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第1話:召喚するのっ!

 魔王城にある四天王専用の執務室(楽屋)では、三人の少女がティータイムを楽しんでいた。その三人は全員が紛うことなき、とびきりの美少女であり三者三様の魅力を備えていた。


 腰まで伸びた青い髪を持つ少女は女性的な魅力にあふれた体つきをしており、三人の中では一番大人びて落ち着いた雰囲気を感じさせる。

 対して、肩上までの短くまとまった赤髪に狼のような獣耳をもつ獣人の少女は健康的で活発そうである。

 最後に、三人の中で一番年下であろう少女は金色の髪をツインテールにまとめた、まさに正統派美少女といった感じであった。

 しかし、そんな美少女だらけのティータイムという夢のような空間には、どこか思い詰めた様な重苦しい空気がながれていた――。


 「……さて、そろそろなんとかしないといけませんわね」


 青い髪の少女が物憂げに呟く。豊満な体つきも相まって妙に艶めかしい。


 「そうは言うてもこの一ヶ月間、探しても誰も見つからんかったやん。エリーゼはなんかアテあるんか?」


 赤い髪の獣耳を持つ少女がその言葉に反応し、青いロングヘアーの少女に聞き返した。


 「ありませんわ……。コレットはないんですの?」

 「んなもん、あったらとっくに連れて来とる」


 赤い髪の少女――コレット――はお手上げだと言わんばかりに肩をすくめてエリーゼと呼ばれた青い髪の少女の問いに答えた。エリーゼは「その通りですわね……」と呟くとため息を飲み込むように紅茶を飲みほした。


 「まあ、はよなんとかせなアカンってのは確かやけどな。ビッチィが辞めてから魔王様の落ち込み様とか半端ないし」

 「魔王様は特にビッチィちゃん推しでしたから……。仕方ないですわ」


 彼女たちを悩ましている問題とは、ひと月ほど前に四天王を退任したビッチィちゃんの後任問題である。

 ビッチィちゃんは、男性とお城みたいなホテルから腕を組んで出てくる写真を週刊誌に掲載され、それを発端に爛れた男性関係が芋づる式に明らかになって引退を余儀無くされたのである。

 ビッチィちゃんが処女だと信じて疑わなかった部下(ファン)たちのショックは凄まじく、四天王の中でも特にビッチィちゃんを推していた魔王様の落ち込みっぷりは世界の終わりを告げられたかの様であった。

 その魔王様は「こんな思いをするのならスライムやひのきの棒に生まれたかった」と血を吐くように呟いたあと、自室に引き籠っている――。

 『ビッチィ・ショック』の傷を癒し、魔王軍を立て直すためにもできるだけ早く新たな四天王を見つけることが必要であった。しかし、四天王にふさわしい美貌と魅力を持つ者は、そう簡単に見つかるものではない。

 四天王(アイドル)とは魔王軍(オタクたち)の力の源である。何万もの魔族を夢中にさせ、この子たちのために死んでも良いと思わせるほどの魅力を持った者でないと四天王になることはできないのだ。

 

 「ロザリーは何かいい案はありませんの?」


 エリーゼが今まで沈黙を守っていた金髪の少女に問いかける。

 別に彼女は普段から口数が少ないというわけではない。それがここまで何かを考え込んでいるかのように一言も喋っていない。そのことが気になったエリーゼは、ロザリーには何かしらの案があるのではないかと聞いてみたのだ。


 「……ん~っと、多分ね、ビッチィちゃんの後任ってなると、きっと世界中探しても見つからないと思うんだ」


 そう話したロザリーの言葉に、他の二人は心を見透かされたような気分になった。もちろん必死に探してはいたが、心のどこかではそう思っている部分があったのだ。

 ビッチィちゃんは確かにビッチではあったが、彼女の魅力は間違いなく本物だった。その彼女の後任など誰に務まるのか――。もういっそのことビッチィちゃんに戻ってきてもらった方がマシなのではないかと思い始めていたくらいである。それくらいにビッチィちゃんの人気と魅力は絶対的であった。ビッチだったが。


 「いや、だからって諦めるわけにもいかんやろ――」

 「うん。だから、この世界を探しても見つからないなら、別の世界を探せばいいんじゃないかなって」

 

 そうは言っても後任探しを諦めるわけにもいかないだろうと言うコレットに対し、ロザリーは一つの考えを提示する。それはこの世界にいないなら別世界で探せばいいんじゃないという至極簡潔なものであった。

 『別の世界から探す』という言葉が意味するものは――。


 「――『召喚』ですの?」


 エリーゼがその答えを口にする。

 『召喚』とは、この世界とは別の世界から生物を呼び込む儀式魔法であり、人間が行う『勇者召喚』が最も有名である。

 この魔法を発動させるためには数十人分の膨大な魔力に加え、何千、何万もの『想いの力』が必要になる。したがって、この魔法は主に人間が勇者を召喚する際のみに使われるのが通例である。

 というよりもその発動条件から勇者の召喚くらいでしか成功しないのだ。

 どうしようもなく追い詰められ、戦う力のない無力な人間たちの救世主誕生を願う共通した想いがあるからこそ救世主である勇者の召喚が成功するのである。

 対して魔族は個人の力が非常に強い。戦えずに祈るだけの無力な者は存在しない。

 そうなると『召喚』に必要な『想いの力』が存在しないため、この魔法が成功することは本来なら絶対にありえないのだ。

 そう、本来であれば――。


 「今のこの状況ならきっと成功すると思う。ビッチィちゃんの事件で魔王様をはじめ数万人がショックでふさぎこんでる。そして、彼らの想いは一つ。裏切られ傷ついた心を癒してくれる新たな四天王。魔力に関しては人間たちなら数十人必要かもしれないけど、私たちならこの三人でも十分足りるはずだよ」

 「なるほどな。いけそうやん!」

 「……試してみる価値はありますわね」


 ロザリーの説明にコレットとエリーゼがうなずく。

 普段なら成功など絶対にあり得ないが、確かに今の状況ならば話は別だ。ビッチィちゃんの影響が大きかったからこそ『想いの力』は大きくなる。

 魔王軍の想いはただ一つにまとまっている。


 そうと決まれば早速『召喚』である。この一ヶ月悩み続けた問題の解決策がわかったのだ。今までくすぶっていた分、行動は早い。

 文献に従い『召喚』の魔法陣を描き、その周りに三人が立つ。


 「――じゃあ、いくよ?」


 ロザリーの確認に二人が無言で頷く。

 三人の魔力が魔法陣に流し込まれ、陣が光を放ち始める。やがて目を開けていられないほどの激しい光が生まれ、世界は光に包まれた。


 ――この時、絶望の淵に沈んでいた魔族たちは自身が救われたことを感じ取った。


 『召喚』の結果は使われた『想いの力』を通してその想いを持った者たちに伝わるのだ。

 ある者はもう二度と使わないだろうと封印していた伝説の光剣(サイリウム)を再び手に立ち上がったし、自室で首を吊る準備をしていた魔王は「生きねば」と涙を流して崩れ落ちた。


 「ど、どうなったん――」


 光の奔流がおさまり、目を開けたコレットが一点を見つめて言葉をなくした。他の二人も呼吸を忘れたかのように、ただそこを見つめている。

 

 ――光が消えた魔法陣の中心には全裸の天使がいた。

 

 歳は10歳ほどであろうか。不安げにきょろきょろと周りを見渡している。頭を動かすたびに柔らかそうな銀色の髪が躍った。


 「え、えっと、言葉はわかる? あの、あなたのお名前は?」


 見とれていた三人の中でいち早くロザリーが正気に戻ると、銀髪の天使に話しかける。

 声をかけられた彼女は初めてロザリーたちに気付いたようにビクリと動きを止めて、その吸い込まれそうな翠色の目で三人を見上げると、何か考え込むように俯いた後、ぽつりと呟いた。


 「――ユーフィ」


 この日、後に世界のアイドルとなるユーフィがこの世界に召喚されたのである――。


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