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105 独立の気配(1)

登場人物


イグナーツ・・・アリステーゼ国王


ギャラン・・・アリステーゼ王国冒険者組合組合長


ヴァイアード・・・アリステーゼ王国王都アウグスティンの鍛冶組合組合長。ドワーフ。


影翼・・・アリステーゼ王国国王直属の情報機関。スパイ組織みたいなもの。


サイラス伯爵領・・・エストラ男爵領の南。


テトリナ子爵領・・・エストラ男爵領の東。


ケイティート子爵領・・・サイラス伯爵領の南。



王宮前で馬車を降り、ギャランとヴァイアードは、国王のいる部屋へと案内された。



ギャランは、てっきり内々だけの話にするので、国王の自室と思っていたが、通されたのは立派な会議室であった。



中には、イグナーツ以外にも10人程度の人間が、席についていた。



「おいおい、これは一体どういうことだ?ドワーフの親父一人に10人掛かりで説得とは、さすが大国アリステーゼ王国の国王様だな。」



皮肉を言いながら、空いている席にギャランは座った。



その後にヴァイアードは、機嫌が悪そうな表情のまま、無言で席に座った。



「いや、わざわざ来てもらって済まない、ヴァイアード。」



「俺にはねぎらいの言葉はねぇーのかよ。結構頑張ったんだけどよ?」



「当然、感謝している、ギャラン。」



ヴァイアードは、無言のまま、イグナーツを一瞥し、ギャランは、感謝の言葉に頷いた。



「ところで、これは何の騒ぎだ?」



「ああ、実はあの後、念のため、国王直属の機関である『影翼』を集めて、お前にもらった情報も含めて、これからのことを検討したんだが、ちょっとまずいことに気付いてな。」



「ほう、さすが大国アリステーゼ王国。『影翼』なんてものがあるんだな。」



ギャランは珍しいそうに部屋の中にいる人間の顔を確認した。



「ああ。一応、これらは、国王直属の情報班のひとつだ。内密に頼むぞ。」



「そこらへんは信用してくれ。」



ギャランとヴァイアードは頷いた。まあ、元からイグナーツはこの2人を信用しているから、この部屋に通しているのだが。



「それで、我が国の北西部の最近の情報をいろいろ分析してみたのだが、どうやら、あやつら、とんでもないことを考えているようだ。」



「とんでもないこと?」



「ああ、あくまで可能性だが、テトリナ子爵、サイラス伯爵、ケイティート子爵が中心となり、アリステーゼ王国からの独立の動きありということらしい。」



「独立?ああ、確かにあの地域は、ヒルメリア都市連合の交易都市グロースに近いから、独立してもやってはいけるだろうが・・・本当にできるのかね?」



ギャランは、頭の中にアリステーゼ王国北西部の地図を思い出していた。



「・・・そのために、鉱山が必要だったわけか。」



ヴァイアードは、納得したというような表情になった。



「ああ、多分そうだろう。交易のネタになる上に、この国でもそうだが、武器や防具を作るのにドワーフを抱えていて損なことはないからな。」



「でも、さすがに戦力が足り無すぎだろ?」



「いや、実はそうでもない。今回、何人かの王子達の王位継承権を剥奪したのを知っていおるか?」



「そりゃ、あれだけ騒ぎになればな。」



「それに関係したことなのだが、今回、王都の守備隊4万人をアリステーゼ王国南側の国境に移すことを決定した。数日後には、発表する予定となっておる。」



「4万人も?そりゃ、守備隊の半分近くじゃねぇーか?」



ギャランの言うとおり、王都アウグスティンの総兵力は10万人程度と言われていた。



その内、4万人を移動させるとなると、イグナーツがアリステーゼ王国の南のことをどれだけ危険視しているかは自明の理だろう。



残り6万の兵士達でその他の地域に目を光らせるわけなので、王都の守護も考えると、どう考えても王都から動かせるのは2万人がいいところである。



そうなると、アリステーゼ王国北西部の貴族達でも十分に対抗できる数というわけだ。



あくまで、王家に他の地域の貴族が尽力しない場合に限るが。



「その情報が漏れて、今なら、北西部への干渉が弱くなると踏んだのだろうな。もし、見つかっても、いくらでも言い訳ができる。しかも、見つからなければ、ドワーフを奴隷にして、好きなだけ鉱山を掘り、武器や防具を作らせることもできる。まさに、見事な作戦だ。」



「それじゃ、その南に行く兵士をそのまま北西部に送って、北西部の奴らを倒しちまえばいいじゃねぇーか?」



ギャランの考えでは、簡単な理屈だったかもしれないが、現実的にそう簡単なことではなかった。



「だから、そう言う訳にはいかんのだ。まず、北西部の貴族達を攻撃する理由がない。今の状況で攻撃してしまえば、他の地方の貴族の反発も招く。それこそ、アリステーゼ王国崩壊だ。」



「攻撃できる理由があればいいのじゃな?」



ヴァイアードの言葉にイグナーツが頷いた。



「そうだ。ただ、問題があって、アリステーゼ王国南側に出発する兵士達の予定を変えることはできん。」



「それほどの事態が、南で起きているということかの?」



「詳しくは言えぬが、そう思ってもらって差し支えない。」



真剣な表情のイグナーツを見て、ヴァイアードの表情もさらに真剣みを増す。



「今は、南のことは置いておいて、アリステーゼ王国北西地域のことだが、あくまでその可能性があるということだけで、実際、そうなのかはわからん。ただ、ケイティート子爵は、クルワラ共和国のレジスタンス活動に援助をして、その見返りとして、クルワラ共和国の鉱山を手に入れようとしているらしい。そして、サイラス伯爵は、あそこは、北西部の交易の中心じゃからな。有り余る金を使い兵士を集めておるという情報が入って来ておった。そこに今回のテトリナ子爵の件じゃ。」



「すべて繋がっていると見ているということか?」



ギャランの顔を真っ直ぐ見つめて、「そうだ。」とイグナーツは言い切った。



「それ以外にも、サイラス伯爵領の東、テトリナ子爵領の南に小さなユルゲン男爵領というのがあるのだが、ここも、先日、代替わりしたのだが、この代替わりしたのが、サイラス伯爵の次男であるらしい。ユルゲン男爵領は小さい割りに結構な穀倉地帯でな。それに目を付けたサイラス伯爵にいろいろ嫌がらせされて、結局、借金の方に奪い取られてしまったという話だ。」



「鉄に兵士に食料ね・・・そりゃ、どこと戦争するって話だ。」



ギャランが呆れた様に両手を上げてぼやいた。





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