表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/49

お伽噺の冒険者と竜

 竜の咆哮が轟く。


 耳をつんざく雄叫びは対話を拒否する意思を示しているように思えた。


「くっ!」 


 竜の太い前足が掲げられ、前へと振り下される。

 俺はシャミナの腕を引っ張り、横に飛んで破城鎚の如き一撃を回避。

 息をつく間もなく、振り下された右足が今度は水平へと振られていく。

 俺は反射的にシャミナの腰に手を回し抱え込み、今度は後ろへ飛び退く。

 竜の薙ぎ払いが目の前を通過すると同時に風圧で髪が流れる。

 直撃すれば致命傷間違いなしの一撃を眼前にし、冷や汗がどっとでた。


「シャミナ、戦おう」 


 今回は、問答無用の猛撃を紙一重で躱せたが、次も出来るとは限らない。

 迷いによる動きの鈍りは死を意味する。故に苦しくとも、ここは即断しなければならない!


「でも!」


 俺ほどに割り切れないシャミナが迷いを示す。

 そうしている間にも、黒い竜のさらなる攻撃が見舞われる。

 長い尾がしなり弧を描いて俺へと迫りくる。

 俺は地面を強く蹴ってさらに大きく後退しイスズズの尾撃を回避。


「話をするにしても、あいつを黙らせてからだ」 


 そうでないと、俺たちの方がやられる


「――分かった。戦いましょう」


 煮え切らない気持ちはあるだろうが、シャミナもようやく俺の意見に同意。

 方針が決まった。

 我儘な竜に仕置きだ!

 と思ったところで、イスズズの顎が開き大きな口の中が露わになる。

 口腔に青いゆらめきが顕れ一点に収束。外へ向かって放たれる。

 青のゆらめきが一条の帯となって俺たちの元に迫る。

 俺はシャミナを抱いたまま駆け出し、不可思議な青い奔流を回避。

 イスズズの首が振られ、青の息吹が逃げ回る俺を追い回す。

 背中が熱い。無軌道に疾走していると、青の息吹を受けた石畳みが溶け出しているのを目の端で確認。

青い火炎?  

 俺は熱を持った青い息吹を、火炎のようなものと判断。なぜ赤ではなく青なのかは分からないが、火炎であるならば対応のしようはある。


「あの炎はまかせて」


 俺と同じ判断をしたらしい、腕の中のシャミナが杖の先に魔法組成式を描く。 


「任せる!」


 俺は腕に力をこめ、抱えているシャミナを落とさないようにし、疾走を続ける。

 杖の先が蒼炎を吐き出すイスズズの口へ向けられると、シャミナの水系水魔法《水柱立檄(ニンフ―)》が発動。

 杖の先端から直径一メーテルあまりの水円が発生し、指向性を持った激流が円からイスズズの元へと放たれる。

 イスズズの青い炎を、反対属性である水系の魔法で封殺する算段だ。

 激流が蒼炎とぶつかる。


「なっ⁉」


 水の奔流によって炎の息吹を打ち消されると思った俺に衝撃。

 蒼炎は消えることなく、相性最悪であるはずの水の中を突き進んでいたのだ。


「あの青い炎は燃えることに空気を必要としていないの?」


 腕の中のシャミナも愕然としている。

 どうやら不可思議な青の炎は、俺の知る赤い炎とは違う原理で燃えているらしい。

 まだまだ力の一端に過ぎないかもしれないが、それでもイスズズが強大な力を持った竜であると推察するには充分だった。

 シャミナが再び魔法を紡ぎ、今度は土系石魔法《石壁(しゃく)隆起(じん)》を発動。青い息吹の射線に石の壁がそびえ立つ。 

完封出来ないのならせめて防御をしようというつもりらしい。 

 石壁がせり建つも、出来たそばから炎に炙られ溶解していく。この蒼炎はとんでもない熱をもっている!

 幾ばくかの時間が稼げ、その隙に俺とシャミナが分離。

 前後衛に別れるべく、俺はイスズズの元へ疾駆する。

 左手には最大攻撃を誇るが、その大きさ故に取り回しが効かない杭打ち機を顕現。危険を承知の上で、杭をイスズズへ突き立てようと、プラーナを弾倉にこめ撃鉄を起こす。

 駆け出す俺に向かってイスズズは息吹で対応。

 俺は進路を変えることなく突進し、炎が当たる直前に大きく上に跳ねる。

 竜となったイスズズの頭を超える高さにまで飛んだ俺が空中で彼女を見下ろす。

 そして空へ舞い上がった瞬間に、銀の指輪から剣を生成。プラーナを注ぎ込み片手剣を規格外の大きさを誇る大剣へと変形させる。

 視界には宙へ躍り出た俺に、息吹の照準を合わせようと首を伸ばすイスズズの姿。 

 俺は、再び青い息吹を吐き出そうとするイスズズの口に向かって、腕を引いて溜めを作ってから全力で大剣を投擲。

 俺の放った大剣が真っ直ぐイスズズの口へと向かっていく。

 迫る大刃を目前にし、の口内に集まっていた青いゆらめきが消える。

 イスズズは息吹を吐き出すことはせず、大きな口を開けて迫りくる凶器と対峙しようとしていた。

 豪胆なことに、イスズズは迫る長大剣に噛み付くつもりのようだ。

 特大の刃の先が竜の咢と激突。

 金属と竜の歯が噛みあい、辺りに甲高い音が辺りに響き渡る。


「シャミナ!」


 さらに間隙を開けずに俺が叫ぶ。


「いくわよ、リントウ!」


 俺の意図を察していた相棒がすぐに声を返す。

 自由落下し、地面に足が付いた瞬間、背中に圧力。

 風系風魔法《風破突波(ボレアーシ)》によりシャミナの持つ杖の先から風の波が発生し、竜の元へと俺を運んでいく。

 さらに自らも駆け出し、おまけに加護の力を全開にし、イスズズへと全力突進。

 自らの走りを加護が補助し、さらに相棒の風魔法が背中を推し進める。

 脚で石の地面を蹴り飛ばすように疾走すると、大気が割れ、白い波の尾が後ろへ流れていった。

 視界には俺の放った銀大剣を咥えているイスズズの姿。


「ぬううう!」


 黒い竜へ到達する直前に左腕を引き、杭を突きだす。

 俺の最大攻撃である、突進突きならぬ、とっ突きが竜の胴体に炸裂。

 硬い鱗の手応えを突き破り、肉の中へと杭が刺さった。


「るうおおおおおっ!」


 四本の指で引き鉄を引くと筒の中に押し込められていたプラーナが破裂。内部爆発の力が推進力に変わり、杭がさらに奥へと突き刺さる。


「グオオオオォ!」


 音の速さで撃ち抜かれたイスズズが首を振り乱して叫ぶ。

 ――――悪い、イスズズ。だがここで決めないと俺たちの方が負けてしまう!

 心の中で詫びを入れつつ、ここが勝負の決め所と踏んだ俺は右手を左の杭打機に添えて休む間もなくプラーナを流し込む。

 すると弾倉にさらなるプラーナが装填。すぐに引き鉄を引く。杭が竜の身体を抉る。

 さらにプラーナを装填。引き鉄を引く。杭が穿たれる。

 休むことなく装填。引き鉄を引く。杭が打ち出される。


「ぬおおおおおっ!」


 装填、引く、打ち貫く。装填引く貫く。装填貫く。

 竜の身体内部に左腕を押し込み掘削しつつ、容赦なく杭を連続して打ち出す。

 ここぞとばかりに、俺は何度も竜を打ち貫く。

 イスズズの反撃は怖いが、相棒の手助けを信じて今はやり続けるしかない。

 先の戦いにより血を流し過ぎた俺に、最初から長期戦という選択肢はないのだ。

 故に俺の手札でも最大の攻撃札である杭打ちを選び、短期決戦を挑むことにした。 


「リントウ、攻撃を止めて!」


 遮二無二なって杭を打ち込んでいると、シャミナの声が背中から届いた。

 はっとした俺は右腕を杭打ち機から放し、大きく息を吐き出す。

 目の前には大きな身体をぐったりと横たえているイスズズの姿があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ