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第3話:お仕事するのっ!

 ユーフィのデビューライブから一夜明け、執務室(楽屋)には一ヶ月ぶりに四天王全員が揃っていた。

 四人が囲んでいる机には、今朝の新聞が集められて並んでいる。


 「やっぱりどの新聞も一面で昨日のライブについて取り上げてるね」


 机に広げた各社の朝刊を覗きこみながらロザリーは楽しそうだ。

 どの新聞にも、一面にはステージ上で歌っているユーフィの写真がデカデカと掲載されている。覗きこんだユーフィは顔を引きつらせながら、潰れたカエルのような呻き声をこぼした。


 「おおー、この写真よう撮れとんなー。ほれ」

 「や、やめてください!」

 「えー、恥ずかしがらんでもえーやん。かわいいで?」


 コレットが皆に見えるように持ちあげた新聞には、バッチリとカメラ目線でポーズを決めたユーフィが載っていた。まさにプロカメラマンによる珠玉の一枚であったが、恥ずかしさに耐えきれなかったユーフィによりコレットの手から即座に回収される。

 隣に座っているロザリーが「買わなきゃ……」と呟いていたがユーフィは聞かなかったことにした。


 「そうそう、ユーフィちゃんはまだユウさんに会っていませんわよね?」

 「ユウさんですか? ……会ってないと思います」


 エリーゼの口から出てきた名前について記憶を探ってみたが思い当たる人物はいなかった。そもそも、この世界では四天王と魔王くらいしか今のところ知り合いと呼べる人はいない。


 「ユウさんっていうのはね、私たちのマネージャーさんなんだよ!」

 「ユウ・ノゥって言うんやで」


 ユウさんとは四天王のマネージャーらしい。名前からしてすごく有能そうである。


 「すぐにユウさんが来ると思いますから、ユウさんが来たら今日のお仕事を確認するといいですわ」

 「そ、それって『本日は○○時から××で会食、その後△△へ移動し□□時からの食事会に出席となっております』みたいなやつですか!」

 「え、ええ。まあ、そんな感じですわ。というかその予定、食べてばかりですわね」

 「すごい! かっこいい!」


 普通のサラリーマンだったユーフィは、マネージャーが付くなどまるで芸能人みたいだと興奮した。三人はユーフィがいきなり喜んだので驚いたが、子どもらしくはしゃいでいるユーフィを微笑ましく見つめていた。

 その時、執務室のドアをノックする音が響き、四人の視線が自然とドアの方へ集まった。


 「失礼します」


 スーツに身を包んだ背の高い女性がドアを開けて入ってくる。

 すごい! なんか動きに無駄が全然ない! と一連の動きを眺めていたユーフィは感動した。スーツをびしりと着こなしたその姿から溢れ出す、仕事できますオーラ。この人が有能マネージャーのユウさんか、と理解する。


 「初めまして、ユーフィ様。私、四天王の皆様のマネージャーを任されております、ユウ・ノゥと申します。よろしくお願いします」

 「は、初めましてユーフィです。こちらこそよろしくお願いします、ユウさん」


 こっちへやって来たユウさんの丁寧な挨拶に、慌ててユーフィも立ち上がり対応する。

 彼女を見上げながら、背が高くてカッコイイなあ……、とユーフィは羨ましく思った。170cm近くあるんじゃないだろうか。


 ――ちなみにユーフィの身長は139cmということが昨日の衣装合わせで判明している。


 「本日の予定は皆様、主に取材と撮影となっております。特にユーフィ様は不慣れなうえ数も多く大変だとは思いますが、私もできる限りサポート致しますので頑張りましょう」


 ユウさんによると新生四天王始動ということで、しばらくは各メンバーへのインタビューや写真撮影でスケジュールが埋まっているとのこと。新メンバーが入ったということもあって、他の三人もグッズなどをユーフィと合わせて新しく作り直すらしい。部下(ファン)たちの信仰力が試されそうだ。


 午前中は撮影だというので、皆で連れだって下の階にあるという撮影スタジオに移動した。

 この魔王城はライブステージや撮影スタジオが完備されているが、もし勇者が魔王を倒しにやって来たら色々と大丈夫なのだろうか――、心配になってくる。

 撮影が始まるとユーフィはまるで着せ替え人形のように様々な衣装を着せられて、カメラの前でポーズをとったり笑ったり上目遣いで見つめたりさせられたので、心身ともにへとへとになっていた。

 三人とは違い水着撮影がなかったことだけは救いであったが、自分は水着撮影しなくていいのかとユウさんに確認すると「まだです。ここは、敢えてじらします」という戦略的な言葉が返って来たので、近いうちに着ることになりそうである。救いはなかった。


 「もう無理ー。疲れたー、死ぬー」


 午前の撮影が終わり、一度執務室に帰って昼休みになるとユーフィは机に突っ伏した。どうもこの体になってから、体力も見た目相応になったようで長時間の立ちっぱなしは中々にきついものがある。


 「お疲れ様、ユーフィちゃん。お茶でも飲んで元気だして」

 「あ、ありがとうございます。いただきます」


 ロザリーが淹れてくれた紅茶を一口飲む。口の中に香りと甘みが広がり、少し気分がすっきりした。


 「午後からは取材やから座ったままやし、ちょっとは楽なんちゃうかなー」

 「そうだといいんですが……。どんなこと聞かれるんでしょうか」

 「さあな~。ま、何聞かれても思ったこと正直に答えたらえーねん」


 実にコレットらしい単純明快なスタンスである。受け答えなど、事前にある程度決めておかなくてもいいのだろうか――。


 「みんなユーフィちゃんがどんな子なのか知りたいと思ってるはずだから、変に飾ったりせずに正直に答えていいと思うよ!」

 「それに、変なことは聞かれたりしないと思いますし。そのあたりは、ユウさんがしっかり相手の方と打ち合わせをしてくれているはずですわ」


 なるほど。難しく考えなくても大丈夫そうだな、とユーフィは安心した。

 取材はこの部屋で行うらしく、しばらくしてユウさんが記者の人を連れてやって来た。

 お互いに挨拶を交わして取材が始まったが、特に緊張することもなく順調に進んでいった。相手の記者が聞き上手ということもあって、単純なユーフィはすっかりごきげんである。

 ただ、「プロフィールの139cmは計測ミスで本当は140cm以上あるんです!」という訴えが、ユウさんによって棄却されてしまったことは不満であったが……。


 そうして、今日の予定を全てこなした後、ユーフィたちは執務室でのんびりとくつろいでいた。

 ――明日もきっと忙しいんだろうな。そんなことを考えていると、いつの間にか隣にユウさんが立っていたことに気付く。


 「公式サイトが更新されました。ユーフィ様の写真やプロフィールなどが追加されています」


 ユウさんがそう言いながらノートサイズくらいの電子端末を見せてくれた。

 端末を覗きこめば、確かに四天王の公式サイトと思われるものにユーフィの名前やプロフィールが追加され、午前中に撮った写真もいくつか掲載されている。

 他の三人も興味深そうにページを見ていたが、ユーフィはむしろ電子端末本体に興味を惹かれた。ちょっと触らせてもらうと、タブレットPCのように色々できるという訳ではなく、あくまでネットの閲覧や連絡ツールとしての機能しかないようだった。

 こっちに来てから、あまりゆっくりと話せるような時間の余裕がなかったので、丁度いい機会だと思い今まで気になっていたことを聞いてみることにした。


 「こっちの世界ってかなり技術が進んでますよね……。昨日のライブ設備とか、今日の撮影機材も。その端末とかどうなってるんですか?」


 遠隔地へのライブビューイングなども行っていたようだし、機能が限られているとはいえネット接続できる携帯端末まであるのだ。魔王や勇者がいるファンタジー世界にしては現代的すぎる気がする。


 「そうですね――。ユーフィ様のいた世界ではどうだったかは分かりませんが、こちらでは魔法を利用しています」


 ユウさんによると、ライブビューイングは遠見の魔法を利用した技術だし、ネットは意思疎通の魔法を応用しているとのこと。ちなみにライブビューイングは昨日のライブが初の試みだったらしい。


 ――つまり、魔法に頼った強引な力技で何とかしてるってことか。


 「じゃあ、魔法を使いこなせる方が珍しい人間たちの国ではどうなってるんですか?」

 「彼らの国ではこういった技術はありませんね。食事や衛生など基本的な生活水準はそこまで変わりませんがこういった技術の面では、はっきり言ってかなりの差があるでしょう」


 彼らはあまり魔法が使えませんから――、とユウさんは締めくくった。


 やはり魔法に頼らないで誰にでも利用できる科学技術として、このようなものが発達しているわけではないようだ。人間側ではもう少し中世風な感じの生活なのかもしれない。


 「お、ユーフィのスレ発見~!」

 「――え?」


 端末をいじっていたコレットの言葉が気になり覗いてみると、どこかで見た様なデザインの掲示板サイトに、『【四天王】新四天王ユーフィちゃんは139cmかわいい【Part21】』というタイトルのスレッドがあった。


 ――本当にここは異世界なんだろうか、とユーフィは頭を抱えた。


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