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同盟誕生

 リントウに触発された私は翌朝、アリスへ会いに彼女とレッシュの住む家と向かった。


「何か用かしら?」


 アリスは瞼を目でこすりながら、眠たそうな顔で私を出迎えた。


「実はお願いがあって来たの」

「……」


 私が話している間にも、こっくりこっくり船を漕ぐアリス。今にも床に倒れこんでそのまま眠りに就いてしまいそうだ。


「使い魔の造り方を教えてほしいのよ」


 アリスが眠り姫となる前に、手早く用件を告げる。

 昨夜リントウと話したことで、私にも閃きがあった。どうにもならない現状を打破するために、アリスへ教え請おうと思ったのだ。

 現在の私の知識と技術が通用しないのなら、通用しそうな別系統の技術を持つ人間に頼るしかない。

 アリスの力の一端しか私は知らない。だがその中には、天災ともいうべき破壊の力を持ち合わせた使い魔がいた。

 なので、アリスに教わって使い魔創造の技術を自分のものに出来れば、大きな成果となるはずだ。

 彼女を戦いに巻き込むのではなく、戦う術を教えてもらうだけなのだから、レッシュも怒ったりはしないだろう。たぶん。

 とにかく、なりふりかまわずに考えた結果、私はアリスを頼ることにしたのだ。


「なぜ?」


 眠気が醒めてきたらしいアリスの瞳が私を見つめる。


「リントウと一緒に戦う為には、今の私だと力不足なの」


 短い質問に偽り無く本音で答える。


 こちらがお願いしているのだから、私なりの礼儀は尽くす。


「そう。前から思っていたのだけど、あなたってリントウのことが好きなの?」

「え?」


 唐突な質問に身体が凍りつく。


「どうなの?」


 ごまかしは許さないとばかりに、無垢な瞳が私を見つめる。


「嫌いではない、かな」

「……」


 私の言葉に納得していないのか、アリスの視線は私へと降り注がれたままだった。


「……好き、よ」


 沈黙に耐えきれなくなった私は、気恥ずかしさを押し殺して答える。


「シャミナってば男の趣味が悪いのね」


 大きく息を吐き出し、やれやれと肩をすくめるアリス。

 レッシュのことが好きな貴方だけには言われたくない!

 と、喉元から声が出かかったが、なんとか堪える。


「そういうことなら教えてあげてもいいけど、一つだけ約束してもらえるかしら?」


 無表情なアリスが何を求めているのか、想像がつかない。


「うん」


 だが、何を要求されても断ることは出来ない。

 あんなに恥ずかしい質問に答えたのだから、私とてもう手ぶらで帰るわけにはいかないのだ。 


「私とレッシュの恋愛を温かく見守って」


 アリスの願いとは、私の決意をあざ笑うかのような、意表を衝くものだった。


「……ええ、もちろん」


 既に温かい目で見守っているつもりなのだけど。まあ、少し生温いかもしれないけれど……


「ふふ、同盟成立ね」


 静かに笑うアリス。

 交渉は成立。

 呆気にとられている間に、私は使い魔の造り方をアリスから教わることとなった。

 それにしても、私にリントウのことを好きかどうか聞いたことに意味はあったのだろうか?

 まあ、願望が叶ったのだからよしとしておこう。

 私はアリスの部屋へと招かれた。

 部屋の中はぬいぐるみでいっぱい。

 一見すると、なんとも少女子らしい部屋だ。が、ひょっとしたらこの全てが彼女の使い魔なのだと思うと印象はがらりと変わる。

 その場合、ここはアリスの部屋というより武器庫といた方が正しいだろう。


「モノに専用の魔法を注ぎ続けることで使い魔に仕立てるの。使い魔の元となるモノは、初心者の場合には長年愛用している道具なんかが良いわね」


 さっそく小さな先生による授業が始まった。


「なるほど」


 愛着がある道具の方が使い魔化し易いということか。


「それと、使い魔は主のプラーナを食べることで生命を宿し行動する。よく食べる子ほどに大きな力を持つわ」

「それなら私の場合は、使い魔は一匹にしておいた方が良さそうね」 


 多種多様な使い魔を持つアリスは羨ましいが、私のプラーナでは一つだけで精一杯だろう。


「そうね」


 アリスはリントウ以上に珍しい体質の持ち主だ。

 彼女は、プラーナが消費したそばから回復していくという特異体質なのだ。

 普通プラーナは、出し尽くしてしまえば半日は回復しない。

 だがアリスの場合は違う。奇跡の泉が枯れても、底から水が沸きだし、すぐにまたいっぱいになる。

 よって、無尽蔵に使い魔に餌を与え続けることの出来るアリスは、主として極めて優秀だといえるだろう。


「それじゃ、モノを使い魔に変える魔法の組成式を教えるわね」


 アリスは紙に丸を描き、円の中に式を描きこんでいった。


「ありがとう」


 私はアリスの描いた式を頭の中に叩き込む。


「覚えたら次は魔法の練習ね」

「はい」


 私は愛用の杖を振って教わった式を紡いでいく。

 杖の先が描いた軌跡が形を織り成し、まもなくして空中に組成式が完成。


「何かコツは?」


 ここから、プラーナをどのような形と順番で式に注ぐか助言を求める。

 それらの要素が魔法成否の要因となるのだ。


「さあ」


 が、天才肌である彼女は無意識のうちに最適な方法で式にプラーナを注いでいるらしい。

 教わる方としては大変なことこのうえない。


「とりあえずやってみるわね」


 私はこれまでの経験を頼りに、式にプラーナを流し込む。すると魔法が発動。せずに組成式が崩れてしまった。

 失敗だ。


「ふう、これは練習しないとね」


 だが、失敗は成功の素。

 何度か失敗を繰り返せば、そのうち成功するだろう。この程度の簡素な組成式なら一日あれば行けるかも。

 私はアリスの目の前で、モノを使い魔にする闇系変魔法《()()使役(ーイ)》の練習をし続けた。


「シャミナ、助言ではないけど、同盟を組んだ仲間として一つ為になる言葉を贈ってあげるわ」


 試行錯誤しながらプラーナを式に注ぐ私をじっと見つめていたアリスが、何かを思い出したようにふと言葉を発する。


「何かしら?」


 私は手を止めて聞き耳を立てる。

 もしかしたら、魔法成功の鍵となるような言葉が聞けるかもしれない。


「愛は強い」


 そんなわけがなかった。


「ありがとう」


 意味は良く分からないが、アリスなりの激励だと思うことにし、お礼を言っておく。

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