとなるとそういうお店が増えないといけませんし。王都で目の出ない人は、来てくれる人がいるのではないかと思いまして。」
「なるほど・・・。確かに、王都でも、最近は人が増えすぎて、スラムのようなところが出来ているのが、問題になっておった。王都の問題とエストラ男爵領の問題を一気に片付けるためには持って来いだな。」
イグナーツが何度も「うん、うん。」と頷いていた。
「いいんじゃねぇーか?確かに、4,000人もの騎士を隠れて送るにはもってこいだと思うぜ。」
ギャランも納得した言わんばかりに頷いていた。
「よし。それでは、エストラ男爵の案を採用しよう。まぁ、同時に最初の案も進行していけば、予定より早く騎士を送り込む作業が終わるかもしれんしな。誠にエストラ男爵は将来有望な若者だ。」
「あ、有難き幸せ。」
ラインベルトは、目の前の机にぶつけそうなくらい頭を下げた。
「それでは、細かい所を詰めるか。」
その後、会議は1時間に渡って行われた。
「最後に、今回のことに対する、褒賞の希望はあるか?」
「いえ、私は、国王陛下のお力に為れるのであれば、それで構いません。」
「そういうわけにはいくまい。この王都まで知らせてくれたおかげで早いうちにこの問題に対する手が打てたのだ。そうだな・・・まず、ドワーフを解放し、テトリナ子爵をおさえる事ができた場合には、ドワーフ達の鉱山の運営権をそなたに許そう・・・まあ、あくまで公にできる場所ではないから、余とエストラ男爵の密約ということになるがの。」
「こ、鉱山ですか?」
「ああ、そうだ。他にも、これからしばらくの間は、援助や補助は惜しまなぬから、どんどん要望を伝えてきてくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
「うむ。それでは、これで、この会議は終了とする。なお、この会議内容は、秘密とするため、各々、頼んだぞ。」
「はい。失礼致します。」
ラインベルトは、椅子から立ち上がり、一礼して、部屋を出て行ったが、エルダは、ラインベルトが先に出るのを見届けると、振り返り、イグナーツを見た。
「何だ?」
「一筆書いてもらいたい。」
とても国王陛下に対する口の聞き方とは思えないが、エストラ男爵に嘘をついているという後ろめたさから、イグナーツはそれを許した。
「一筆?」
「私は、口約束は信じない性質なのでな。大事な事は、紙に書いてもらうようにしているのだ。あっ、タチと言っても女性が好きなわけでも、攻めるのだけが好きなわけでもないぞ、どちらかといえば、ラインベルトのような若い果実に無理やり犯されるのが好みというか。フフフフ・・・。」
エルダを呆れた表情で見るイグナーツとギャランとヴァイアードの3人。見事に3人共、目が点になっている。
「わかった。ただし、こちらもこの会議の内容が、外に出ては困る。それなりの手を打たせてもらっても構わないか?」
「ああ。」
イグナーツは、部屋に置いてあった棚から、墨とペンと紙と封筒を取り出し、紙にペンで書いてから封筒に入れた。
「では、この赤い封蝋に血を一滴垂らしてくれ。」
「わかった。」
エルダは、言われた通り、血を一滴垂らした。
そして、イグナーツは、その赤い封蝋を溶かして、手紙に垂らし、自らの印を押して、封筒を閉めた。
「この中にお主の希望する内容が書いた手紙が入っておる。もし、余が約束を破った場合は、それを開けて皆に見せるが良い。ただし、その封蝋は、お主以外が開封すると一瞬で手紙が燃え上がるようにできたマジックアイテムだ。取り扱いには気をつけよ。」
「ふっ、感謝する。」
うれしそうに手紙を受け取ると、エルダは、部屋を出て行った。
部屋の外では、ドアの前で心配そうにウロウロしているラインベルトが立っていた。
「どうしたんだ、ラインベルト?」
「いや、エルダが出てこないから、また、変なことを言って国王陛下を怒らせたんじゃないかと心配してたんだよ。」
「ふっ、そんなこと私がするわけないだろ?ちょっとお願いして手紙を書いてもらっていただけだ。」
「・・・国王陛下に頼んで手紙を書いてもらったの?」
今にも倒れそうになるのを必死に堪えて、ラインベルトはエルダに尋ねた。
「ああ。意外といい奴で、すぐに書いてくれたぞ。」
「・・・・ああ・・・終わりだ・・・エストラ男爵家は終わりだ・・・・。」
そう言いながら、ラインベルトは、廊下に倒れる。
「これはいかん。すぐに宿屋の私のベッドに運ばねば。」
ニヤケた表情をしたエルダが、ラインベルトを抱えて、王宮の廊下を後ろからメイドに呼び止められながらも気にせずに駆けていった。