103 王宮の事件簿 メイドは見た イグナーツ王、ホルハラ鳥をギャランに食べられる!
登場人物
イグナーツ・・・現アリステーゼ王国の国王。
ギャラン・・・アリステーゼ王国の王都アウグスティンにあるアリステーゼ王国冒険者組合の組合長。偉い人。エロい人ではない。
ヴァイアード・・・王都アウグスティンにある鍛冶組合の組合長。ヴァ族のドワーフ。ドワーフの中で名工と言われている者のひとり。
アランドベル大陸の冒険者組合の本部のある楽園都市ブリュッケン・・・たぶん、前に本部の位置をブリュッケンと書いたような気がしているため、とりあえず、ここにしといた感が強い。書いた後で消したかも知れないので、はっきりしない。というわけで、違ったらしません。後々、読み返して確認しておきます。
アリステーゼ王国の王都アウグスティンの王宮では、国王イグナーツが遅い晩餐を取っていた。
イグナーツの目の前のテーブルには、これでもかと言わんばかりの豪華な料理が所狭しと並べられていた。
突如、その王の食事をしている部屋のドアが、乱暴に開け放たれた。
入ってきたのは、身長2mはゆうに超える赤髪の中年の男だった。
イグナーツは、一瞬だけ入ってきた男に視線を送ったが、すぐにテーブルの上の料理に視線を戻し、食べ続けていた。
赤髪の男は、そんなイグナーツの視線など気にした様子もなく、ドカドカと歩き、イグナーツの横の席に勝手に座り、イグナーツのために用意されたホルハラ鳥の丸焼きの入った皿を自分の前に引き寄せると手づかみで丸ごと持ち上げ、豪快にかぶりついた。
「ふー、ギャラン、そのホルハラ鳥の丸焼きは、余の好物なのだぞ。後でゆっくり味わおうと思っておったのだがな。」
イグナーツは、ようやく食事を取るのをやめ、横に座っているギャランと呼んだ赤髪の男を見た。
「天下のアリステーゼ王国の国王ともあろうものがケチ臭いこと言うな。俺様もようやくこれが今日3回目の食事なんだ。」
「一日何回食事をするつもりだ?」
「最低5回だな。どっかの馬鹿のせいで今日は、忙しくてたまらん。」
ギャランは、椅子に座ったときにテーブルの上に置いた紙の束をイグナーツへと渡した。
「・・・ギャラン、ホルハラ鳥の油で紙が汚れておるぞ?」
嫌そうにギャランの渡してきた紙の束を見るイグナーツ。
そんなイグナーツの言葉などどこ吹く風でギャランは、豪快にホルハラ鳥の丸焼きを食い千切っていた。
イグナーツは、ギャランの返答がないため、仕方なく、油まみれの紙を手に取り目を通す。
そして、ある程度、読み終わったあたりで深いため息をついた。
「フーー・・・。これは確定情報か?」
「ああ、確定も確定。俺の明日の朝食を掛けてもいいぞ。」
「・・・それにどれほどの価値があるのかは知らぬが・・・まったく、次から次に問題が起こるものだ。」
イグナーツは、テーブルの上に置いてあったボールの中に入っている水で手を軽く濡らし、同じくテーブルの上に置いてあったタオルのような布で手を拭き、目頭を押さえ、上を向いた。
「で、アリステーゼ王国の国王として、どう対応するんだ?」
「・・・何も出来はせんわ。」
「いいのか?ヴァイアードの奴はぶち切れてるぜ?」
「ヴァイアードに言ったのか?」
「当たり前だろ?同胞が攻撃されたんだ。言わないで、後からわかったら俺が殴られちまう。」
ヴァイアードとは、このアリステーゼ王国の王都アウグスティンにある鍛冶組合の組合長であった。
鍛冶組合は、大陸中にある組織ではない。
もしかしたら、どこかの国にはあるかも知れないが、基本的にアリステーゼ王国の大都市にある組織なのだ。
そもそも、多くの鍛冶師を抱える都市でなければ、あっても意味をなさないからだ。
そのため、鍛冶組合に横のつながりはなかった。
ただ、問題は、この鍛冶組合の会員のほとんどが、ドワーフであるということだった。
要するに、鍛冶組合とは名ばかりのアリステーゼ王国に住むドワーフのための組合なのだ。
ドワーフの組合だけに、鍛冶組合にまとまりというものは皆無と言ってよかったが、それはあくまでドワーフに危害が加わらない場合である。
ほとんどの人間は知らないかもしれないが、いつも自分勝手に行動しているドワーフ達も身内が傷つけられた場合には団結する、いや、団結させるためにヴァイアードが作り上げた組織なのだ。・・・本当に団結するかは、その時がこなければ分からないのが実情だが。
「それで、ヴァイアードは、どうしようとしておる?」
「ああ、ついさっき、俺の組合に依頼があったぜ。」
ギャランが言った俺の組合とは、冒険者組合のことである。
ギャランは、アリステーゼ王国冒険者組合組合長であった。
アランドベル大陸にある冒険者組合の本部は、ヒルメリア都市連合国の楽園都市ブリュッケンにある。
そこに唯一、ギャランより格上の本部長がいるが、その本部長を除いて、次に地位が高いのがこのギャランであった。
ただし、ギャランと同格の地位にある組合長が他の国に何人かは存在していた。
だいたい、アランドベル大陸の中にある大国と呼ばれる国の組合長は、幹部として、ギャランと同格に扱われいる。
「聞きたくはないが、どんな依頼だ?」
「アリステーゼ王国中の鍛冶組合及び各地のドワーフに緊急招集を連絡してくれと。集合場所は、王都から馬車で2週間程度の距離にあるユーミール伯爵領だ。」
「はぁ・・そこで皆と落ち合って、王国の北西部に攻め入ろうというのか?」
「そうだろうな。」
話している間もギャランはホルハラ鳥を食べ続け、すでにほとんどが骨になっていた。
「残念ながら、エストラ男爵は本当のことを言っておったか。」
「何ですぐに会わなかったんだよ?」
「エストラ男爵の言っていることに不可解な点があったからだ。エストラ男爵領からここまでは2週間~3週間はかかる。それにもかかわらず、エストラ男爵は3日前の出来事としてこの件について謁見を求めてきた。係りの者が裏をとろうとするのも当然だ。だから、お前に頼んだのであろうが。」
「で、何で何も出来ないんだよ?」
「それはな、あそこは名目上、余の直轄地であるのだ。だから、ドワーフが掘るのを、回り回って最終的に王国の利益になるため見て見ぬ振りはしておったが、本来、勝手にドワーフがいてはいけない土地なのだ。」
「だから?」
「だから、それに気付き、討伐したと言われれば、王国北西部の貴族であるテトリナ子爵をを裁くわけにいかん。むしろ、感謝しなければいけないぐらいじゃ。・・・討伐したと言われたらな。」
「・・・まあ、ヴァイアードとは腐れ縁だ。次会う時は戦場でな。」
ギャランは、そう言って、椅子から立ち上がり、去ろうとした。
「ちょっと待て、ギャラン。お主もヴァイアードの側につくのか?」
「ああ。今回の件は、俺も頭にきてるんでな。散々、ドワーフ達に世話になっておきながら、いきなり攻めるなんて、道理にあわねぇーだろ?そういう奴をお仕置きするのも俺の流儀だ。」
「冒険者組合が敵になるということか?」
「いや、一応、話の流れは皆に話すが冒険者組合として動くことはねぇー。俺、個人の行動だ。」
イグナーツは、疲れた表情で俯いた。
ギャランはこう言っているが、ギャランの冒険者組合での人望は並ではない。
冒険者達にとっては生きた伝説なのだ。
そのギャランを敵に回すということは、冒険者達を敵に回すと同じ意味だった。
「・・・ちょっと時間をくれぬか?」
「俺はいいけどよ、ヴァイアードはどうするんだよ?」
「至急、ヴァイアードも呼んでくれ。」
「わかった。今から連れてくるぜ。」
「それまで、ヴァイアードの依頼は、お主で止めておいてくれよ。」
「わかってるよ。」
ギャランは、入って来た時と同じようにドカドカと歩いて部屋を出て行った。
「・・・フゥー・・・・。」
イグナーツは、もはや食事をする気力は起きなかった。