99 世界の車窓から~本日は、爽やかに駆ける馬車の中より、自然溢れるアランドベル大陸の景色を御覧ください~
登場人物
ミサキ・・・『パンプキン・サーカス』のギルドマスター『ほっかほっかのかぼちゃ』。
ハイド・・・傭兵ギルド『抗う心臓』のメンバー。狼族の獣人。交易都市内の悪評が高い人物、何もしてないにも関わらず・・・。
ニーナ・・・猫族の獣人。
ドルト・・・元ドンゴ・ガバルチョの執事。現在、『パンプキン・サーカス』のメンバー兼、下部組織にあたる『パンプキン商会』の会長兼、ミサキの執事。
ヒルメリア都市連合国の交易都市グロースとアリステーゼ王国エストラ男爵領エストを繋ぐ街道を爆走する一台の馬車があった。
馬車の側部には、ハロウィンのパンプキンヘッドとデスサイズをあしらったデザインが彫られていた。
もし、VRMMO『グランベルグ大陸』をやっていた人が見れば、一目でわかる最悪のギルド『パンプキン・サーカス』のギルド旗に描かれていたデザインと同じ物と気付いたことだろう。
残念ながら、この『アランドベル大陸』では、このデザインを見ても分かる人間はおらず、その結果、馬車を止めるために馬車の前で待ち伏せしていた盗賊達を無慈悲に轢き殺すという残念な事件が起こったばかりだった。
「「「待ちやがれ!」」」
大声を上げながら、馬車の後ろから20人ほどの馬に乗った盗賊達が追いかけてくるが、未だに馬車に追いつけずにいた。
馬車を引いている馬がとんでもなく早いのか、後ろから追いかけてくる盗賊の乗った馬と同等の速さで走っているのだ
この盗賊に追いかけられている馬車に乗っているのは、当然のことだが、ミサキ以下、いつものハイド、ニーナ、ドルトであった。
このような痛ましい事件が起こった背景は、交易都市グロースを出発して1時間経った頃に起こった。
この日、パンプキン商会の倒産を防ぎ、新たな都市に支店を作るという目標のため、まず、地理的に近くて、可能性が高いとドルトが考えたアリステーゼ王国エストラ男爵領のエストという都市に向かうことになったのだ。
朝早くに出発したのだが、交易都市グロースとエストラ男爵領エストの距離は、馬車で15時間程度であり、そのことを馬車の中で聞いたミサキが変なことを言い始めたのだ。
「ちょっと遠すぎるから、改造してもいいかな?」
「か、改造?」
ハイドが驚いたようにミサキを見た。
「そこは、いいともー!でしょ。まったく分かってないなハイドは。」
ミサキは、不満そうにハイドを見たが、さすがにそれは無茶振りである。
「ミサキお姉様、改造ってどうやるにゃ?」
ニーナは、馬車の中でミサキの横に座り、ミサキの膝枕で気持ちよさそうに頭を撫でてもらっていた。ちなみに、ドルトは御者として御者席に座っている。
「それは見てのお・た・の・し・み。」
「嫌な予感しかしねぇー。」
ハイドは、ニーナにウインクをするミサキを見て全身に鳥肌が立つのを感じた。
ミサキから言われ、ドルトは馬車を止めた。
全員馬車から降りて、ミサキはいつものように『ゲート・オブ・ファーム』を使い、スライムを呼び出した。
「こっちのスライムが、トラップスライム。無機物に同化できる能力を持っているスライム。そして、こちらのスライムがドッペルスライム。食べた生き物になれるスライムよ。ただし、能力はドッペルスライムが元になるからドッペルスライムが持っている以上の力はでないけど。」
「「まさか・・・。」」
ハイドとドルトが今から起こる事を予想できたのか嫌な顔をしたが、ニーナは何の事かまったくわかってなかった。
「さあ、君たち、やりなさい。」
ミサキの指示を聞いたドッペルスライム2匹は、馬車に繋がれていた馬2頭に飛び掛り、馬の体全体をあっという間にスライムの体で覆いつくした。
トラップスライムの方は、馬車に向かって行くと、馬車全体に広がり、そして馬車に染み込むように消えていった。
「いやだにゃー、お馬さん達、食べられてしまったにゃー。」
ニーナは、馬がスライムに食べられる様子を見て絶叫したが、ミサキは絶叫するニーナを見て笑みを浮かべていた。
ドッペルスライムの体が、次第に元の馬の形へと変化していった。
「あれ?お馬さん達、生きていたかにゃ?」
「あれはドッペルスライム達が馬に擬態しているだけよ。ただ能力は、その比じゃないけどね。」
ドッペルスライムのレベルはVRMMO『グランベルグ大陸』内では50台だ。
この世界で言うと、ドッペルスライムを倒せる者は、かなり限られているくらいの強さなのだ。
ちなみに単純な強さで競った場合には、ハイドはおろかドルトでも倒せないだろう。
「これで、馬の強化と馬車の強化は終わったわね。それじゃ、これからは私が御者になるから、ニーナは御者席の私の隣に座って、ハイドとドルトは馬車の中に入ってね。」
「・・・馬車の中でトラップスライムに喰われないだろうな?」
「たぶん、大丈夫だと思うわ。」
「たぶんって・・・」
ハイドと声には出さないがドルトもあからさまに嫌な顔をしていた。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ドルトが食べられたら仇はとってあげるから。」
微笑むミサキ。
「俺は?」
憮然な表情のハイド。
「狼って、むしろ自然では捕食される動物じゃないの?」
「捕食する側だよ!」
「そうだったの。だったら、ドラゴンが出たら頑張って捕食してね。」
「・・・そこは卑怯だろ?」
ハイドの表情が悲しみに沈んだ。
確かにドラゴンと比べれば、どの生物も捕食される側だ。
「仕方ありません。覚悟を決めて乗り込みましょう。」
ドルトは、死を覚悟した戦士のような表情で馬車に乗り込んだ。
「ドルトは物分りいいから好きよ。」
ドルトの背中に微笑むミサキ。そして、ハイドを見て、「さっさと入れ、くそ狼。」と悪態をつく。
「・・・仕方ねぇー。俺も男だ。・・・遺書を書いてきてよかったぜ。」
笑えない台詞を吐いてハイドも馬車に乗り込んだ。
どうやらハイドは、ミサキとの生活でいつ死んでもいい様に遺書を書いているらしかった。