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石の竜

 朽ちかけた遺跡を画布にして、業火の球が紅を描いていく。


「危害を加える気はないのだけれど、見逃してくれない、かな?」


 號っ!

 轟く咆哮が鼓膜に響く。

 ささやかな俺の願いは、石竜の雄叫びによって無残にかき消された。 

 古びた未踏の遺跡の奥。幾つかの仕掛けを乗り越えた先に待っていたのは、秘宝の守護者である石の竜だった。


「リントウ、石の塊と意思の疎通を図ろうとするのはもう諦めて!」


 相棒が声に怒りと呆れを滲ませ、俺をどやしつける。

 察するまでもなく、ご機嫌は斜め。 

 一方で、俺と対峙するのは全身が石の鱗で覆われている、蜥蜴のような、鰐のような顔をした竜。


「グルルッルル!」

 

 巨大な顎が開き、俺の説得など聞く価値もないとばかりに竜が緋色の玉を次々と放っていく。

 石の竜だけあって、こちらはこちらで石頭の頑固野郎らしい。


「やむなし、か」 


 夜の闇を煌々と照らす火の塊を、縦横無尽に疾駆して躱す。

 俺は家一軒ほどの大きさもある石竜を見上げながら、意思を固めた。


「シャミナ戦おう!」


 本来は遺跡の奥に眠るお宝に用があるだけなのだが、残念ながら行く手を阻むこの石竜は無視できそうにない。 

 石竜の太い前足が俺を補足し振り下される。

 走る速度を上げ、大鎚の如き一撃をぎりぎりで回避。

 地面の石畳みが砕かれると同時に、風圧で前髪が靡く。

 敵はやる気満々。


「言われなくとも、もうとっくにそのつもりよ!」


 俺は首を振って後方に位置をとる相棒の様子を確認。 

 言葉の通り、シャミナは既に魔法の準備を始めていた。 

 というわけで少し訂正。

 敵だけでなく、相棒もとっくにやる気満々。

 少し遅れたが、俺自身も二者に倣い思考を切り替える。

 戦闘意識に火が点き、プラーナが漲っていく。

 無用な戦いは避けるべきというのが俺の信条ではある。


 ――――が、やるとなったからには全霊を尽くす! 


 俺は石竜の周りを疾走しながら、左親指に嵌めている銀の指輪を抜き取る。

 次いで左腕に装着している複合手甲<ダマスカスハウル>に、今しがた指から抜き取った銀指輪を重ね――滾らせたプラーナを注ぎ込んでいく。

 瞬間、俺のプラーナを注入された指輪が手甲に吸い込まれると、玲瓏神秘な青白い光が放射され、暗がりを照らしていった。

 幾何学的な紋様の光を放った後にダマスカスハウルが生み出したのは、刃の無い柄と鍔だけの剣。

 俺は右手で顕現した柄を握り、手甲の先から引き抜くと同時にプラーナを注ぎ込んでいく。

 すると金属が反応し。鍔から鈍色に輝く刃が形成され、瞬く間に刃渡り一メーテル程の片手剣が出来上がった。

 俺は複合手甲<ダマスカスハウル>によって生み出された銀剣を握り、石竜に向かって疾駆。 


「グウウウ!」


 火球の嵐という、このうえない熱烈な歓迎を避けながら石竜に接近していく。

 竜が銀剣の攻撃範囲内に入った刹那、待っていましたとばかりに、柱の太さを持つ石竜の右前足が水平に薙ぎ払われる。

 俺は五振りの短剣の如き石竜の爪を、手にしたばかりの剣で迎え撃つ。


「ふんぬぬ!」


 破城鎚の質量と陣風の速度を持った石竜の一撃と、俺の剣がかちあい火花を散らす。

 力任せに足を振り切ろうとする石竜。俺はそうはさせまいと踏ん張り、力を込めて逆に竜の足を押し斬ろうと試みる。

 だがしかし、刃は石の肌に浅く食い込むだけで切断するには至らない。


 ――――硬い!


 手応えから、石竜の皮膚は想像以上に堅牢であり、物理攻撃との相性も良くないことに気付く。

 となれば、ここは……


「シャミナ!」


 相棒の出番だ。


「まかせて!」


 凛とした声に反応し、俺は視線だけを横に向けてシャミナの様子を確認。

 右手に持った杖の先には、既に緑色の魔法組成式が描かれていた。

 ――魔法が来る!

 瞬時にそう判断した俺は、石竜との力比べを中断。

 石竜の右足を剣の腹で受け止め、風を受ける柳の如く力を抜き、暴風の一撃を謹んでその身に受ける。

 すると押し潰すような重い薙ぎ払いに、俺の身体が容赦なく吹き飛ばされていく。

 大砲の弾さながらに勢いよく空中に放り出され、嵐に翻弄される葉っぱのように俺の身体が宙を舞う。

 が、飛ばされながらもなんとか姿勢を制御。身体を折りたたみ、宙返りに捻りを加えて地面に着地。

 

「いくわよ!」

 

 ――――と同時にシャミアの魔法が発動。

 

 弧を描く風の刃が石竜に向かって放たれる。

 風系風魔法<疾風(シル)()()>が発動したのだ。

 石竜は己に向かってくる風の凶器に気が付くと、魔法を紡ぐと同時に背中の翼を身体の前で重ね合わせ、風の一刃に備えた。

 シャミアの放った弧を描く風の刃と、石竜が瞬時に展開した石壁がまず激突。

 鋭利な刃が石壁を切り裂き突破し、後ろに控えた石竜の翼を斬りにかかる。

 風の刃が石竜の翼を切断。したところで風の刃は大気へと溶け込んで消えていった。

 竜の身体から翼が離れ、重々しい音をたてて地面に落ちていく。


「グオオオオオオッ!」


 翼を失った怒りからか、けたたましく鳴き喚く石竜。

 石の瞳が憤怒の赤い輝きを宿すと、石竜の大きな口元に魔法組成式が描かれ始めた。


 ――――大きいのが来る!


 そう判断した俺は、すぐに石竜の視線を一身に浴びるシャミナの前へと駆け出していった。



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