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104 その痛みは男の勲章である。

登場人物


ギャラン・・・アリステーゼ王国冒険者組合組合長。


ヴァイアード・・・王都アウグスティンの鍛冶組合の組合長。ドワーフのヴァ族。


トリワラ王国・・・アリステーゼ王国の西、クルワラ共和国の南に位置する国。


上空に丸い月が煌々と輝き浮かんでいた。



アランドベル大陸上空に浮かぶ月は、色こそ地球上で見る月と同じだが、大きさは一回り大きいように見えた。



そんな綺麗な夜空の中、一台の馬車が王宮へと急いでいた。



通常、夜、馬車で走るのは自殺行為でもあったが、王都は夜遅くまで道沿いの店などの明かりが漏れてくる上に、道の端に明かりを出す魔石を設置してあるので、夜にも関わらず、馬車で走ることができた。



馬車に乗っているのは、アリステーゼ王国冒険者組合組合長ギャランと鍛冶組合会長でありアリステーゼ王国内のドワーフのまとめ役であるヴァイアードであった。



夜10時を回ろうというこの時刻に王宮へと急いでいるのは、アリステーゼ王国国王であるイグナーツに呼び出されたためである。



「・・・すまんの。」



ドワーフのヴァイアードが、ギャランと視線を合わせないようにしながら、謝った。



「まあ、気にするな。不可抗力だ。」



ギャランは、自らの股間を右手でスリスリとさすっていた。と言っても、こんな場所で自慰をしているわけではなかった。当たり前だが。



ヴァイアードは最初、国王であるイグナーツの呼び出しをけんもほろろに断った。



ギャランは、そんなヴァイアードを説得している内に何故か半分取っ組み合いになり、そして、その最中にヴァイアードの頭が、ギャランの股間に的中したのだ。



ギャランの身長は2mを超え、ドワーフであるヴァイアードの身長が150cm程度だったので起こった悲劇だった。



「いいから来いよ。」というギャランに「嫌じゃ、嫌じゃ。」と暴れるヴァイアード。



ヴァイアードの肩を抑えるギャランから逃れようと、腰を曲げて上半身を振り回した先にギャランの股間があった。



悶絶するギャラン。あまりの事態に「す、すまん。」としか言えないヴァイアード。



そんな中、男なら分かるであろう激痛の中、「・・き・・来てくれるだろ?」とヴァイアードに言ったギャランの精神力は賞賛に値するだろう。



そして、そんな状況の中、断れる男はいないだろう。



ヴァイアードは仕方なくギャランの説得を受け入れて、王宮へと向かっているのだ。



「しかし、行ったからと言ってワシの考えを変えることができるとは思わぬことだ。」



「ああ、分かってるよ。その時は、俺も一緒に行ってやるから安心しろ。」



「ギャラン・・・。恩に着る。」



「いいって事よ。ヴァイアードには今まで散々お世話になってるんだ。これくらいお安い御用だ。」



下手すれば、アリステーゼ王国と揉めるかも知れないというのに、こういい切れるところが、元S級冒険者であったギャランの凄さである。普通の人間なら尻込みしてしまうだろう、普通の人間であったならば。



「ただ、・・・こういっちゃなんだけどよ。集まんのか?」



ギャランの言葉に思わず「ウッ。」と言ってヴァイアードは下を向いてしまった。



王都の鍛冶組合に属しているドワーフなら、絶対に今回の事件に怒り、一緒に戦いに出てくれる自信はあったが、ヴァイアードの目の届かないドワーフについては実のところ自信はなかった。



ドワーフの種族的な性格上、この事態より優先すると自らが思うことを抱えていたら、まず来ないと思った方がよかった。



しかも、来たとしても、平気で1週間、2週間なら遅れてくることを悪いとも思わない種族なので、実際、時間内にどれほど集まるのか自信はなかった。



しかし、なぜ、そういう種族であるヴァイアードが、このような鍛冶組合まで作って、ドワーフのために行動しているのかと言えば、今は亡き自らの部族、ヴァ族が関係していた。



アリステーゼ王国の西に位置するトリワラ王国が関係していた。



元々、このトリワラ王国とアリステーゼ王国の国境の山を拠点にしていたドワーフの部族であるヴァ族出身である。



ある日、トリワラ王国の奴隷狩りにあい、ヴァ族は、ヴァイアード以外の者は、皆、奴隷になったか、殺されてしまっていた。



その後、失意のうちにアリステーゼ王国の王都に流れてきたヴァイアードは、あのような悲劇が二度と起こらないように鍛冶組合を組織したのだ。



ちなみに、その鍛冶組合の組織化には、ヴァイアードが武器の世話をしてやっていたギャランも尽力している。



アリステーゼ王国は基本的にすべての人種を奴隷にすることを認めていない。



しかし、奴隷を使うことは認めているのだ。



これには、近隣諸国がすべて奴隷にすることも使うことも認めているので仕方がないのだ。



他国から来る商人は、平気で奴隷を連れてくるのだから、奴隷を使うことを認めなければ、アリステーゼ王国に他国からの商人が来なくなってしまうのだ。



ただ、唯一、ドワーフの奴隷だけは、一切認めていない。



これは、ヴァイアードが、アリステーゼ王国のイグナーツに、もしドワーフの奴隷を見つけたら、アリステーゼ王国中のドワーフが出て行くと思えと言っているためであった。



ほとんどの都市でドワーフの鍛冶屋というのは見ることが出来、また、実際、ドワーフの鍛冶師の腕は別格なのだ。



アリステーゼ王国の王都アウグスティンでも、多くのドワーフの鍛冶師が存在しており、王都の全兵力の武器や防具のメンテナンスも鍛冶組合を通して、ドワーフ達に頼んでいる。



もし、ドワーフ達がこの国からいなくなるということを考えると、アリステーゼ王国のかなりの軍事力が下がると言っても過言ではなかった。



「まあ、テトリナ子爵とかいう奴に突っ込むのはいつでもできるんだから、イグナーツの言うことにちょっとは耳を貸してやれよ。」



「・・・すべては、イグナーツの考えを聞いてからじゃ。」



ギャランとヴァイアードは、その以後は言葉を交わさず、王宮に到着するまで、静かに馬車に揺られていた。



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