前後対応万能型
「せい!」
俺は間髪入れず、振り上げていた片手剣で袈裟に斬りこむ。
間断なく攻めることで、相手に魔法を放つ僅かな隙すらも与えないようにするためだ。
俺の剣と拳と蹴りがイスズズを嵐の如く攻め立てる。
イスズズは涼しい顔で俺の、剣撃拳撃蹴撃の全てを捌いた。
錫杖が旋回し鈴が音を響くと、イスズズが舞の如き華麗な体捌きで俺の攻撃を躱し、時には受け流す。
怒涛の攻めも鉄壁の守りに塞がれ埒が明かない。魔法を封じることには成功したが、俺の攻撃が有効打を与えることもなかった。が、このまま膠着状態にはならない。
「リントウ!」
こちらは二人なのだ!
俺はシャミナの声に反応し、攻めを中断。すぐさま後ろに飛び退く。
刹那、イスズズの頭上に雷が落ちる。
俺が攻めている間に、シャミナが光系雷魔法《落雷壱束》を発動したのだ。
「いいぞ、シャミナ!」
紫電がイスズズを襲い、眩い光が辺りを照らす。
「こうも早く干渉結界を使わせるとは、やるではないか」
落雷はイスズズに当たる寸前のところで、見えない壁にぶつかり青い燐光を散らして消えていった。
だがイスズズの余裕は消えない。魔法に対する絶対防御があるからだろう。
「さっきから思っていたが偉そうだよな、イスズズ」
俺は言葉を交わしつつ、銅指輪を外し、ダマスカスハウルに重ねてプラーナを流し込む。
すると複合手甲の上、手首から肘にかけて黒筒が生成される。
「慢心していると、足元を掬われるはめになるぞ」
俺は左手を上げてイスズズを指差し――同時に黒筒にプラーナを注入。
「是非、足元とは言わずに私そのものをすくって欲しいものだ」
戦いの最中にあってもイスズズの笑みには屈託がなかった。
俺は筒手甲から伸びる引き鉄を人差し指で引く。引いて引きまくる!
応じるように筒の先から手裏剣が発射。指差したイスズズへ向かって回転する刃が飛燕の如く向かっていく。
俺は手強い怪物を相手にするつもりで、イスズズの笑顔に刃の驟雨で礼を届ける。
「風情のない攻撃だな」
イスズズが器用に手首を捻り返し、錫杖を円運動させる。
高速で回る錫杖が壁となり、俺の飛ばした手裏剣を落としていく。
旋回する錫杖に付いた鈴が鳴る音と、手裏剣が杖に弾かれる金属音が絡みあって輪唱し、無骨な音楽が鳴り響く。
「もとから戦いに赴きなどないだろう!」
俺は疾駆し、角度と距離を変えてさらに手裏剣を飛ばしまくる。
「言うとおりだな」
イスズズは身体の向きを変え俺の動きに対応していく。
そこへシャミナの土系石魔法《岩礫乱飛》が発動。
俺とイスズズを結ぶ線の反対側から岩石の群れが殺到する。
「む」
背後から迫る岩を察知したイスズズが再び干渉結界を展開。
岩の礫と刃の雨が音を立てて結界に弾かれていく。
遂に魔法と物理の両方を防ぐ鉄壁の防御結界が展開された。
この結界を破らないことには俺たちに勝ち目はない。
「どうした? 次の手を繰り出さないといずれ力尽きてしまうぞ」
結界を破ってみろと、錫杖に付いた鈴を鳴らして挑発してくるイスズズ。
「期待通りに繰り出してやるさ!」
俺はイスズズに向かって疾走。接近し、右手に持った片手剣にプラーナを注ぎ両手剣に変形させる。
「るううおお!」
両手持ちし、上段から斬り下す。
刃が結界とぶつかり青い火花が散っていく。
「残念。良い太刀筋だが、私の結界を破るには至らなかったようだな」
壁を破ろうと渾身の力で刃を押し当てると、青い燐光が激しく飛び散る。が、イスズズの言うとおり、俺の刃は結界を斬り裂くことは出来なかった――――今のところは。
俺は左手のダマスカスハウルにプラーナを注ぎ込む。
すると黒の装甲に刻まれていた赤青緑黄の四種の魔文字が浮かびあがり加護が発動。
身体にさらなる力が漲っていく。
「きれろおおおおおっ!」
俺は再び刃を振り上げ、さらに身体を大きく仰け反らせ、全身全霊の上段斬りをお見舞いしてやる。
両手剣と結界が再激突。青い光が弾けると、イスズズを覆う鉄壁だった壁が砕ける。
「なんとっ!」
驚きの声と共に、イスズズが後ろに飛び退き俺の剣を躱す。
完全には避けきれなかったらしく、艶やかな前髪が何本か空に舞った。
イスズズが着地した場所に、待ち構えていたシャミナの土系樹魔法《樹蔓絡身》が炸裂。
石畳みを割って萌芽した樹蔓がイスズズの足に絡みつき動きを封じる。
「さすが!」
見事な連携に思わず声が出る。
予め俺が結界を破る可能性を考慮し、イスズズの動きをある程度は予測していたからこそ、間髪入れずに魔法を極められたのだろう。
頼りになる相棒だ。
俺は足を封じられたイスズズへ追い討ちをかけるべく距離を詰める。と、
危機であるはずの敵は、なぜか不敵に笑っていた。
――――まずい!
俺は寒気を感じ、直前で急停止。さらに撓めた足をすぐに伸ばし後ろへ飛び退こうとする。
極度の緊張の中、研ぎ澄まされた意識の淵で景色がゆっくりと流れていく。
イスズズが左手に持っていた錫杖の先に手を添えたかと思うと蛇のように右手がうなり、流麗な動作で白刃が引き抜かれ、振るわれる。
飛び退く俺の眼前に美しい弧の斬撃が広がっていく。
錫杖に付いた鈴の音が、イスズズの居合に遅れて鳴る。
「ほう、今のも避けるか」
間一髪のところで、音さえ置きざりにした神速の抜刀術を躱した俺に、讃嘆の声が贈られる。
「まさか、仕込み杖だったとはな」
危なかった! 今の一振りは本当に死ぬかと思った。
どうやら鈴の付いた錫杖の先は鍔で、棒だった部分は鞘であったらしい。
鈍色に輝く真っ直ぐな片刃の剣は、どこかで見た刀という武器に似ていた。
「どうやら魔法だけじゃないみたいだな」
額に熱を感じ、手の甲で拭うとべっとりと血が付いていた。
「ここからは技と魔を併せて使わせてもらう。よしなに」
二本の足に絡みつく樹を錫杖刀で切断。剣呑な光がイスズズの瞳に宿る。
てっきり彼女は後衛だと思っていたが、どうやら俺の見立ては間違っていたらしい。
イスズズは前後両方をこなす万能型の相手であるようだ。
「おしゃべりが過ぎるわよ!」
会話の隙を逃さず、シャミナが魔法を発動。
イスズズの身体に霜が降りる。
水系氷魔法《氷結(ヨ―)霜包》によって顕れた霜がイスズズの身体を覆っていく。さらに霜が氷となって身体の自由を奪っていく。
「せっかくの戦いなのだ。味わい尽くそうではないか」
凍っていくイスズズが見る者を凍てつかせるような冷たい笑いを浮かべる。
すると、錫杖刀の柄にプラーナが集まり、刀身に焔が這っていく。
「魔法剣⁉」
炎を纏った錫杖刀が旋回すると、イスズズの身体を氷漬けにしようとしていた氷が消失してしまう。
鈴の音を響かせつつ、右手に錫杖刀を構えるイスズズ。赤い炎が刀の上でうなり、飛び散った火の粉が子鬼のように元気よく踊る。
この不思議な敵は魔法剣ならぬ魔法刀の使い手らしい。




