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第14話:元四天王とお話しするのっ!

 前略

 四天王の皆様、元気にお過ごしでしょうか。

 ボクは今、人間たちの国でお姫様のメイドをやっています。

 いろいろあったけどボクは元気です。

 ただ、今夜、とうとう大人の階段を上ってしまうかもしれま――。


 「もう♡ そんなに緊張しなくても、まだ食べたりしないわよぉ♡」

 「ひゃ、ひゃいっ!」


 元四天王のビッチィが訪ねてきたのだが、ユーフィの部屋は使用人用の小さな部屋のため、来客用のイスなどあるわけもなく、2人してベットに座ることになった。

 夜にえっちなお姉さんと2人きりでベットに並んで座っている、という状況にユーフィはガッチガチに緊張していたが、ビッチィちゃんは余裕の表情で楽しそうにしている。

 悲しいほどの経験値(意味深)の差であった――。


 「えっと、ビッチィさんって、どうして四天王を辞めて、ここでメイドしてるんですか?」

 「え? アタシはお城で働いてるわけじゃないわよ? この服は、ここまで来るのにメイドの恰好の方が怪しまれないから、ちょっと借りただ~け♡」


 なんかスパイみたいでかっこいい……。えっちだし、不○子ちゃんかな?


 「あと、四天王を辞めた理由は、ん~、ユーフィちゃんにはちょーっと早いかもしれないんだけどぉ、なんというか部下の人たちと()()()なりすぎちゃって♡ それで大騒ぎになっちゃったのよねぇ……」

 「あっ――」


 スキャンダルがあったというのは聞いていたが、そういう内容だったのか。

 しかも、『部下の人たち』ってことは複数人とってこと? えちえち四天王すぎるでしょ。


 「――あらぁ♡ どういうことかわかっちゃってるかんじぃ? 意外とおませさぁん♡ せっかくだからぁ、お姉さんがいろいろ教えてあげましょうか?」

 「エッッッッッッッッ!」


 蠱惑的な笑みを浮かべた経験豊富なお姉さんに押し倒されたユーフィは、奇声を上げて硬直した。

 ビッチィはそんなユーフィを見下ろして「なんか反応が魔王様みたい」とクスクス笑っていたが、何かを思い出したように真面目な顔になると、口を開いた。


 「ってぇ、ユーフィちゃんの反応がおもしろくて、本題を忘れてたわ。5日後にお姫様の誕生日パーティがあるでしょう? そのタイミングで逃げ出しなさいな」

 「――確かにパーティはありますけど。でも、警備も厳重になりますし、そんな簡単に逃げられないですよ」


 押し倒してきていたビッチィが上からどいたので、ユーフィは起き上がって座り直しながら答えた。

 一国の姫の記念すべき誕生日パーティなのだ。当然、警備は厳しくなるはずなので逃げられるわけがない。

 そう主張するユーフィに対し、ビッチィは「甘いわねぇ♡」と首を振る――。


 「あなたの主であるお姫様を含めて、王族や主要なメンバーは会場から動けないし、当日は城に入るのは難しくても外に出るのは簡単なはずよ。それこそ、一応はメイドなんだからぁ、足りなくなった食材の買い出しを頼まれたとか言って堂々と出ていけばいいんじゃなぁい?」

 「な、なるほど……!」

 「城から出られさえすれば、救出組と合流できるから、後はもう心配いらないわね♡」

 「救出組? 誰が来るんですか?」


 助けに来てくれるというのが嬉しい反面、なんか囚われのヒロインみたいで恥ずかしくなってきた。

 とりあえず『殲滅組』じゃなくて一安心。

 王国を滅ぼしてやろうとか言って魔王様が乗り込んできたら大惨事が起きるので。


 「ユウさんと、四天王の子たち。それと、それぞれの親衛隊のナンバー1が救出組として来るらしいわ」

 「『親衛隊ナンバー1』!? なにそれ、かっこいい……!」


 それって、ユーフィ軍序列1位『殺戮者』(ディストラクション)みたいなアレ!? 


 そういう、組織の強さ序列ランクみたいなのが大好きなユーフィは大興奮した。

 1位が最強と思わせといて、実は第0位とかもいたりするんでしょ!?


 「ユーフィちゃんは何もしらないのねぇ……。ファンクラブの会員番号1番の人のことよぉ。あ、ちなみに魔王様は0番ね♡」

 「そんなオチだと思いましたよっ!」


 そんなの絶対、ユーフィ軍ファンクラブ会員番号No.1『ザ・紳士(ロリコン)』とかが来るじゃん!


 まったく役に立たなさそう。むしろ他のメンバーの足を引っ張りそうだと、ユーフィは頭が痛くなってきた。


 「……というか、ビッチィさんはリアージュに潜入してるオータクのスパイみたいな立場なんですか? 今回はすごく助かりましたけど」

 「違うわよぉ。別にどっちの味方ってわけじゃないし。どっちかっていうとぉ、アタシとしてはこっち(リアージュ)の雰囲気の方が合ってるからね。だからってオータクを滅ぼそうとか思ってないけどぉ」


 たしかに、いろいろと開放的だし、彼女にとってはリアージュ王国の方が合っているのかもしれないな――、とユーフィは思った。


 「ま、今回は特別サービス♡ なんか勇者くんが勘違いで暴走しちゃっただけみたいだし、このままだとキレた魔王様が乗り込んできて全面戦争になりそうだったから。アタシは、オータクにもリアージュにも仲のいい人がいるし、どっちかが滅んじゃうのなんて嫌じゃない」

 「……そうですね」


 ビッチィの言葉を聞いたユーフィには、こっちに来てから仲良くなったクラリス姫のことが浮かんでいた――。


 もし魔族側が勝利したら、どうなっちゃうんだろう……。やっぱり争ってるのって嫌だな……。


 珍しくユーフィはしんみりした。しんみりユーフィである。


 「そういう意味では、アタシたちって似てるかもしれないわね♡ ユーフィちゃんにも、こっちに大事な人ができたわけだし。まさかお姫様を落とすなんて、ユーフィちゃん、幼いのに魔性の女ねぇ♡」

 「そ、そんなんじゃないですっ!」


 しんみりユーフィ終了のお知らせ。


 「昔は、お互い仲よくやってたらしいんだけどねぇ……。当時の四天王がこっちでライブしてたっていう話もあるし」

 「へえ……。それは初めて聞きました。それなのに、なんで仲違いしちゃったんでしょうね」


 今でこそ両国は争っているが、昔は四天王のライブで一緒に盛り上がっていた仲だったらしい。

 やはり音楽は国境を越えるということなのだろうか――。


 「さあねぇ、アタシたちが生まれるずっと前のことだし。でも、きっかけは案外つまらないことかもしれないわよ? 推しに対する解釈違いとか」

 「さすがに、そんなくだらない理由で戦争なんてしないですよ~。……たぶん」


 魔王軍を見ていると、ないと言い切れないのがおそろしいところである。


 ――「やっぱ、Aちゃん×Bちゃんは最高や」

 ――「いやAちゃん攻めはないでしょ。Bちゃん×Aちゃんでしょ常識的に考えて」

 ――「「は?」」


 みたいなやりとりが、当時の魔王と王の間であったのかもしれないと思うと、いろんな意味で泣けてくる。


 「でも、やっぱりアタシは『カワイイは世界を救う』と思うの♡ きっとユーフィちゃんのかわいさは世界を平和にするわ!」

 「いやいや、それならビッチィさんの方がよっぽど魅力的じゃないですか。ボクにはそんなのないですから」


 ユーフィ的には『元男の自分にそんなもの(カワイイ)はない』という意味だったのだが、客観的にはつるぺたロリがセクシーお姉さんをうらやましがっているようにしか見えなかった――。


 「ん~……、じゃあアタシがやってたみたいにぃ、ユーフィちゃんもファンを罵ってあげると喜ぶんじゃない? 試しに、ざぁーこ♡ざぁーこ♡ とか言ってみたら?」

 「言・い・ま・せ・ん!」

 「え~。絶対役に立つと思うわよぉ? ほら、アタシのマネをして――」


 元四天王の先輩によるメスガキ講座(夜間コース)を受講するはめになったユーフィは、翌朝寝過ごしてしまい、クラリス姫にお仕置き(わからせ)されたのだった――


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