9 『ヒロ』 パーティーに入れてもらう
「あ、そうだわ。アレクシス達、今、2人しかいないから、ヒロもパーティーに入れてもらえばいいんじゃない?」
満足げにホーンブルステーキを食べていたジュリが、急に思いついたように会話に入ってきた。
「「えっ?」」
ヒロとアレクシスの驚いた声が重なる。
「だって、アレクシス達、この町唯一のCランクの冒険者だし、他の蛆虫達に教えてもらうより、アレクシス達に冒険者がなんたるかを教えてもらうほうが断然いいと思うわ。」
他の蛆虫と言われた周りの冒険者達が、聞こえないふりをして顔を背けた。
「それは構わないが、・・・どの程度できるんだ?」
「冒険者としてはど素人だけど、強さは保障するわよ。」
「いやいや、ジュリ様。俺、戦いも素人ですから。魔物1匹殺したことありませんよ。」
ジュリの言葉に焦りながら否定するヒロ。実際、ゲームの中では、散々魔物を殺しまくったし、プレーヤーとも戦いまくったが、現実には蚊やゴキブリぐらいしか殺したことはなかった。というか殴り合いの喧嘩すらしたことがないヒロであった。
「えっ、そうなの?まあ、でも、ゴニョゴニョゴニョ・・・・。」
アレクシスに小声で耳打ちするジュリ。
その姿を見て、横でシーターが「私のアレクシスに何するんですか、ジュリさ~ん!」とひとり騒いでいる。
「それは、本当か。・・・無制限のアイテムボックス持ちか。」
アレクシスは、周りに聞こえないように小声でつぶやく。
そのアレクシスの小声が聞こえたヒロは、意外とジュリ様、口軽いなと思いながら、エールをちびちびと口に運んでいた。
「内緒よ。」
「わかっている。」
「い~や~だ~。ジュリさんと私のアレクシスの2人の秘密なんて、い~や~だ~!」
アレクシスは、酔っ払いのシーターには、まったく視線を送らず、考え込んでいる。
ヒロが後で聞いたところによると、結構、容量制限のあるアイテムボックス持ちはいるらしかった。
特に、Aクラス以上の冒険者や貴族や商人には必須アイテムとして、結構な人数の人間が持っているという話だったが、さすがにCクラス冒険者にはとても手に入るような品物ではないらしい。
その話を聞いた時、どうりで解体のマイタスさんの目の前で使っても、たいして驚かなかったわけだとヒロは納得したのだった。
「それならこちらは構わないが、ヒロはそれでいいのか?」
「俺は・・・教えていただけるのならうれしいですけど、本当に何の役にもたたないと思いますよ?」
本当は断りたかったが、今後のことを考えると両親の保険金がない以上、自分で稼ぐ手段をいつかは覚えないといけないので、ヒロとしても好都合だった。
実際は、ヒロが『とめどない強欲の指輪』の中身を全部売れば、一生遊んでも使い切れないお金が手に入るのだが、ヒロはその価値を知らないので、こう思うのも当然のことだった。
それに、少しアレクシスとシーターと話してみて、悪い人ではないということが分かったので、どうせ教わるならこの2人に教わるのがいいのではないかとも考えていた。
「それはまったく構わない。というか俺達にはヒロの荷物持ちとしての能力だけで、十分おつりがくる。」
アレクシスのヒロを見る目は優しかった。
「・・・では、お願いします。」
この決断は、たぶん間違いではないとヒロはアレクシスの優しい目を見て、なぜか確信を持てていた。
「それで、いつからパーティー組むの?」
「ヒロは、いつからできる?」
「えっと、冒険者ってどんな物を用意すればいいんですかね?」
アレクシスが冒険者として必須のアイテムをあげていくが、その中にヒロの持ってないものも含まれていた。
「それなら、この町唯一の雑貨屋においてあるわよ。」というジュリの言葉に、ヒロは、明日1日用意する時間が欲しいとアレクシスにお願いし、「わかった。では、明後日から行こう。」とアレクシスは返した。
「それじゃ、今日はこれくらいにしておきましょうか。」というジュリの言葉にアレクシスとヒロは頷き、席を立った。
「もう、帰るの、ジュリお姉ちゃん?」
「ええ、ご馳走様。」
「え~っと、エール5杯とホーンブルのステーキ14人前調理代あわせて銀貨8枚になります。」
メグの言葉にジュリがヒロに笑顔を向けた。
「・・・そうですよね。俺が払うんですよね。」
なんとなくそうだろうなと思っていたヒロは、素直に銀貨8枚を支払った。
アレクシスは、「自分とシーターの分は払う。」と言ったが、ヒロの手持ちの金額からしたら特に高いわけでもなく、懐に余裕のあるヒロはそれを断った。
「これから、いろいろ教えていただくので、そのお礼の先払いということでいいですよ。」というヒロに「それでは、今日は甘えさせてもらおう。」とアレクシスは素直にお礼を言って、酔っ払っているシーターを軽々とお姫様抱っこをして出て行った。
「まあ、頑張りなさい。」と食事のお礼など一切言わずにジュリは冒険者組合のカウンターへと戻っていった。
ヒロも、その態度にある意味清々しさを感じながら、自分の部屋へと歩いていった。
次話から主人公(みたいな人物)が別の人間に替わります。
主人公を決めてないというか異世界転移したギルド『パンプキン・サーカス』のメンバーに焦点を当てて書いていくつもりですので、読みにくかったら申し訳ありません。