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決着

 石竜の狙いは、俺ではなく己の身体をたやすく切り裂いたシャミナだろう。


 というか――――もし俺が竜だったらシャミナを狙う!


 駆け出しながら、左手の人差し指から鉄指輪を抜き取り、ダマスカスハウルに重ねてプラーナを流し込む。 

 鉄の指輪が手甲に飲み込まれると、ダマスカスハウルから青ではなく灰色の光が放たれる。

 すると、くすんだ燐光に包まれた手甲が今度は銀剣ではなく鉄盾を生成。

 手甲の上に三十センチメーテル程の小盾が誕生した。

 俺は間髪いれずに盾が張り付いた左腕を地面に振り下ろす。

 拳が石畳を穿ち、地中へとめり込んでいく。


「はあああ!」


 腕が地に深く突き刺さったことを確認し、掛け声と共にプラーナを小盾に流し込む。

 すると小盾が盾となり、さらに巨大化し大盾となっていく。

 一方で、石竜の魔法組成式が完成。魔法を発動させようと大きく息を吸いこんでいた。 


 ――――まだだ!


 相手は化け物の王たる竜の亜種。

 そんな石竜が溜めを作って放つ攻撃。おそらく生半可なものではない。


 ――――だからもっと大きく分厚い盾を。


 ついに、対峙する竜の口から赤く輝く息吹が吐き出された。

 灼熱の奔流が俺とシャミナを飲み込もうと襲いかかってくる。

 俺は波濤のような竜の息吹に対抗すべく、さらなるプラーナを盾へと注ぐ。すると俺のプラーナに反応した大盾が一メーテルを超える壁盾となり、ついには盾という概念を飛び越えて、俺とシャミアを守る壁となった。

 獄炎の濁流に、俺の造り出した壁が立ちはだかる。

 石竜から放射される火の息吹が、壁の後ろにいる俺たちを焼き尽くそうとぶつかり、壁に殺到。

 竜が根を上げて攻撃を止めるのが先か。

 盾が焼け溶けて灰になるのが先か。


「根比べか、面白い」


 竜に我慢比べを挑もうとする己の行動に思わず笑みがこぼれてしまう。

 俺は造り出した壁にプラーナを注ぎ続け、焼けて爛れ溶け落ちそうになるそばから修復していく。

 一方で石竜は、邪魔な壁を燃やし尽くしてしまおうと、莫大なプラーナを魔法組成式に流し続け、炎の波を絶えさせないようにしている模様。 

 奇跡の力の源であるプラーナ。果たして、どちらが先に空になるかな?

 石竜のプラーナが先に底を尽けば、俺たちは生きながらえる。

 逆に俺のプラーナが奴より早く枯渇すれば、焼き殺されてしまうだろう。

 勝ち負け双方のもたらす結果が予測出来たところで……


「シャミナ、俺から離れて」


 万が一、石竜との我慢比べに負けてしまった場合を考慮し、相棒に避難を勧める。


「いえ、私はここから動かないわよ」

 

 シャミアが即答で拒否。


「む」


 彼女の声音から、意志は固そうだと判断。

 危ない橋を渡るのは俺だけでいいのだが……


「だってリントウはこの程度の竜になんか負けないでしょう?」

 

 挑発するような声音でシャミナが俺に問いかける。

 そしてその一言は、俺の心を点火させる。

 ――――長年一緒に冒険を続ける相棒の期待に、俺は応えたい!  


「当たり前だ!」


 俄然、力が漲ってくる。

 プラーナの量だけなら、きっと俺は竜にだって負けはしない。


「なら私は勝った時のことだけを考え、次の一手を準備しておく。リントウ、負けるな」


 肝の据わった相棒が厳しくも優しい言葉を告げる。


「ああ、任せろ」


 激励を受け取った俺は、相棒の命を預かるという大任を果たすべく目を閉じて意識を集中。

 どうせ壁に塞がれて前が見えないのだから、プラーナを絞り出すことに全神経を集中させるのだ。


「グルウウウゥッ!」


 石竜の咆哮が遺跡に鳴り響くと、さらなる熱波が押し寄せてくる。火炎の勢いがさらに増し劫火が壁を融解させているのだろう。


「うおおおおおっ!」


 俺は猛る炎に対抗すべく、迸るプラーナをダマスカスハウルにつぎ込み、溶け出していく壁を再構築。

 破壊と再生の力がぶつかり鬩ぎあう。

「ガアアアアアッ!」

 ひときわ大きい石竜の叫びが鳴り響く。

 ――――同時に均衡した状態が終わりを迎えた。

 石竜が根を上げ、必殺の吐息を切らしたのだ。

 根競べは俺の勝ちだ!


「決めてちょうだい! リントウ」


 言葉の通り俺を信じ、魔法を紡ぎ終えたらしいシャミナが背中越しに声を掛けてくる。 

 彼女の台詞から、次に発動する魔法が何であるか俺には汲み取ることが出来た。


「了解! 止めは剣で」


 今度は戦いの決着をつけるべ、壁を鉄指輪の状態に戻しつつ、矢の如く駆け出す。

 颶風を纏って全力疾走。石竜に真っ直ぐ向かっていく。

 肉薄する俺めがけて、石竜の長い尾が振られる。


「はっ!」


 鞭のようにしなる尾の殺傷範囲から、斜め前へと高く跳躍して逃れていく。

 空中へ飛び出した俺は銀剣を生成、片手から両手に持ち直し、大上段に構える。 


「シャミナ!」 


 相棒に合図を送りつつ、自分は猛烈な勢いでプラーナを剣へと注ぎこむ。

 俺の意思とプラーナに反応した剣が、横に伸びた鍔の先を延長させ、肩幅にせまる長さを形成。

 ――――異常な長さとなった鍔に合わせて剣身が再構築されていくと、刃渡りが片手剣の三倍である三メーテルを超えるほどになった。

 片手剣が一瞬にして規格外の大型剣に変形したのだ。

 竜を狩るのだから、これくらい出鱈目な武器がちょうどいい!


「リントウいくわよ!」


 相棒の声と共に、俺が握りしめる鉄塊の如き大剣にシャミナの風系風魔法<()()付加(タチ)>が掛けられる。

 風刃付加によって風の加護を宿した大剣の刃が緑の燐光を帯びていく。


「はああああっ!」 


 俺のプラーナを喰らって異様な風貌となった大剣が、風魔法によって切れ味も増した。

 長大かつ鋭い刃を振り上げた俺が竜へと迫っていく。

 そこで石竜の瞳に初めて動揺が見てとれた。 

 対応すべく、竜はすぐさま長い首を伸ばして真上から迫る俺に向かって火の玉を吐き出す。

 さしもの怪物も只ならぬ巨剣の一振りを脅威に感じたらしい。

 迎撃の火弾が俺の身体に直撃。全身に炎が巡る。

 

 が、問題はない――――何故なら、燃えていても、剣は振れるのだ!

 

 俺は身体が焼ける苦痛を無視し、力を込めて剣を振り下す。

 兜割りならぬ石竜割りが炸裂。

 竜の脳天から首、胴と上から下に両断していく。

 石竜は断末魔の声を挙げることすらなく、まっぷたつに引き裂かれていった。


「ふう」


 壊れた石の像と成り果てた竜を見つめながらほっと息。

 相手の息の根が止まったことを確認にしたところで、両手に握った剣を銀の指輪へと形態を戻す。 


「あちち」


 俺の身体を包んでいた炎は既に消えたが、火傷の痛みで肌がひりつく。


「まったく、いつも無茶ばっかりするのだから」


 ため息を吐きながらシャミナが歩み寄ってくる。

 目の前で立ち止まると、光系光魔法<()()柔波(クニ)>を俺に向かって発動。

 白い光に照らされると、火傷の痛みが引いていった。


「いつもの無茶なら、それはもう普通ってことだな」


 無茶をするのが日常ならば、それはもはや当たり前のことなのだ。 


「リントウ。いつも心配している私の気持ちも少しは考えてちょうだい」


 シャミナの紺碧色の瞳がまっすぐに俺を見つめる。


「……悪かったよ。シャミナ」  


 咎めるような彼女の視線。

 長年の経験からここは謝った方が良いと判断しすぐに行動に移す。


「素直でよろしい」   


 シャミナがゆっくり頷くと、方まである亜麻色の髪が微かに揺れる。

 そして小さな口が僅かに緩むと、慎ましい笑顔が生まれたのだった。

 


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